第8話 ドウ

【5989階層】


体感時間で五日目。徐々に階層間の移動距離が長くなってきた。通路の途中にある横穴で休憩となった。

ここにくるまで、駆除機関の妨害が十六回。目的は不法侵入者の駆除。大帝國市民の生態登録が更新されていれば、攻撃対象どころか保護対象であるはずだった。

途中、護衛体マイガードが衛星からの外部アクセスを行い、更新を試みたが、失敗。厳重なセキュリティを突破できなかった。

結果、駆除機関の駆除マシンを破壊するしか方法はなかった。ただし、アスターシャギーにとっては、得るものもあった。必要な素材を確保したと、護衛体マイガードに愛用の武器、荷電粒子発射器を再構築させた。荷電粒子砲を射出するバズーカである。

新兵時代から使い込んでいる腕の延長上であるアスターシャギーの相棒だ。

それにしても、廃棄星はいきぼしの内部は、世紀末を迎えた廃墟の群れだ。建物は常に新しく増設され続けている。だが、修復という概念がない。古い建物の上に新しい建物が築かれ、支えきれず崩れ落ちていく。そんな光景を四人は何度も目にした。


「...............廃棄場そのものだ」


周防七夜は、ぽつりと呟いた。

説明を要求していると思った護衛体マイガードは淡々と説明を始める。


「ここは言葉通り、廃棄物を無造作に捨てる事が許可された惑星。ここを管理監督する中央制御塔がそれらを片づけています。とはいえ、七百年前に限界量を越えてしまい放棄されました。関係者の出入りも三百年前で途絶えています」

「廃棄物を捨てる為だけの惑星」

「その為だけに造られた人工惑星です。ここには様々なものが捨てられています。大帝國の歴史において不要とされたもの全てです」

「人も捨てられているぞ」


ガンッと何かを踏み潰したアスターシャギー。

よくみると、それはとても古い骨だった。地面の所々に転がっている。色は変色しており、一見すると骨とは分からなかった。


「人も?」

「大帝國法において、犯罪者は二分されます。『犯罪の軽重を問わず、更生の可能性が見込まれる犯罪者』と『犯罪の軽重を問わず、更生の可能性が見込めない犯罪者』です。

前者の場合、大帝國が管理する刑務所において刑期を科せられます。後者は子孫に潜在的犯罪発症率が極めて高いと判断され、系譜犯と認定。廃棄星に捨てられます。彼らの刑期は基本的に無限期であり、子孫が途絶えるまでここから出る事は叶いません」

「......................................」

「出ようと思えば出られるかもしれないぞ。駆除機関の追跡を逃れて、地上にあるかもしれない宇宙船に乗ればいい」

「ただし、投棄前の系譜犯には、脱走を阻止するために遺伝子に自壊作用が発症するようにとの調整が行われます。廃棄星にいる間は平気ですが、廃棄星を出た場合、1月以内に発症して死に至ります」

「と、いうことだ。この先、系譜犯の子孫達とは極力関わらずに行くぞ。何を要求されるか分かったものじゃない」


ごそごそ。アスターシャギーが、圧縮鞄を漁っていた。

アスターシャギーは携帯食である金の延べ棒のような食べ物を取り出し、護衛体マイガードと周防七夜に渡す。


「何ですか? これ?」

「ドウだ」

「............................ドウ.......................」

「何味が好みだ。色々とあるぞ。私はドウにはうるさい。常に百種類の味を携帯している。そのまま食えば無味無臭だ。歯も折れるだろう」


自分用に取り出したカプセル剤は、ステーキ味。

こんなに固いドウが、押し込んだカプセル剤を吸収していく。みるみるうちに色が変わる。ステーキのような色合いとなった。


「じゃあ、味噌汁味」

「これだ」


あるんだ。そんな味。

渡されたカプセル剤の色は、味噌のような茶色。見様見真似でドウにカプセル剤を押し込む。色が茶色へと変化する。僅かに味噌汁のような匂いが漂う。


「気を付けて食え」

「? 気を付けて?」


何となく、食べ辛い。が、覚悟を固めて齧る。

ゼリーのような独特の食感。口の中で震える。すると、徐々に固形物から液体へと変化。さらに口の中で味噌汁となる。


「.............!? 熱.............!」


周防七夜は熱さのあまり、味噌汁を吹き出してしまった。


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