ダランドー叔父様との思い出(著者/野間みつね)
ダランドー叔父様との思い出
著者/野間みつね
叔父様の語りに照射される、物語世界の豊穣。
歴史が活写する骨太な人間ドラマ。
長い物語は、刊行を追うべきか完結後に一気読みすべきか、いつも迷います。小説であれ漫画であれ、映画もそうでしょう。
そうしていささか邪道かもしれませんが、「気になるところをいきなり読む」という選択肢もあり得るのでした(そうでした、かつてわたしは「火の鳥」を太陽編から読んでハマったくちでした)。あるいは新聞連載小説のように、ふと目にしたところから前後が気になるという出会いも。
どこまでも広々と続いてゆくような物語は、懐がふかく、わたしたち読者に開かれている。優しく、力強く、佇んでいる。ただ飛びこめばよかったのだな。うれしくワクワクする気持ちでいっぱいです。
長寿族の少女・ミグは十歳。里から出たことがなく、外の世界のさまざまなことについて教えてくれる叔父のダランドーを慕っています。優しく博識の叔父。彼は放浪の薬師と呼ばれ、ひとつところにとどまりません。
親族の死により里に戻ってきていたダランドーでしたが、今回も長く滞在することはなく、新たな旅に出ようとしていました。旅立ちの前にミグはダランドーに案内され、これまで立ち入ったことのなかった書庫に足を踏み入れます。「入る資格のないものが入ったら、入ったが最後、二度と出られなく場所だ」——。
本作は「ミディアミルド物語外伝集5レーナから来た青年」の一編です。
短編・掌編が6編収録されており、それぞれ語り手となるキャラクターは異なります。本伝で語られないできごとや人物にスポットをあてたエピソードで、さまざまな角度から作品世界に触れられる一冊です。
ミディアミルド物語は本伝が10巻・外伝集が5冊刊行されているファンタジー長編。架空世界〝ミディアミルド〟の歴史群像劇です。全20巻予定とのこと。
さて、わたしはいきなり外伝の5冊目から読ませていただいたのですが、とてもとても面白かったです……! 用語や人物関係に詰まってしまうことなく、すっと入ってゆけました。密度が濃く、高潔な語り口がとにかく快感!
わたしたちが住む世界とは異なる場所の物語ですが、えがかれているのは人間同士のやりとりにほかなりません。人と人の関わり合いや心のひだ、人生の妙味がぎゅっと詰まっている。骨太な人間ドラマに夢中になりました。十年、二十年と色褪せない普遍的な物語でしょう。
「ダランドー叔父様との思い出」は、幼い姪のミグが叔父のダランドーとかわしたささやかな時間についての掌編です。みじかいなかに、作品世界のエッセンスが散りばめられていて、またモチーフが書物であることもあり、本作をはじめに読んでよかったなと思いました。
ダランドー叔父様は、ミグを子ども扱いしません。
『…私に向かって自分のことを「叔父さんは……」と言わない。それは、取りも直さず、私を——フォノーネ目には四、五歳の幼児にしか見えない子供を、姪としてよりもひとりの対等な相手として扱ってくれている証であった。』
そういう大人は、どのような世界であっても魅力的です。
また、ダランドー叔父様は旅を選んだこと、旅を続ける理由についてミグに語ってくれるのですが、あたたかなまなざしと人柄が沁みました。里での生き方を否定せず、彼はこう言います。「沢山ある生き方のひとつにすぎないよ」と。みじかいストーリーのなかに、背中を押してくれるような、胸を射抜かれるような言葉にいくつも出会えて、嬉しく、興奮する読書体験でした。
案内された書庫の中でミグが見るもの、耳をすますもの。
『背の高い本棚がずらりと並び、その全てにぎっしりと本が詰まっているのに、威圧感は不思議なほど感じられなかった。……気のせいか、まるで全ての本棚が優しく挨拶をしてくれているような、そんな雰囲気さえあった。』
それは、大長編であるミディアミルド物語がわたしたち読者の前にたたずんでいるすがたに通じるような気がします。書庫は、物語は、静かにそこにある。いつ読んでもいつ帰ってきてもいい、耳をすませよう、飛びこもう。そんなふうにワクワクしました。
個人的には6編のうち、女性武官・デフィラが父親の遺言をきっかけに婿探しをすることになる「最後の夏」という作品がお気に入りです。
ささやかな好意を寄せている相手とのやりとり、結婚するならこの人だろうか? でも立場上むずかしい……。どうして結婚しなきゃいけないのだろう? 子どもを産んだら武人としては引退しなくてはならないのか? 伴侶に選びたい相手、妥協による婚姻……。キャリアに悩む女性の物語です。
デフィラは凛々しさの裏側にある迷いが魅力的な人物。色っぽいシーンやかけひきのようなやりとりが素敵です。宿で舞踏会の稽古をするシーン、普段の装いとは異なる華やかな色味をまとって宴席に出席するシーン……印象的な情景がつぎつぎえがかれ、ビターな語り口がとても好きです。
このお話単独で読んでもとてもとても面白かったのですが、最後の「引き」がすごく気になったので、やはり本伝を読みたくなりますね……!
「おじ」をきっかけに、長い物語の扉をたたくことができたこと、受け入れてくださったことがとても嬉しいです。豊かに広がり続ける世界をぜひ冒険したいと思います。
作者さまおじコメント/ダランドー・ツモン・ロン、年を取るのに普通の
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