第2話 車内
【車中】
「ああぁもう! 最悪だ! 最悪過ぎるうぅ!!」
反り上がった禿げ頭を抱え込んで、財前馨は大声で嘆く。
空き地に停止するトレーラー。内部で喚き散らす外務省職員。薄暗い車内。点滅するライトが、複数の顔を照らす。
内閣調査室が所有する特殊作戦用のトレーラーは、随時、新鮮な現場情報を報告している。その度に財前が発狂している。
よりによって大帝國の交渉官の一団が襲撃を受けた挙句、生死不明とくれば、パニックも当然だろう。
この功績で一気に外務省のエリート街道を駆け上がれると馬鹿みたいに騒いだ前日が、今では悪夢でしかない。
衛星監視システムの機材を拳で叩く。財前馨の暴挙に補佐官の御厨継嗣は心中、呆れ果てる。
「そのうえ!自衛隊の一部が暴走!?。愛国者信仰の信者が混じっているなんて思う訳ないだろう! 人選にはあれほど念入りにやったんだぞ! どうしろっていうんだ!」
「首謀者は、神取1等陸尉とその一派。経歴をみれば優秀な人物ですね。ただし、愛国心が強過ぎて視野が狭く、自己理想に陥りやすい傾向があったと」
「なぁにが愛国心だ! だいたい! 何なんだ! あいつらの武装は!?。あんなもの、自衛隊どころかアメリカの海兵隊も持ってないぞ!」
「提供、いえ、借りたのでしょう。協同国家体と関わりのある者達から」
彼らが使用したのは実弾兵器。
それにしては、威力があり過ぎた。拳銃一つでビルを貫通するとか、まるで映画の世界だ。残念なことたが、現実ではそこまで技術は進んでいない。
(やっぱ、相手方の死にませんよーってのが効いたのかな。協同国家体は、無数の惑星国家の連合。精神的・肉体的不平等を無くすと称して機械化を推進。こりゃ、一握りのスキモノにピッタリだわ。外見も容姿も自由に整形できるし)
御厨は上着のポケットから携帯電話を取り出す。
荒れる財前を部下に押し付けて、車外に出る。慣れた手つきで、ダイヤル。
高層ビル群の明かり。妙に濃い夜の空。もはや見馴れた景色だ。わずか1年たらずの変化。最初の頃の驚きや困惑は、もう無い。
宇宙から。いや、太陽系の外から現れた想像を絶する宇宙規模の超大国家で、世界の空すら変わってしまった。地球の空は『
空に浮かぶ天体。大昔の星に混じって、二つの地球外国家が造り出した人工物の星も肉眼で確認できる。そして、いつでも落下できる状態にある。
「.............遅くにどうも。私です。御厨ですって。」
携帯電話を通して聞こえるのは、野太い老人の声色。
「実は論外の事態に発展しまして。大帝國の交渉官が襲撃を受け、生死不明。襲撃したのは、現役自衛官の連中です。例の、愛国者信仰の」
ぶほおっ!と飲み物を吹き出したような雑音。ついでに咳き込むような声。
相手が落ち着くのを待ちながら、官邸は大混乱に陥るだろうなと、他人事のように考える。
「えぇ、はい。怒鳴られてもどうしようもないんですが、とりあえず陸自の一部隊を応援として寄越してくれませんかね。同士討ちってのは目覚めが悪いんですが、こっちでケリをつけないと言い訳もできないでしょう。暴走した元自衛官達は、現役の自衛官で処理するべきです。はい、そうです。元自衛官です。単に除隊手続きが遅れているということで、すでに退職扱いになっているということにして下さい」
ついでに死人に口なし状態になってくれると、とても助かる。
ボンッ。ある一点から、爆発音が起こる。
「...........................訂正します。三部隊ほど寄越して下さい。こりゃ、やばいことになるようですから」
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