第11話 わずかな自信

「あの、フレイアさん、まだっすか?」


「ちょ、ちょっと待っ・・・」


「いっつまで選んでるんだよ」


「女子にとっては色だって大事なのーっ!」


見かねたように店員さんが声をかけてきた。


「あのぉー、その色お似合いですよ?とっても。髪の色とよくお映えして」


お映えってなんだよ《お》映えって。

と思いつつ、私は叫んだ。


「じゃあ、これでいいです!!」


「は、はい。お買い上げありがとうございますぅ・・・」


すっかり縮こまっている店員さん+フィールを一瞥、ふぅっと息を吐き出す。

まあ、これ以上悩んでいても永遠に決まらなかったと思うのでべつにいいんだけどさ!と思いながら私はその装備が追加されたストレージを見つめた。

恐る恐るタップ。

装備だけは瞬間着用できるようになっていた。


しゅわんっ。


気泡がはじけるような音が重なるように二つ響き。

目を開けた時には、私はオレンジ系統の一式に包まれていた。

隣の彼といえば。


「・・・なんか黒くない?」


「そう?みんなこんな感じだって。・・・いいじゃんそれ」


若干俯き加減でそう言ってくるので、恥ずかしさが倍増する。

彼の背中をばぁんっとはたきながら私も顔を背けた。

顔が熱い。


「ど、どうせ褒めるんだったら、きちんとはっきり可愛いとか言いなさいよね!こっちまで気恥ずかしいわよっ」


「す、すいません・・・でも俺にはハードル高すぎるって言いますか・・・」


「もう、べつにいいわよ。それより、ずーっと気分いい感じ!今だったらなんでもできる気がするわ。ね、アムプレ発動のコツ教えてよ」


「コツぅ?うーん、、、ちょっと構えてみてよ」


「え、あ、うん・・・」


言われるがまま、そろそろと構える。

すると、すぐさま叱責が飛んできた。


「緩いな」


「ええ?」


「んー、なんていうかさぁ、アムプレ・・・アームプレモーションっていうくらいなんだからさ、プレモーションが大事なんだよ。もうちょっと腕あげて・・・ん、それで直角。そうそうそ!そっから技が立ち上がるのを感じたら、それに身を任せる感じ。そしたら体が勝手に動くから」


「ええー?」


技の・・・立ち上がり。

どうすればいいのか分からず、つい彼の顔を見てしまう。

すると、口が動いた。


_____自信。


一番大切なのは__自信を持つこと。

彼の意識が私の中に入ってくるようだった。


深呼吸。


大丈夫。


__私、今なら出来る。


「__シッ!!」


鋭い気合い。

躍動感。

システムアシストが働き、右手が半ば勝手に動く。


びゅんっ。


風を切る音。

気が付いた時には、もう動きは止まっていた。

表せない高揚感。


「ね、ねえ!今もしかしてだけど私、発動できてた!?」


「あ、ああ・・・」


フィールの困惑したような声。


「・・・ゃぃ・・・」


「え?」


「速い」


「速い??」


「ん・・・初めてだとは思えないよ。あれが基本技なんてありえないくらい速い。やっぱお前剣技のほうが向いてるよフレイア!」


「・・・あはは、そうかなぁー。でも、私たった今決めたよ!」


「なに?」


いつだって人間は欲張りなんだ。

それであとで堕ちたりするけれど、私はそうはならない自信がある。

自分でも笑ってしまう。

お前がかよ?って。

でも、今できた夢があるの。



「私、クレスティングになりたい」



___クレセント。

直訳、三日月。


「くれす、てぃんぐ?そんな単語あったっけ?」


「英語には無いと思うけど、でもアストが言ってたじゃん。剣と魔法を両方使える人のこと。ほら・・・普通は剣のスキルを上げると魔法スキルは上がりにくくなっちゃうんでしょ?」


「ああ、まあそうみたいだな」


「でも見てよこれ」


自分のウィンドウを見せる。

この事実は、自分も昨日見つけたばかりだった。


「な、なんだこれ!?」


魔法スキルが、異常に高い。

熟練度が1000でコンプリートなのに対し、今471なのだ。


「ふ、フレイアが魔法使ったのって、あの鏡出しただけじゃなかったのか!?」


「うん、、、なんだけど、きっと最初から高かったんだよ。だからあんなに容易く成功しちゃったんだ」


「ま、マジっすか・・・」


「えへへー」


「この世界の仕組みって心底訳わかんねー・・・」


「それは、私たちが≪ゲンジツセカイ≫に戻れた時に聞いてみよーね!」


「・・・ああ、そうだな」


フィールは閑雅な笑みを浮かべると頷いた。

私もそれに納得したようにうなずき返す。

すると、フィールが自らの剣を取り出した。


「な、なにすんの?」


「ちょっと見てみたい」


「なにを?」


彼の剣が淡く光った。

・・・嘘でしょ、と思う暇もなく。

その刃は、フィールの腕を切断し、かけた。


「きゃああぁぁっ!!」


私は盛大な悲鳴を上げる。

この世界は負傷してもしびれに似た痛みが走るだけなのだが、それでも見ているこちらがそこの部分が痛くなりそうだ。


「ば、ばかなの!?その剣超スペック高いんだよ!?」


「だいじょぶだって。だって俺らHPバカ高いんだから。ほら、一割弱しか減ってない」


「一割もでしょぉーっ!ちょっと待ってよ・・・」


慌てて昨日暗記したばかりの回復魔法を思い出す。

自分のレイピアを取り出し、刀身をそっと近づける。


詠唱。


彼の傷口がみるみるうちに塞がっていく。

結構な上級魔法なのだが、失敗ファンブルはしなかった。

それもこれも、なぜか異常に高いスキル値のおかげだ。


「おお・・・」


「もう、勝手なことしないでよね!!ほんとに・・・ほんとに怖かったんだから!」


本心である。

フィールは苦笑いすると、ありがとうと言った。

私はそれで少し機嫌を直すと、剣を構える。


アームプレモーション〈クリア・コメット〉。

〈ブルーム・アフェクト〉より少し淡いアクアブルーの軌跡を残して、剣が躍った。

5連撃である。

私はいくらか得意な気分でフィールを見た。


「・・・はは・・・すごいっすね・・・」


「でしょ?ありがとうフィール、コツ掴んだよっ」


「、、そりゃよかった。俺も安心するよ。隣にそんな強いやつがいたら、さ」


「えへへー」


私はほにゃっと笑うと、彼の背中を押すようにして歩き始めた。

もうすぐ日が暮れる。


「今日はスレーズと食事当番なんだ」


「へー。フレイアが作ったのだけすぐ分かりそうだな」


「それは、下手だからっていう意味?」


「さあ、どうかな」


「あ、失礼なーっ。私も料理位できるわよ!」


「はは、じゃあフレイアの作ったのとスレーズが作ったの、食べ比べてみたいな」


「う、、それはダメ」


「自信あるんじゃねーのかよ」


笑い声が、夕日に溶けていく。



___こんな日が、ずっと続くと思っていた。





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