設楽ヶ原燐はお嬢様である
たままる
第1話
昨夜のうちに降った雨が名残惜しそうに木々にとどまり、朝の光をキラキラと反射していた。
それを眺めながら、優雅に紅茶を飲む少女の姿がある。髪型はいわゆるツインドリルだが、小さな顔にぱっちりとした瞳、小さな唇が可憐さを際立たせている。
少女はシンプルなデザインの制服に身を包んでいた。制服は見るものが見れば分かるだろう仕立ての良さがあり、少女が通う“お嬢様学校”の品の良さをそのまま写し取っているようだった。
ほう、と少女が息を吐いた。それを見計らっていたかのようにドアがノックされ、
少女は鈴の鳴るような、と形容する以外にない声で「どうぞ」と返事をする。
ドアが開けられ、そこでは燕尾服を身にまとった初老の男性が頭を下げていた。
「お嬢様、お時間でございます」
「わかったわ、ありがとう」
少女は男性に微笑みかけるとカップを置き、しずしずと部屋を出る。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
少女は初老の男性を従え、ずらりと居並ぶ屋敷の使用人が頭を下げる廊下を進んでいった。
少女の名前は
設楽ヶ原家は若く才能ある者を養子にし、その者に見合った仕事を割り当てることで、盤石の体制を布いていた。
であるため、一族とはいうものの、ほとんど血は繋がっていない。燐は末っ子であり、兄や姉がいたが、血は繋がっていなかった。
では、燐は何の才能を見いだされて設楽ヶ原に名を連ねることになったのか。
可愛らしい音楽が廊下に響いた。燐は懐からスマートフォンを取り出す。彼女の通う学校では持ち込みは禁止されていない。
通う女子は皆それなり以上の家の人間である。授業中にスマホを見るなど“はしたない”真似をする人間はいない。
また、不要な連絡をしてくる人間もいないし、逆に言えば連絡があると言うことは必要であるからだ。
燐のスマホには兄の名前が表示されていた。燐は歩きながら通話開始のボタンをタップして、スマホを耳に当てる。
「もしもし、燐です」
電話の向こうから、表示されたとおりの兄の声。燐と兄は電話越しにいくつかの会話を交わす。
「かしこまりました。それでは、また」
通話終了のボタンをタップし、学校へ向かうべく玄関に回された車に乗り込む燐。
その顔には、仄暗い笑顔が浮かんでいた。
彼女が設楽ヶ原家に見いだされた、その暗殺の腕を再び振るう時がやってきたのだ。
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