第4話 廃棄星

【謎の都市】


周防七夜が目を醒まして最初に感じたのは、違和感だった。そして、周囲の異変に気付く。無機質な、四方が、鉄か鋼か、とにかく金属の類で囲まれている。所々、腐りかけている。灯油のような臭いが酷い。

頭を襲う激痛に耐えながら、周防七夜は立ち上がる。ベチャベチャと靴底につくぬめりが気持ち悪い。

天井から垂れ下がった水道管。壁から突き出た配線。リアル過ぎる人間の形を模した機械人形。まるで幽霊屋敷を歩いているようだ。

しばらく歩いて、立ち止まる。道は途切れていた。巨大な吹き抜けがあった。落とし穴と言った方が正しいのだろう。底が見えない深さだ。まるで地獄の入り口のような。

上を見上げる。暗い。日の光などまるで見当たらない。あちこちにライトが設置してある。これが唯一の明かりだ。


「..................どこだよ。ここ」


呆然とするしかなかった。


「地球的解釈をすれば、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの惑星規模クラスの建築物だ」


鋭利で力強い別の誰かの言葉。

背後を振り返れば、不満そうな顔の赤毛の少女、アスターシャギー。そして少女によく似た青年、護衛体マイガード。服装が所々、破れている。二人とも赤毛で分かりづらいが、髪に別赤い塗料のようなものが張り付いている。


「酷い話だ。誰が空間歪曲型装置ハイパースペースシステムを所持していたのだ。おかげでこの有り様だ。情けない。全くもって情けないぞ」

「だ、誰だ............?」

。どうやら地球の原住民は礼節というものを知らんようだ。不愉快だ。おい、粒子銃ハイ・ガンを寄越せ」


護衛体マイガードから粒子銃ハイ・ガンを奪い取ると、躊躇することなく、出力最少で銃口を周防七夜の額に向けた。そして引き金を引く。

糸のように細い直線的な光が、周防七夜の額を貫通する。頭部の前後に出来た穴から血潮が吹き出す。僅かに返り血を浴び、アスターシャギーはさらに不機嫌となる。

操り糸の切れた人形のように倒れる。ビクンビクンと痙攣を繰り返し、すぐに治まる。

できあがったばかりの死体を前にして、アスターシャギーは地面に座って胡坐をかくと、金の延べ棒のようなものを取り出し、茶色のカプセル剤をねじ込む。しばらく待つと、延べ棒が金色から茶色へと変化する。

そして、それを齧り始める。一見すれば堅そうだが、すでに変換は終了しているため、クッキーのような食感。味はチョコレート味。アスターシャギーの好物である。


「こいつ本当に蘇生するのか?」

「再生細胞蟲の活動を認めました。自然発生と思われます。自食作用オートファジーと酷似していますが、現段階において詳細は不明。研究機関に連行するべきと提言します」

「生きて戻れればな。自食自己回復機能を越える再生細胞蟲か。天然モノは養殖より強力だったということか」

「彼の再生細胞蟲はです」

「そうだろうな。見ろ。すでに頭の穴が塞がったぞ。これで思考や記憶に障害がなければ怪物モノだ。機械化でもない、ただの生身の人間であるのに、だ」


とんだものを拾ってしまったようだ。


「で、ここがどこだか特定できたか?」

「大帝國所有の廃棄星はいきぼしです」

「やはりか」

「データ照合に多少の情報の相違がありますが、惑星全体の質量。構築線などを照合した結果、97.34%の確率で同惑星だと判断しました」

「情報の相違ってのは?」

「登録情報では前階層数は4700階層。現在は10300階層に増加しています」

「...................今、何階層にいる?」

「6010階層です」

「地上に上がるまでどれだけの時間、いや、年数で答えろ」

「個人差を考慮して、約382年程度かと」


状況は極めて最悪だった。

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