第9話 子孫

周防七夜はこめかみに粒子銃ハイ・ガンをつきつけられていた。相手はアスターシャギーである。今回はすぐに引き金を引かなかっただけ上出来である。


「.....................貴様、私は気をつけて食えと言ったな?」

「..........................................は、はいぃ..................」

「吹き出すのは構わん。食い馴れていないことも理解しよう。だが、私の食っているドウにぶちまけるとはどういうことだ?」

「い、言い訳をするなら...........運悪くと............」

「よし。いいだろう。大帝國軍人として釈明をするなど不名誉だ。死して名誉を回復させてやる」

「俺は軍人じゃ...........」

「黙れ」


あ、ダメだ。ヤバイ。撃たれる。

周防七夜は四度目の死を覚悟した。その時、隅の方で座ったまま沈黙していたオウリが急に立ち上がると、横穴を飛び出していく。

その迅速な動きにアスターシャギーもすぐに後を追う。何とか殺されるのを回避できた周防七夜は口から魂が抜けるような安堵感に包まれていた。


***


通路を抜け、上層に続く階段付近で立ち止まる。オウリは身を隠しながら、外に視線を動かす。

彼の眼球は機械である。通常の眼球としての役割だけでなく、計測機器としての機能も備えている。

視界に数値が羅列する。驚くべきスピードで計算されていく。位置が特定されていく。複数の足音。人間のものが少数。機械のものが多数。衝撃音を確認。交戦中。

位置が特定された。5990階層。一つ下の階層だ。だが、徐々にこちらに近づいている。階層を上がっているようだ。戦闘は継続している。


「...................スピア」

「おいどうした?」

「あそこだ。出てくる」


指し示された場所に視線を移動させ、アスターシャギーはサルートコンタクトを起動する。

生体反応が8。噴出する煙の中から姿を現す。船外宇宙服に似た強化気密服。髑髏のようなヘルメット。クロスボウの機能を備えた長弓銃。

アスターシャギーは目を細める。いずれ出会うだろうと考えていた。未だに系譜犯の子孫達はしぶとく生き残っていることは予測できた。

しかし、何と使い古された装備一式だ。大帝國時代初期の頃に採用されていた今では博物館ものの骨董品だ。


「ふむ。十中八九、系譜犯の子孫だな」

「.....................来るぞ」


破壊銃を構える。

ドンッ。壁の一部が壊れ、それが顔を出す。手長足長の完全機械の四肢。地球の歴史、1605年に発覚した火薬陰謀事件の実行責任者として知られる人物、ガイ・フォークスの仮面に似た鉄面皮。駆除機関のホームセキュリティシステムの端末機動兵だ。

目的は不法居住者の駆除。至上命令は完全抹消、つまり殺人処理。

球体の胴体部分から伸びる頭と長い手と足。歪な形であり、存在である。


「放棄されてから三百年も経過したのだがな。呆れるほどに仕事熱心なものだ。人工知能というやつは」

「...................DOUBLESダブルス


なるほど、よく観察すれば、末端機動兵が二つ一組で行動している。

端末機動兵は、単機で活動するものをSINGLEシングル。複数で活動するものをDOUBLESダブルス

どちらも危険な存在だが、お互いをカバーし合うDOUBLESダブルスは特に厄介な存在である。

一歩踏み出したオウリの肩を、アスターシャギーは強い力で掴む。


「様子見だ」

「...............................................」

「動くな。最小限の行動で最大限の成果を。私の気質だ。従ってもらう」

「.............................あそこに人がいる」

「あぁ。いる」


DOUBLESダブルスと激しく撃ち合っている人間達。


「だが、それがどうした?。目的を忘れたか?。一刻も早くここを脱出すると」

「..................................俺は、薬を探している」

「?」

「............................それだけだ」


地面を蹴って、跳躍した。

十メートルは飛んだだろう。それだけの跳躍だった。


「なるほど.............お前は馬鹿だったか」


荷電粒子発射器を肩に担ぎ、アスターシャギーは吐き捨てた。

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