第7話 その笑顔、本心?
小鳥のさえずり。
瞼裏に侵入してくるあたたかな光。
___もう少し、寝ていたい。
そう思い、寝返りを打つ。
だが、それは許されないらしい。
「・・・イア、フレイアってば」
誰かが名前を呼ぶ声がする。
「もう、うるさいって・・・ば、、!?」
至近距離に、顔。
「うきゃああぁ!?」
「ちょ、しずかに!!」
口を抑え込まれ、黙るしかない状況。
目の前にこんなかっこいい顔があって、落ち着いていれるかよ!!
内心そう喚くが、手を離された時にはその感情は薄れていた。
視界に、不意に黄色い髪が映った。
___黄色?
「ちょ、ちょっとタンマ!!」
「ええ?」
「私、自分の顔知らない!」
「はあ?」
「ちょっと、コマンドリスト貸してっ」
「は、はあ・・・」
この世界には【魔法】も存在するらしい。
それは複数の単語で構成されており、それは【コマンド】と呼ばれる。
自身の剣を型に合わせて掲げると、魔法が発動される。
私はアストからもらったリストにざっと目を走らせた。
「あった・・・鏡」
「え、え・・・」
フィールの困惑した声を聞き流し、私は床に置いてあったレイピアを取った。
切っ先を左の掌に当て、詠唱する。
つっかえつっかえ。
___ああ、絶対発動しないなぁ。
でも、思い出す。
スレーズの言葉。
___アームウイッチクラフトに大切なのは、イメージ力です。発動したい魔法、つくりあげたいものを強くイメージすることが大きなリソースになるんです。
そうだ。
失敗するって思ってるから失敗するんだ。
イメージ。
鏡・・・
たった五個の単語を、どれだけ真剣に詠唱するか。
「___エイクリング、ミラー!」
剣が発光する。
切っ先から、きらきらした光の粉が鏡を作り出していく。
フィールはもちろん、私でさえもその現象を固唾をのんで見つめた。
やがて完璧な鏡ができあがり、私はそっとそれに触れた。
そして、自分の顔を覗き込む。
そこに映っていたのは、黄色い髪を肩より少し長く伸ばし、後ろをバレッタで留めた、情けない顔をした女の子だった。
「う、うわ・・・不良だ私・・・」
「あ、アホか。この世界でそんなこと関係あるかよ。俺はいいと思うけど、その色?山吹色って感じ」
「なんかよくわかんない例えするなぁ・・・ってか、フィール・・・」
あることに気づき、私は俯いた。
彼も似たような仕草をしている。
「・・・夢なんかじゃなかったね・・・」
なんだか苦しい。
___私には、フィールの気持ちは深く理解してあげられないんだ。記憶を失った私には、君の気持ちはわからない・・・。
暗く後ろめたい思考にとらわれていると、頭にぽんっと片手が乗った。
顔を上げると、気のせいか少し赤い顔。
「そんな顔しなくていいよ。なんかフレイアのそういう顔って似合わないから」
「ちょ、何よそれ!?」
こぶしを振り上げると、彼は笑った。
でも、その笑みは私はもうはっきり信じられない。
___その笑顔、本心?
そう問いかけてみたい気持ちはもちろんある。
だが、怖い。
その瞬間、彼が泣き出しでもしてしまったら。
彼にかける言葉を、私は持たない。
すべてが軽い言葉になってしまう気がする。
そんな乱雑した思考から切り離すのは、いつだって目の前の少年で。
「ほら、下行こうぜ。朝食覚めちゃうよ」
私はその言葉に返笑すると、ゆっくりと階段を降り始めた。
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