第12話 「お前は俺が守るから、大丈夫」

調理場にて。

突然にその機会は、訪れる。

ほんとうに、突然に。



「聞いてくれ!たった今、ウエスト軍の偵察隊が押し寄せてきている!もう一度言うぞ、あくまでだ。こっちが全員で出れば、必ず勝てる。急いで出陣の準備をしろ!」



いつもは軽快な余裕にあふれている、イースト軍騎士長、ミラベル。

今は厳しい表情に包まれている。

私は悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえた。

だが、周りは。


「またかあー・・・」

「今度こそ死んじゃうかも・・・」

「しんどいなぁ」


___慣れている。

直感的にそう感じた。

アストが言っていた通り、この世界では戦争が絶えないのだ。

そして、そんな世界で生きていくうちに。


自分が死ぬことを、恐れなくなる。


ぞわっとした。

___私は怖いよ。そんな感情に慣れたくもない。

スレーズが走り寄ってきた。

その姿は装備状態だ。

手には双剣。

私も剣を抜こうとした。

だ、が。


「剣が__ない!?」


いかにも事件っぽい台詞を口走る。


_____真実はいつも一つ!!


どこかで聞いたようなフレーズが耳の奥でこだまする。

___いやいや、ふざけてる場合じゃない。

だが、私はその≪真実≫に気づきつつある。

___うん、確かに真実は一つですね。


「境界線__!!」


頭を抱えながらばかばかと絶叫する。


「どうしましたフレイア!?」


「剣が部屋なの!取りにいかないと!」


「ええー!?」


ピンク色の髪が揺れた。

___この子を引き留めていちゃいけない。スレーズは前線組なんだから。


「ごめんスレーズ、先行ってて!」


「でも・・・っ」


「だいじょーぶ、私なら。迷子になんかならないよ」


「でも一人になっちゃうと狙われるんです!遠隔の魔法なんかだったら・・・」


「大丈夫だって!ほら、スレーズがいないとイースト軍のみんなが困っちゃうんだよ?はやく行かないと!」


背中を押す。

スレーズはなおも逡巡するようだったが、やがてこくんと頷いた。


「できるだけ早く来てください。フレイアだって、重要戦力なんですからね!」


「なぁに言ってんの!スレーズのほうが倍強いんだから!じゃあ急いで行くね!」


走れ。

階段を夢中で駆け上がる。

___もう、ばかばかばか。

過去の自分を呪う。

そうでもしないと、もはや泣きそうだからだ。

怖い。

ひとりは、怖い。


私は、この感情をとてもよく知っている気がする。


「フレイア!」


不意に誰かが名前を呼ぶ声。

フィール。


「ふぃーっ・・・」

「アホ!」


気が付くと、引き寄せられていて。

心臓がとくんと鳴って。


「ほんとアホっ。どんだけ心配したか・・・部屋に剣があるんだから・・・」

「うん・・・ごめん・・・ほんとアホだった・・・」

「フレイア」

「?」



「死ぬなよ」



「フィール・・・」


のミッションだ。いいか、まだまだここに来たばっかなんだ。こんな序盤で死ぬわけにはいかねーよな」


「・・・うんっ」


彼は笑った。

見たものを安心させる、平静な笑み。


「お前は俺が守るから、大丈夫」



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