第13話  奪い合い その1

「こういう時は、まず玄関から、直球勝負でゆこう。」

 北海道の警部さんが中空に向かって言いました。

 警部『2050』さんは、確かにそこにいたのですが、ほこりよりも、もっと非常に小さくなっていたため、まったく目には見えなかったのです。

『じゃあ、ぼくは先に勝手に奥に入ってますから。』

「了解。」


「社長、お客様です。刑事さんです。旭川からお見えです。」

 受付の女性が知らせてきました。

「はあ、そらま、どんぞ中に。」

 社長さんは気楽に答えました。


「どうぞ。」

 警部さんは、受付の女性に、例の社長室にまで案内されました。


 もちろんここに来る前に、警部さんは、『カーナビ・アーニー』さんと、ご自分の職場を使って、この会社の事を調べていました。

 それによれば、ここの社長さんは、本省のエリートである例の方とは、双子の兄弟という事になっていました。


 ところが、『カーナビ・ア-ニー』さん、つまり『警部2050』さんは、こう言ったのです。

『いやいや、これは双子じゃなくて、同一人物ですなあ。まったく同じですよ。双子は、DNAは同じでも、生まれた後に取得する情報は違って来るし、顔認証でも区別はできる。けれど、この二人は、区別がつかない。これは、片一方は、きっと、コピー人間ですよ。警察署にいた方は、目下さっさと、東京に帰還中で、飛行機の中。』

「どっちが、どっち?」

『さて、これはまた、巧妙に出来ています。頻繁にコピーし直してるんでしょうなあ。クローンと違って、子供から成長するんじゃないですからなあ。その時点では全く同じですよ。しかし、時間が長くたつにしたがって、どうしても違いは出てくる。なんとか区別するのには、サンプルが必要です。なに、ぼくが髪の毛からサンプルを取ります。警察署にいた方のは、勝手に取らせてもらってますから。』

「区別できるの?」

『さて、どうでしょうかなあ? まあ、部下たちが他のデータも集めるので、何とかなるでしょう。ただし、それがなんの役に立つかは、まだ怪しいですが。』



「いらっしゃいませ。警部さん。」

 警察手帳をしっかり確認しながら、社長さんが言いました。

「ううん。まいった。そっくりですなあ。」

「ああ、兄にお会いになりましたか。」

「はあ、あっちが、お兄さんですか。」

「まあ、住民票上はそうですね。」

「なるほど。ここは、何をする会社ですか?」

「まあ、環境調査とか、水質検査とか、土壌調査とかですよ。」

「難しそうな『仕事』ですな。」

「確かにそうです。まあ、しかし、単純作業と言いますか、我慢比べのような仕事もありますしね、専門家ばかりじゃないです。最近は、宇宙関連事業にも進出したいと思ってましてね。宇宙の掃除です。まあ、まだこれからですが。」


「ふうん。そうですか、ええと、この方、ご存じないですか?」

 警部さんは、わたくしの写真を、社長さんにお見せになりました。

「さあて。おいらは、いや、ぼくは知らないなあ。兄は知ってるのですか?」

「ええ、ちょっと前に会ってますから。」

「ほう・・・。でも、ぼくは、知らない方です。」

「ふうん。今は捜査令状もないし、勝手な事は出来ませんが、社内をちょっと案内していただけませんか?」

「いやあ、時間がないですなあ。やるなら正式にやってください。」


『すみません。地球のやり方には、慣れないので。その方なら、この、もっと奥の方の部屋にいらっしゃいますよ。』

 中空から突然声が聞こえてきたのです。

「え。え。。。? どなたですか?」

 社長さんが目を丸くして、そうおっしゃいました。

『ああ、私は、第55銀河警察本部、第602班警部、2050であります。目下、人類の目には見えない大きさになっておりますが、少し拡大しましょう。』

 二人の目の前に、サッカーボール位の大きさの、真っ青な球体が突如現れました。

「いあ-、これはまた、おったまげたあ。」

「いや、実に全く、おったまげたなあ。」

 二人がそれぞれ実際に、おったまげたのでございました。

『じゃあここに、ご案内します。』

 『2050』さんが、そう言いました。

 すると、社長室の奥側のドアが、勝手に開きました。


 その時、わたくしは、やっと部屋のドアがすっと開いたので、自然と社長室にまで歩いてまいりました。
























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