第2話
月のない、昏い夜だった。街の喧騒からはぐれたかのような廃ビルには、当然だが電灯が灯っておらず、暗い。不夜城であるこの街であっても、他の明かりが十分に入り込んでいるとは言いづらく、そこに何があるのか、朧げに見えるか見えないかと言ったところだ。
その廃ビルから少し離れたところに、"設楽ヶ原運輸" と書かれたコンテナを積んだトラックが停車している。その中は、コンテナ内部と思えないほど豪奢に飾られており、二人の人間が佇んでいた。
その片割れである、いわゆるゴシックロリータファッションに身を包み、髪型はツインドリルと、ここだけを切り取れば、何かの演劇でも行われるかと思ってしまいそうな格好の少女が言う。
「
氷のように冷たい調子である。鈴のように可愛らしい声ではあるのだが、それがかえって冷たさを際立たせている。
"爺"と呼ばれた初老の男、こちらは"執事"と言えば、ほぼ100%の人が思い描く服装で、総白髪をオールバックにし、左の目には眼帯をつけている。その彼が応えて言う。
「はっ。今日の道具は前に携行なさったAR-15カスタムか、この間のシューターズカップで優勝したシューターのハンドガンを手掛けたガンスミスによる、1911系のタクティカルカスタムです。こちらはお嬢様に合わせてございます。いずれになさいますか、燐お嬢様」
「ふむ……どちらも捨てがたいが……」
お嬢様、と呼ばれた少女、
「今日のお召し物ですと、AR-15ではチェストリグの運用に支障があるやも知れませぬな」
「それはそうだな。よし、1911カスタムを持て」
「かしこまりました」
"爺"はうやうやしく頭を下げると、コンテナの壁面に備え付けてある棚|(これも中々に凝った細工の逸品である)からアタッシェケースを取り出した。
「こちらでございます」
アタッシェケースを開き、燐に差し出す。中には銃の形に切り抜かれたスポンジと、その切り抜きにすっぽりと1911カスタムが収まっている。
燐は1911カスタムを取り出すと、弾丸が装填されていないことを確認し、カチャカチャと少し触り始めた。
「ふむ」
一通りの動作に引っかかるところはまったくない。グリップも手に吸い付くようである。グリップセフティは
「これのサプレッサーは?」
「こちらにSilencerCo.のOspreyをご用意しました」
「うむ」
燐は満足げに頷く。性能と言うのもあるが、殊の外あのサプレッサーの見た目を好んでいた。
"爺"からサプレッサーを受け取ると、バレルに取り付けておく。
フレームにはレイルがあったが、ライトでわざわざこちらの居場所を教えてやる必要もない。今回は使わなくていいだろう。
シューティングマッチの優勝者の銃を手がけるだけあって、各所にその腕の良さを感じられた。
「よし、いいな」
燐は一言つぶやくと、気合を入れるためか、自分の顔を張った。
「お嬢様、はしたのうございますよ」
"爺"がそれを咎める。
「許せ、これがなくては仕事が始まらんのだ」
悪びれたふうもなく、燐は答えると、弾倉を3本手にした。いずれも装弾済みである。一つをかざして"爺"に尋ねる。
「どれも重めの
「さようでございます」
ニコリとしながら"爺"が返す。燐はそれを見て、満足そうにこちらはニヤリと笑った。
燐は3本の
燐の胸部は小さい方ではない。まぁ大きい、と断言できるほどでもないのも事実ではあるが。
とは言え、そもそも今日の服装は胸元に大きなリボンがつけられている。この位置ではチェストリグだと、マガジンを抜くときに支障が出たかもしれない。やはりにAR-15はしなくて正解だった、と内心ほくそ笑む。
燐は頭にヘッドギアを装着する。暗視装置を運用するためだ。無線はもうちょっと
「よし、それでは始めるとしよう」
「行ってらっしゃいませ」
深々とお辞儀をする"爺"。それを背に、燐は廃ビルに向かっていくのだった。
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