第4話 「それってひどくないですか!?」
私は、右斜め前に立つ少年の姿を少し不思議な気持ちとともに見つめた。
___この人も、同じ仲間なんだ。でも、ちっとも動揺してないように見える。
そんなことを考えながら歩いていると、突然視界が彼の服に覆われた、と思ったら激突してしまった、ようだ。
「ふぁ・・・ごめ」
「おおー、すげぇ」
謝罪の言葉と感動の言葉が重なり。
私の目の前に草原が広がり。
・・・草原・・・??
「どこ、ここ・・・」
おもわず呟くと、フィールは親指で後ろを指さした。
言われるがままに後ろを振り向くと、そこにはどこかのお城かと思えるほどに大きな宮殿が聳え立っていた。
「城なんだろうよ」
フィールが私の思考を読み取ったように言った。
草原の一番端には道がいくつも分かれ、そこに店などが出ているようだ。
そして。
「もう一つお城がある・・・」
似たような宮殿が霧に包まれてぼんやりと見える。
相当遠いが、そことここの間はどうなっているのだろうか。
望遠鏡でも使ってよく観察してみたいなぁ、この後ろにあるお城と何が違うのか探してみたいなあ・・・などと考えていると、フィールが肩をすくめた。
「まあ、そのことはあとであいつら二人にでも聞いてみりゃいいさ。それより、ちょっと来てよ」
フィールが草原の片隅を指さした。
よく見れば草原にはちらほらと人がいる。
広すぎてわからなかった。
これでは、
木陰に座り込むと、フィールが慣れた手つきでウィンドウを出した。
あわてて私も同じものを出す。
先ほどと同じように可視モードにすると、なんとなくようやく人心地がついた。
お隣さんのウィンドウを見ると、名前の横には(16)という文字。
ちなみに、自分も16だった。
年齢だと思われるが、少し戦慄が蘇る。
16歳なのだとしたら、自分のこれまでの16年間の記憶はどこに消えたのだ。
「・・・で、どうする?」
フィールがそう聞いてきた。
が、意味が理解できない。
「どうする、って・・・」
「現実に帰るにはどうすればいいのかってこと」
思考がまたしても真っ白になる。
「げん、じつ・・・?ここが現実でしょ?」
「は?」
フィールが間抜けな声を出す。
しかし、数秒後にまじめで、どこか心配そうな目を向けてきた。
「え・・・?ほんとに記憶ないの?まさか!」
「・・・・・・じゃあ、フィールはあるの・・・?」
「え、うん、まあ。ってかほんとに!?現実の名前もわかんないの?」
「・・・・・」
「俺は・・・
完璧に理解不能。
カタカナじゃないの?
なんで?
なんで私だけ?
それってひどくないですか神様____!!!
と内心絶叫する。
「わ、私は・・・ほんとうに・・・」
「ご、ごめん・・・うー、参ったな。どうしよ・・・でも、俺達ってステータスバカ抜けてるらしいぜ」
「ステータス?」
「ああ。STR、AGIとか、そのほか全部がバカみたいに高いらしい。もちろんHPも」
「そ、っか・・・この世界の人たちも?」
「うん。さっきアストたちから聞いた。めっちゃ奇声あげてた」
奇声という単語からすれば、青の人のほうだろう。
アスト、という人名を脳裏辞書に書きとめる。
「で・・・現実は、HPなんてないよ。寿命が来たら死ぬ。剣もないし・・・っていってもわかんないよなぁ・・・」
その通り!
そう思い大きくうなずく。
そして、私は唯一覚えている記憶っぽいものをひねり出した。
「ねえ、男の子でも泣く時ってあるのかな?」
「はあ?」
フィールが少し頬を赤らめた。
「何言って・・・」
「私、何かの夢を見てた気がするんだ・・・すごく恐かった。でも、その中にもあったかいものはあった気がする。そん中で・・・なんか男の子が私の横で泣いてた気がするんだよね・・・」
「へ、へえ・・・。誰だろうな、、でも、、男子だって泣きたくなる時はあると思うけど?」
「ふぅん・・・」
「俺だってさ・・・なんか、バスケの中学最後の試合で負けてめっちゃ泣いた気がする。それも幼馴染の女子の隣で・・・・・・ん・・・?」
「ど、どうかした?」
「俺ってあの時誰の隣にいたんだろ・・・思い出せないな・・・」
「・・・君にも記憶が欠けてるところはあるみたいだね」
「でも俺達って最初、草原の真ん中に寝てたらしいんだよ・・・手取り合って」
「へ!?」
「だ、か、ら!フレイアも元は現実世界の人間で、俺と知り合いで、なんかの知り合いで一緒にここに飛ばされた。俺は現実のお前のことだけを忘れてる。フレイアはすべての記憶を剥奪・・・ああわけわかんなくなってきた」
「私も・・・でも、たぶん知り合いだったのは間違いないと思うんだぁ」
「なんで?」
フィールが首をかしげる。
私は少し笑い、少し頬を赤らめながら言った。
「私、こう見えても人見知りなほうなんだ。だから、こうやって男子と話せるのなんてほんと稀っていうか・・・あれ?」
同じように違和感に気付いたのだろう、フィールも眉をひそめた。
「その、人見知りっていう情報どっから出てきたんだ?それに、なんで君は言葉を知ってるんだ・・・?言い出したらキリがないけど・・・」
心臓がどくんと跳ねる。
・・・そうだ。
なんで私、しゃべれるんだろう?
大切な過去を失っただけなんて、そんなの・・・。
私が俯くと、フィールのぶつぶつという独り言が聞こえた。
「なんかのゲームの中か・・・?失われた記憶のかけらを取り戻せたらゲームクリア!みたいな・・・ってか、俺もすべて覚えてるわけじゃなさそうだよな・・・。フレイアのことも記憶にないし・・・。そうだったら、ここに来た経緯もわかるはずだしなぁ・・・」
「そうだね!!」
いきなり賛同を得られて驚いたのだろう、フィールがこちらを向く。
私の中に、少しだけ何かの感慨がうずまいていた。
「深さは違っても、広く見ればリアルワールドでの記憶を失った仲間だよ!ね?それにほら、なんかの夢かもしれないよっ、明日になればすべてはっきりする!」
「・・・ああ、そうだな・・・」
精一杯の励ましの言葉だったのだが、フィールの目に浮かんだわずかな憂いは消え去ることはなかった。
だが、彼は無理矢理にそれを消し去ると、笑顔を作った。
その表情はあくまで自然だった。
それとも、私は気付けなかったのか。
彼が無理やり押し込めた感情に。
急に立ち上がったフィールは、背中につるされた片手剣を抜き取った。
「ワールド・オフ・スレイヴっていうんだ。ちょっと離れてて」
そのあきらかに重そうな剣を振るつもりなのか。
そう思ったが、反対する暇もなく、彼は剣を大上段に構えた。
すると。
剣が、青く光っている。
蒼穹の輝きを煌めかせながら剣が___
「フィール!」
よく考えれば、私が彼の名前を呼ぶのはこれが初めてだったかもしれない。
だが、そんなことに気を使う暇もなく。
フィールの目がこちらを向き。
エフェクトが一層輝き。
アシストが強制中断されようとし。
不格好になった彼は大きくバランスを崩すと。
柔らかそうな草むらに思いきり顔を突っ込んだ。
剣が主を失い、くるくると回転しながら宙を舞い、わたしのすぐそばに突き立った。
彼の叫び声が響き渡った。
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