第12話 「風の都」
『こいつは、札幌市内に向かっていますなあ。』
警部2050さんが言いました。
もちろん今は、『カーナビ・アーニーさん』になっておりますが。
「秘密基地でもあるのかな。」
北海道の警部さんが答えて言いました。
『いい線でしょう。彼らは地下が大好きだからね。』
わたくしは、札幌市内のごちゃごちゃの中に連れて来られておりました。
何しろ来たことがないものですから。
とはいえ、どうした訳か体が言う事を聞かず、なんだかまるで、ロボットになったような感じだったのです。
どこかの地下駐車場に、自動車は入って行きました。
見てはいたのですが、わたくしの意識は、まったく道を理解しませんでした。
それから、わたくしは、まるで操り人形のように、あの三人に車から連れ出されました。
その前に、金髪のかつらを頭に載せられて、サングラスを掛けられ、わざわざ、かっこ悪い帽子を被せられました。
それから、あの静岡の刑事さんは、まるで何でも知ってるよ、という感じで、壁の小さなドアを開けました。
でも、その中は普通の階段だったのです。
ところが、彼は階段のドアに内側から鍵を掛けました。
「まあ、おかしなこと。」
と思いました。
でも、さらに、もっとおかしなことになったのです。
階段の踊り場の壁が、突然、スラリっと開きました。
エレベーターになっていたようです。
わたくしは、文句も言えず、その中に連れ込まれてしまいました。
結局行き着いた先は、そのままスパイ映画に出てきそうな秘密基地、というよりは、ごく普通の会社の受付のような場所の、一番はずれでした。
見えないエレベーターの前には、更に衝立が立っておりました。
「いらっしゃいませ。」
受付にいた女性が言いました。
「ああ、どうも。社長帰ってるかな?」
「はい。さきほどお帰りです。」
「やはり、早いな。」
わたくしは、なぜか声も出せません。
それから、自動ドアをくぐって、事務所に入りました。
普通の事務所です。
しかし、もうひっくりかえるくらいにびっくりしたのは、そこに、私がいた、ということです。
わたくしは、仕事をしていました。ごく普通のように。
本人は、もう一挙に叫び出しそうなものですが、表情ひとつ変えられません。
わたくしは、奥の方にあった『社長室』という小さなプレートが張られた部屋の中に連れ込まれてしまいまいました。
自動ドアに印刷されていたのは、(株)『風の都』という文字でしたけれど。
『ここですなあ。この地下駐車場に入った。』
『カーナビ・アーニー』さんがおっしゃいました。
「ふうん。このビルはなんですかな?」
『基本的にいろんな会社などが入った雑居ビルです。会社やお店や医院などが100社ほど入居しております。』
「ほう。一社ずつ回るのは、ちょっと骨が折れますなあ。」
「いえいえ、僕の部下がもう付いて回ってますから。居場所はすでに解っております。ただ、他も全部調べましょう。あなたはここに座っていればよろしい。」
もと北海道の警部さんの自動車から、またまた多数の小さなミニチュア宇宙船が飛び出しました。
「いったい、いくつ持ち込んだの?」
『まあ、最終的には本体から補充できますからね。』
「十億?」
「そうそう、しかし、それもまあ、なんと言うか『ものすごくたくさん』という意味の概数ですからねえ。」
「はあ?いいかげんな。」
『ははははは。まあ、『果報は寝て待て』ですから。ははははは。』
「意味、わからないですよ。」
『ははははは。ほら、もう全体の捜索が始まりました。早いですよ。人間の目には捕らえられない速度で動きますから。一階から順番に行ってます。一階終了。どんどんゆきます。地下もね。彼女は、推測通り、やはり地下にいますね。ほらね、これです・・・』
わたくしの映像が、ナビの中に浮かび上がっておりました。
「まあ、あなたの代わりは、あのコピー人間がちゃんとやってくれますから。」
『社長』さんという方は、ずっと反対の壁の方を向いたままでした。
でも、なんだか、どこかで聞いたような声です。
「コピー人間?冗談ではございません。こんなことして。」
わたくしは、普通に話せるようになっておりました。
「いやいやあ、ちょっと大人しくしていただく必要があったのです。すみません。危害は加えませんよ。その刑事君は、一種のミュータントですが、まあ二重スパイというか、ですな。」
「はあ? あなた、いったい、どなたなんですか?」
「おいら、知らね。」
「え?ええー?!」
男はこちらを向きました。
言うまでもなく、あの警察省の『偉い人』だったのですから。
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