第5話 謎の男

「.................う.................」


周防七夜は激しく痛む頭を手で押さえながら、上半身を起こした。

凄まじく最悪な夢を見た。礼節云々をほざいていた少女に頭を撃ち抜かれた夢だ。撃たれる前の会話を思い出す。どこにも非は無いだろう。理不尽だ。理不尽過ぎる。

前の方が騒がしい。顔を上げれば、目と鼻の先で少女と青年が言い合いをしている。少女が一方的に喚いているようだ。

夢で周防七夜を撃った少女によく似ている。瓜二つだ。


「あの」

「邪魔するな」


粒子銃ハイ・ガンの銃口が煌めき、周防七夜の頭部が吹っ飛んだ。

今度は頭部を無くした死体となった。護衛体マイガードは死体に視線を寄越して思う。


(あれは蘇生できるのだろうか)


脳が完全に破裂粉砕したのだ。さすがにやり過ぎである。


「382年もかけられるか!。どうにかして十年、いや三年以内に脱出しなければならない。地球を挟んでようやく協同国家体と決着をつける時がきたのだ。その瞬間、前線に立てないなど、我が純潔、我が操に申し訳がない!」

「操とは?」

「私は大帝國と結婚したも同然だ。ならば、大帝國に操を捧げるのは当然ではないか。何も人間同士と結婚するだけが能ではあるまい。祖国に生涯献身たるならば、己の全てを差し出してこそ、真の献身と愛情だろう」

「..................私には理解しかねます」

「おい。私のクローン体であるお前が理解できなくてどうするのだ。血統家族ではないが、同一家族なんだぞ」


護衛体マイガードは眉一つ動かさず、されど困惑を覚える。

大帝國人は、奇妙な家族構成が存在する。

一つは血統家族。夫婦の配偶関係や 親子・兄弟の血縁関係によって結ばれた親族関係を基礎にして成立する小集団。

二つめは同一家族。十三歳の第一成人期を迎えると、自らのクローン体を作製し、同一存在としての価値と権利と役目を与えて、主人である自らの育成と活動の補助を担わせる小集団としての家族だ。


「人格は調整されていますので、異なります」

「それでも、最大の理解者だ」

「そうありたいと行動しています」

「理解しかねるなら、理解する努力をしろ。お前は私から生まれたんだ。私の思考に辿り着けない訳がない。私はお前達を信じているんだ」

「努力を.............」


そう言いかけて、護衛体の肉体が宙を舞った。

長い脚が円を描き、突き出されたスネークナイフを蹴り飛ばす。左手で相手の腕を掴み、右手の拳で顔面を殴る。銃から発射された弾丸のような速度で、相手は落下し、鉄の地面に激突した。運が悪い事に、そこには周防七夜がいた。頭部以外にも下半身が潰されてしまう。

痩躯長身の青年は、地面に寝転がる形のまま、拳銃を握り、護衛体マイガードに狙いを定める。

だが、その前に粒子銃ハイ・ガンの閃光が青年の頭上を通り抜けた。アスターシャギーである。

青年は護衛体マイガードを。アスターシャギーは青年を。それぞれに睨み合う。


「大帝國軍戦神艦隊オーディン二足機動兵器ウォーキングアームズ戦隊所属。アスターシャギー・シオン大尉だ。名乗れ。協同国家体の先兵。それとも、名前も無いのか?」

「...................オウリ」

「所属は?」

「.................................」

「なら勝手に言うぞ。協同国家体所属の、工作員だと推測する。だが、腑に落ちん。その装備は何だ?。ただの工作員が持つにしては、物騒過ぎるぞ」

「.................................................薬を、探している」

「なんだと?」

「......................................星を生き永らえさせる、薬だ」


アスターシャギーは心と身体が急速に冷めていくのを実感していた。

将来においての危険分子。ここで、殺しておくべき存在だ。だが、考えても見ろと、別の思考が問いかける。

この廃棄星はいきぼしを脱出するには、力が必要である。それこそ、並外れた力だ。正直、アスターシャギーと護衛体マイガードだけでは、心もとない。382年もかかれば、遅老処理を施された肉体でも持たない。

この男、オウリという男がいれば、もっと早く短期間で脱出できる可能性がある。まして、破壊力銃を所持しているなら尚更だ。


「オウリ、取引といこう」


アスターシャギーは危険な選択肢を選ぶことにした。

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