第14話 奪い合い その2
『ほら、いらっしゃいましたね。』
警部2050さんがおっしゃいました。
「あらあ、まんず、またおったまげたあ。」
社長さんが、ますますとぼけました。
「あなた、どうしていらっしゃったのですか?」
北海道の警部さんから聞かれたので、こう、お答えいたしました。
「この方に、閉じ込められておりました。」
「いやあ、いつの間に忍び込んだだべかあ? いやあ、きっと誰か社員が、悪者にさらわれないように、保護していたんだっぺ。」
「はあ・・・・・」
わたくしは、絶句いたしました。
「ここに連れて来られた時に見たのですが、事務所では、わたくしが働いていました。そっくりでした。わたくしに。」
「そりゃあ、あなたの見間違いですよお。」
「はあ・・・」
わたくしは、またまた絶句しました。
「悪者とは、いったい誰のことなのですかな?」
北海道の警部さんが、ちょっと意地悪く言いました。
「例えば、宇宙人とかあー。まあ、なんか追われてるようだったんでねぇーかい。この人は。」
「柿子さんたちのことですか?」
こんどは、わたくしがお尋ねいたしました。
「はいー?なんですか、それは?」
「はあ?あなたね、ふざけてる場合じゃないんですよ!!」
北海道の警部さんが立ち上がって、切れちゃって、怒鳴りましたのです。
しかし、すぐに落ち着いて、お座りになりました。
「あなた、あの、兄上殿と、絡んでないですか?」
北海道の警部さんが、にたっとして、さらにもっと意地悪そうに言いました。
「『あの』というそのお言葉には、あなたの複雑な心理が良くわかって、いささか同情さ禁じ得ないっぺ。兄は秀才で、なんでもよくできただども、だども、絡んではおりませんですよ。はい。」
「関係なし?と?」
「はいー。兄は公務員だしー、おいらは兄と違って、秀才落ちしたんでー、つまり同じ大学狙って落ちたしなー。まあ、ただの一般人ですからあ、関係してないです。」
「あのね。いいですかな、静岡の若い刑事と、ここの警察官が二人、この方をここに連れ込んだのですよ。知らないわけがない。とぼけてもダメ。すっぱりと説明してくださいよ。ああただって、おかしな疑いは持たれたくないでしょう?」
「はいー。そりゃあもう。」
『それでは、ちょっと映像を出しましょう。』
警部2050さんがおっしゃいました。
すると、部屋の中に、スクリーンもないのに、大きな映像がどんわりと浮かび上がりました。
「おわー。これはすごい。」
社長さんがびっくりしたように、いえ、呆れたように言いました。
静岡の若い刑事さんと、警察官の方お二人が、わたくしを連れて受付に現れたところから、映像は始まりました。
「ほらね。」
北海道の警部さんが言いました。
でも、実は、警部さんも始めて見たわけなのですけれど。
それから、わたくしは、事務所の中を通って歩いて行きます。
そこで、わたくしは顔を左に向けました。
わたくしの視線の向こうには、言うまでもなく、わたくしがいたのでございます。
「ほらほら、この方の言う通りですなあ。」
「うんだなやあ・・・・」
さらに、社長室の内部での、わたくしと社長さんとのやり取りも、そのままが再現されました。
「ほらね。言った通りでございましょう?さて、きっちりと、説明してください。」
「はああ。これは、まんず、盗聴とか、盗撮ですなあ。違法行為ですなあ。答える必要なしでありますなあ。」
どかん!
と、北海道の警部さんが机をたたくかと思いましたが、それはなくて、ただ警部さんは立ち上がりまして、それからまるで、動物園のくまさんの様に、縦横に体を揺すりながら、お部屋の中をうろつき始めました。
「残念ですなあ。じゃあ、2050さん。まずこの方を安全なところに移動していただけますか?」
『ああ、いいですよ。簡単です。』
わたくしは、ぱっと消えました。
次の瞬間、わたくしは、奇麗なお部屋の中におりました。
それは、あの真っ青な球体の中だったのですけれども。
「それでっと、あなたも取調室に来ていただきましょう。」
「いやあ、応じかね・・・・」
たぶん、応じかねたのでしょうけれど、でも、社長さんは消えましたのです。
それから、警部さんお二人も、お部屋の中から消えてしまいました。
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