ぼくの、ヒーロー(著者/凪野基)

ぼくの、ヒーロー

著者/凪野基


甥っ子くんのブロークン・ハート?!


自慢の叔父さんがいるって素敵!


 本作は凪野基さんの短編集「エフェメラのさかな」に収録されている「宙の渚のローレライ」の関連作です。あわせて読むと、叔父さんの自己評価と甥っ子の視点のちがいが面白く微笑ましい。少年の歯切れ良い語りも相まって、とびきりキュートな作品です。

 「宙の渚のローレライ」は、宇宙の船乗りフランツ・キサラギの物語。フランツは、近海の宇宙ゴミを拾い、衛星を修理し、航路の安全を守っています。

 ある日フランツは、知り合いから噂話を聞きます。小惑星帯のライン航路で女の歌声が聞こえる、しかし宇宙船の通信ログには残らない——。フランツはその〝ローレライ〟の調査をすることになり……。

 フランツの明るい語り口が小気味良いSF作品で、彼の若い恋人・ノルンとの関係ややりとりがあたたかく、愛おしい作品です。

 フランツはいわゆる「信頼できない語り手」ということではないでしょう、この物語に叙述トリックという言い方はあまりしたくない。そのことをあえて言う必要がなく、当たり前にみんなが過ごしているという、穏やかな進歩がえがかれています。お話の仕掛けといえば仕掛けの部分なのですが、それによってどうということではなくて……。ただそうであるということ。温度感が素敵な一作です。

 それを受けて、本作「ぼくの、ヒーロー」はどのようにえがかれるのかなあとワクワクしておりました。どちらから読んでも楽しめるように作られているのが粋です。

 本作はフランツの甥っ子、エリクが語り手です。エリクにとってフランツは憧れの人。「フランツは格好いい。俺のヒーローだ。」と語ります。エリクはフランツに憧れて機械工学の大学に進んだほど。

 「宙の渚のローレライ」のなかで、フランツは自分のことを何度もくたびれたおっさんと語っていましたが、やっぱりカッコイイ人なんじゃないか! 思わずニコニコしてしまいます。

 宇宙での仕事で行方不明になっていたフランツ。ある日無事に帰ってきて、エリクに突然できた〝叔父さん〟。

 「フランツは友だちというには大人で、親兄弟ほど近くもなく、教師ほど自らの保身を考えているわけでもなく、面倒臭い小言や説教を垂れるわけでもなく、気安い距離にいた。」

 甥っ子と叔父さんのいい距離感です。エリクはすぐにフランツのことが大好きに。けれど最近フランツの様子がちょっと変? どうやら彼女ができたらしい……。

 『もしかしてお泊りか。俺に何の断りもなく……いや、断りはいらない。落ち着け、俺。フランツは子どもじゃない。』

 動揺するエリクがとってもかわいい! ブラコン(ファザコン)ならぬ「おじコン」とでもいいましょうか、ちょっぴり〝モンペ〟なエリクがキュートです。フランツからノルンを紹介されたあと、ショックを受けたエリクのとったある行動は必見です……!

 身内の誰かに憧れや親しみをもつことのプラスの面が、ハツラツとえがかれた掌編。ちょっとだけ「おじばなれ」して、エリクは大人になってゆくのでしょう。本企画ご参加作品でも一二を争うモンペぶりに、お腹を抱えて笑いました。

 「エフェメラのさかな」は人魚をテーマにさまざまな世界観をえがいた作品集です。わたしは表題作「エフェメラのさかな」が色っぽくて好きです。凪野さんの引き出しの多さが発揮された、密度の濃い一冊。本作とあわせてぜひはるかな海へ出かけてみてください。


作者さまおじコメント/既刊の短編集「エフェメラのさかな」に収録の「宙の渚のローレライ」はフランツ叔父さんが主役のSF短編です。ノルンとラブイチャしています。併せてご覧下さいませ。

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