くるぶしにくちづけ(著者/まゆみ亜紀)
くるぶしにくちづけ
著者/まゆみ亜紀
さわやかな足舐め、小粋な官能。
甥っ子にだめにされちゃう叔父さん!
爪先へのキスは崇拝、足の甲へのキスは隷属だなんていいますが、ではくるぶしは……? ああ、「お世話」かもしれない。甘やかすことって、限りなく愛のある支配かもしれない。
本作は、作者のまゆみ亜紀さんが以前ツイッターで「#うちの作品初級編」というタグをつけていらしたのですが、なるほど納得です。山岳部の遠足や獅子座流星群の観測会など、キラキラした高校生活のなかにどこかフェティッシュな描写が見え隠れして……。まゆみさんの作品世界入門編かもしれません。お世話する・されるって、ちょっとドキドキする行為なんだなあ。爽やかと官能のバランスが絶妙で、至芸です。
「くるぶしにくちづけ」は、甥(高校生)×叔父(高校教師)のBL作品。綾瀬昭久は、少々ぼんやりした高校教師。勤め先の学校が女子高から共学にかわった年、入学してきた甥の大志にプロポーズされてしまいます。男どうし、叔父と甥、教師と生徒。面食らう綾瀬をよそに、大志は綾瀬のアパートに押掛け、意気揚々とあれこれ身の回りの世話をするようになり…。
年下攻めの魅力とはなんでしょう? まだまだ子どもだと思っていた攻めくんがすっかり「男」になっていて、ドギマギしてしまう受け……そんな成長ギャップにより展開されるドラマは、やはり醍醐味だなあと思います。それが甥と叔父となると、叔父さんは甥っ子くんが赤ん坊の頃から知っているわけで、さらに本作は教師と生徒という関係でもありますから……ハイ、役満です。
本作の甥・大志は炊事洗濯掃除は完璧、背が高くて女子にもてる見た目、おまけに留学経験もあり勉強もできる高校生。叔父の綾瀬は終始たじたじです。
大志のハイスペックにはわけがあります。10年前に一緒に出かけた山で、綾瀬は大志をかばって足に怪我を負ってしまった。綾瀬には後遺症が残り今も少々足をひきずるほど。大志は子どもながら「責任をとりたい」「傷をいたわりたい」と思うようになり、凛々しく成長したのです(ここの、大志が「いたわりたい」という気持ちに気づく描写・展開が秀逸です!)。
綾瀬への気持ちの根底に罪悪感があり、彼なりに乗り越えた先の「世話したい」、「甘やかしたい」。15歳の彼の、タフさ、一途さ、執着。爽やかさと、ひとすじなわではいかない独占欲をあわせもつ魅力的なキャラクターです。彼の造形がそのまま本作をあらわしているように思えました。すがすがしく、フェティッシュ!
綾瀬の傷跡のあるくるぶしに大志がくちづけるシーンは、愛情とどこかほの暗さが宿り、ドキドキです。酒に酔った綾瀬の嘔吐を世話するシーンもたまらない。本作は性描写はなく全年齢向けですが、みどころたっぷり。綾瀬は大志の気持ちにこたえられるのか、「世話される」ことを受け入れられるのか…。関係性と気持ちの変化にグッときました。
リリカルな文章とすっきりした構成が、作品全体のトーンをあくまで明るく仕立ててあり、すがすがしく〝足舐め〟世界に浸れます。
個人的には、まゆみさんの作品はこういった引き算がとても小粋だなあといつも感嘆しています。抑制、コントロールのきいた書き手さんだなあと思います。
また、眺めているだけでうふふと笑みがこぼれてしまうようなカバーイラストも印象的。窓辺に舞う花と風がどこか春を感じさせ、紙の手ざわりもやわらかい。何度も作品世界に招き入れてくれる、素敵な装丁です。
作者さまおじコメント/当作品の〝おじ〟は綾瀬昭久・27歳。私立高校の教師をしています。受けです。彼を叔父たらしめる甥っ子の高校生・尾上大志に求婚されていて、その熱意にたじろぎ流され気味。右足のくるぶし付近に古傷があり、大志はそれに妙に執着しているようですが…?
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