足緒高校 歴史研究部にようこそ!
翠風スクールロード
私こと
小高い山に囲まれた、北関東の
その西側に建つ県立
向かい風にセーラー服の襟をなびかせ、新緑に包まれた車通りの少ない道をのぼっていきます。
そんなさわやかな朝の時間。しかし二人の間に交わされていたのは、例によって例の事件。
「まあ…それは…傷ついただろうね、
立ちこぎしながらヒーヒー言ってる私と違い、変速機つきの自転車に乗るビリ子は、とても涼しい顔をしています。なんと小憎らしいことでしょう。
「勇気を出して告白したのに、よりによって無言だよ。ボクだったらショックで立ち直れないよ」
「でも…、フッたわけじゃないし。ただ返事しなかっただけだもん…」
「アスカがそのつもりでも、遥平君がフラれたと思っていたら一緒じゃない?」
あまりの正論に、ぐうの音も出ません。
「遥平君は思い込みが強いからね。フラれるとさえ思ってなかったかも。無言で態度保留されるなんて、想定外だったと思うよ」
「遥平君のこと、よく知ってるんだ」
ビリ子はほんの少しだけ口をつぐんで、
「小学校から同じクラスだったし。多少はね」
「ふうん…」
ビリ子の言う通り、遙平君は、私の曖昧なリアクションのせいで傷ついたかもしれない。だけど私だって、無傷だったわけではありません。
ビリ子に言われるまでもなく、ちゃんと返事ができなかったことを、私はずっと悔やんでいました。
その場でOKと言えなくても、自分の本心をうまく伝えられたのなら、この通学路もビリ子とではなく、遥平君と走っていたかもしれません。
だけど、あの時の私は、その方法を思いつけませんでした。
今でもどうすれば良かったのか、分かりません。
遙平君に嫌われてしまったかもしれないと思うと、胸がキューッと苦しくなります。
この気持ちをどうすればいいのか。もてあましてしまった私は、今日もビリ子に
県道と交わる交差点で、赤信号に止められました。
この交差点を渡れば、目指す学校はあと少し。
桜の花びらが、春風に乗って舞っています。きっと、高校の桜並木から運ばれてきているのでしょう。
「でね、今度はアスカの方から…」
「うん…」
と、今後について話している私たちの隣に、スポーティな自転車が止まりました。確か、クロスバイクという種類の自転車だったはず。
あまり他人に聞かれたくない話です。思わず会話も途切れます。
クロスバイクに乗っているのは、フチ無しメガネをかけた学ラン男子。風に撫でられてきたのか、髪はちょっとラフなカンジ。スラッとした長い脚が、彼と自転車を支えていました。
なんとなしに顔を向けると、彼もこちらにチラッと視線を向けてきました。
瞬間、彼は身体を反らし、「あれぇ?」という声をあげました。
「恋愛に悩んでた窓際女子だ!」
え? 知り合い?
小首をかしげると、「オレだよ、オレ!」と詐欺師みたいな自己アピール。
言われてみれば、どこかで見たことのある顔です。
「隣の席じゃないか。
ああ、そうでした。メガネをかけているから、分かりませんでした。
「学校始まってもう三日目だよ、隣の席の顔くらい覚えてよ」
「あなただって私のこと、『恋愛に悩んでた窓際女子』って言ったでしょ?」
夏梅君の偉そうな抗議に、私もつい言い返してしまいました。
だけど、
「オレはちゃんと、キミの名前覚えてるよ」
彼は自信ありげに、ニッと笑いました。
「窓際トト子ちゃんだよね?」
「ちがうわ!!」
信号が青に変わると、「アッハハ、また教室で~!」と笑い声をあげ、夏梅君のクロスバイクは去っていきました。
なんと、なれなれしい男でしょう。ムッときました。
「でもさ、夏梅君って、ちょっといいかも?」
私たちは、同時にペダルをこぎはじめました。
「気にいったの? ビリ子?」
「そういうわけじゃないけど。ああいうタイプの男子って、女子からの人気があがりそうじゃない?」
「どこが? あんなヤツ!」
「ほら」
ビリ子がピッと、私の顔を指さしました。
「そんなに親しくないはずのアスカに、『あんなヤツ』って言わせてる」
何かいけない事を言ったのかも。思わず手で口をふさいでしまいました。
「フフン~」
それ以上言葉をつむぐことなく、ビリ子は機嫌よさそうに鼻歌交じりにペダルをこいでいます。してやったり、とでも思っているのでしょう。
目指す校門は、もう少しです。
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