第15話 『地球征服願望』その1
「これはまた、なんという不思議な場所でしょう。」
つまり、なんにもないのです。
あたりは、ただ薄緑色の空間で、照明器具もなく、家具もなく、机も椅子もなく、スイッチ類も見当たらず、ほんとうに、なんにもないのです。
「このところ、閉じ決められてばかりで、もう、勝手にしてくださいな。」
わたくしは、そういう感じになっておりました。
「でも、お手洗いに行きたくなったら、どうなるんだろう?」
とか、普通のSF映画では描かれない、現実的な不安に襲われました。
と、空間にふわっとドアが浮かびました。
期待しながら、おそるおそる中を覗くと、間違いなくお手洗いです。
「やれやれ」
「安心しましたか?」
宇宙刑事さんの声のようです。
「しばらく、こちらで保護しましょう。あなたの相手は、ちょっと質がよくないようだから。」
「なんなのですか? 柿子さんたちは?」
「まあ、あなた方の用語で言えば、『宇宙人』ですな。しかし、その起源は火星と地球にあると思われます。」
「どこから来たのですか。」
「これが、結構複雑なのです。しかし、ぼくの推察では、あの一派は、おそらく『第9惑星』から来たんだろうと思います。」
「第9惑星?」
「そうです、最近地球でも、いくらか話題にはなってますが。」
「わたくし、その方面は興味がないのですが・・・・」
「太陽系には、知られていない、もう一つの大きな惑星があるのです。太陽から非常に遠いところを回っているので、あまりに暗くて見つけにくいのです。約1億5千万年ちょっとの周期で太陽の周囲を回っていますが、かつて、火星文明と金星文明が同時壊滅したときに、あちらこちらに、その住民が、地球経由も含めて移住したのですが、その一つです。彼らの多くは、その後も火星連合に属して結合し続けましたが、第9惑星と太陽系外のプロキシマ・ケンタウリ方面に移住した人類は、別の動きをとったのです。まあ、遠すぎたと言うのが一つの要因ですが、それだけではないようです。つまり、指導者の資質の問題でもあります。彼らは、一つの願望を抱いてきました。地球の征服です。」
「はあ? 映画みたい。」
「そうですね。柿子さんたちは、その先遣部隊です。ここ千年以上、さまざまな『ちょうりゃく』を行ってきました。いささか、ちゃちですがね。ぼくなら地球なんか、三日で征服しますよ。あ、しませんけどね。ぼくには『征服願望』なんかないから。それは、低級な宇宙人が考える事ですから。」
「はあ、低級な宇宙人の仲間ですか、地球人は。」
「いえいえ、まだ、そこまで行ってませんよ。だから大丈夫。」
「はあ・・・・」
警部さんは、じゃあしゃあと言ってのけたのです。
「しかし、現在その本体が、動き始めています。」
「え? どうなるのですか?」
「当然、戦争になりますな。地球と。」
「はあ・・・・」
「まあ、圧倒的に連中が有利ですが、しかし、ぼくは地球人の味方をしたいと思います。」
「どうして、ですか?」
「ここの、温泉が好きだからね。」
「はああああ・・・・。それだけ。」
「そう、そう。不満ですか?」
「いえ、いえ。あなたが味方したら、話は変わる?」
「はいな。そりゃあもう、まったく変わりますなあ。ただ、事態は多少複雑です。火星連合の生き残りと、手を結ぶ必要がありますが、それはすでに進んでいますからね。そこには、あなたも知ってる人たちがいる。でも、まあしばらくは、ここで、様子を見ててください。たちまち、危険だからね。」
「いえ、あの、ええ? もう始まると?」
「はい。あさってか、その次の日あたりには、もう『宇宙大戦争』になるでしょう。地球全体が、ごちゃごちゃになりますな。でもまあ、ここなら大丈夫ですよ。ただし、ここは最前線司令部になりますがね。」
「うっそーー!!」
わたくしは、絶句いたしました。
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「あのほかの方たちは? どこにい行ったのですか?」
わたくしがお尋ねしました。
「ああ、地球の警部さんはご自分の車に帰しました。一旦自分の職場に戻ってますよ。ちょっと危険だけど。それからあの、食えない社長は、搬送途中に略奪されました。とんでもない超能力者が付いてますなあ。おそらく警察本庁の例の偉いさんが操ってるんでしょう。ちょっとやっかいな連中ですな。」
「なんだか、ややこしいですねえ。」
わたくしが、申しました。
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