第10話 戦闘

【5989階層】


長弓銃を再装填する。住処のある5977階層まで後3日の距離だったのに。最悪の事態になっちまった。『モグラ』のお頭を努める老年の男、じろべーは走り回る。

一瞬でも足を止めれば、DOUBLESダブルスに殺される。


「歳造! あしをぉ止めろおっ!」


モグラの里。若手猟師の中でも、一番の腕を持つ青年に指示する。

猟師の一人が長弓銃を構えて走る。移動用ワイヤーを飛ばして、壁に引っかけると、そのまま壁を縦に昇り出す。

DOUBLESダブルスの片割れが後を追う。それが狙いだ。突っ込んで来た片割れの頭上を飛び越えると、空中で長弓銃で残る片割れの足に狙いを定めて、『槍』を撃つ。

貫通する鈍い音が響く。命中した。移動力は格段に落ちる。仲間が喜びの声を上げる。


「よっしゃ!」

「いや、ダメだ! 全員離れろ!」


歳造は足止めにもなっていない事を理解した。

槍を撃たれた片割れの腕がゴムのように伸び、一人の猟師の頭を掴み、それを胴体から引き千切った。千切られた首から血潮が噴き上がる。


「ジイミィっ!」

「こんのやロオオオオオオおオオオオオオおっ!」


数人がやみくもに長弓銃を連射した。

が、じろべーや歳造。経験豊富な猟師の仲間は思わず舌打ちをした。彼らが装填したのは『矢』だ。装甲の継ぎ目や機能器官でなければ、弾かれる。急所を撃ち抜く腕が無ければならない。ただやみくもに撃つだけでは意味がないのだ。

貫通力に優れた仕留める為の『槍』。速度と飛距離に優れた敵を弱体化させる『矢』。状況に応じて使い分けてこそ、一流の猟師なのだ。

片割れと片割れが合流する。そしてDOUBLESダブルスは一気に攻勢へと転じて、三人の猟師を引き裂いて殺す。


「これで五人になっちまったっ!」


死んだ奴は全員、次の世代を担う若者ばかり。

じろべーは『矢』を装填し直すと、疑似眼球を狙い、撃ち続ける。七本の『矢』が飛び、五本が弾かれ、二本が疑似眼球に突き刺さる。

DOUBLESダブルスはグルングルンと横回転し、仮面の口元が開く。歳造やその意味を知る仲間達が悲鳴を上げた。


「お頭あっ! あいつ仲間を呼ぶぞっ!」

「全員、ありったけの『槍』を電脳にぶち込め! 止める方法はそれしかねぇっ!」


五人の猟師が長弓銃を構えて、一斉に『槍』を撃ち込もうとする。

黒を覆う赤。直線的な二重色の光がDOUBLESダブルスの足以外の全てを貫き、消失した。いや、それだけじゃない。超強化ウルツァイト壁をやすやすと熔解したのだ。

世界で最も硬いといわれるウルツァイトをさらに強固にした超強化ウルツァイトが使用された壁が、だ。

何が起こったのか分かるはずもない。五十五年生きてきたじろべーも、ただ驚くしかなかった。

装甲橋に音を立てて着地した男。オウリは無言のまま、猟師たちに視線を送った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る