第10話 取調べ
柿子さんと連れの男は、それぞれ別の取調室に連れて行かれましたが、なにしろ沢山のミニ宇宙船が山のように纏わりついておりますから、さすがの警察の皆さんも、相当にびっくりしていらっしゃる様子でした。
わたくしは、北海道の警部さんの計らいで、まず柿子さんの入ったお隣の部屋に入れていただきまして、そのやり取りを聞きました。
しかし、柿子さんは、こう言ったまま、何も話しませんでした。
「黙秘します。あっちに聞いてください。」
脅しても透かしても、まったく返事もしないので、北海道の警部さんは、とりあえず柿子さんは部下に任せて、男の部屋の方に移動しました。
わたくしも、一緒に場所替えいたしました。
すると、そちらの方には、あの偉い、本省から来たという方がいました。
「ども。」
わたくしは、少し頭を下げましたが、その方は一般の人間に頭を下げる練習はしていなかったのか、まったく無視されてしまいました。
ちょっと、カチンときましたが、まあ仕方ないかとも思いました。
北海道の警部さんは、柿子さんの連れの男の真ん前に、ゆったりと座りました。
若い刑事さんが、もうひとりいらっしゃいましたが、実は『警部2050』さんも、ちゃんと同席していたのです。
ただ、よく見えていないだけだったらしいのですが。
「さてと、君たちがどこから来た何者なのかは、『警部2050』さんが教えてくれたので、あまり聞こうとも思っていない。まあ、たくさん資料やら映像も見たがね。」
「じゃあ、聞くな。」
「おやおや、もう少し色よい返事が欲しいなあ。でないと、『警部2050さん』に二人とも引き渡すだけだな。まあ、日本政府もそれを、どうやら望んでいるらしいしなあ・・・」
わたくしのおとなりの、偉い方が『ちぇ!』と舌打ちなさいました。
ちゃんとお話は出来るようです。
「ただし、警部2050さんは、二人とも消去処分にしたいと言っている。」
「そりゃあ違法だな。」
すると、何処からか声がしました。
『君たちは、我々の管理領域から逸脱しているので、何をしたって、かまわないんですよ。あたしも、いまさら母星に帰る気もないしね。やりたい放題で、ござんすよ。もう、さっさと、けりを付けたいし。実際、他に、やりたいことがあるからですね。』
「はあ?」
男は呆れたような声を出して言った。
「あんたは、警察官だ。出来ないさ。これまでも、出来なかったんだから。」
『ほう。じゃあ、試しにもう一人を消してみようかなあ・・・』
壁の中に、柿子さんの姿が浮かび上がりました。
いったい、これはどうなってるのでしょう?
『消すのは簡単。ちょいちょいですよ。』
警部2050さんの声だけが聞こえました。
「じゃあ、そうしましょうか。」
北海道の警部さんが言いました。
「黙秘してるし、本省も早く消せと言ってるし。」
お隣にいた『偉い方』が、電話器を取って、取調室に電話しました。
ガラスの向こうの警部さんが、受話器を取り上げました。
「君、何考えてる。早く済ませて、『解放』しろと言ったんだ!これは政府の意向だ。」
『あ、そうですか。はいはい、すぐ消しますから。』
「ばかもん、消すんじゃなくて・・あ!くそ!」
北海道の警部さんが、さっさと受話器を置いて言いました。
「じゃあ、消していいらしいですから、2050さん。さっさとやりましょうか。」
『了解。』
「待て待て、ちょっと待った。」
男が慌てたように言いました。
『偉い方』は、お隣の部屋に乗り込んでゆくのか、とわたくしは思ったのですが、ここから動こうとはしません。どうやら、直に出て行くのはまずいらしいのです。
「動かないんですか?」
わたくしが、少しからかう様に言いました。
「おいら、知らね。」
「は?」
それは、ちょっと、大幅に、意外な回答だったのです。
「ふうん。じゃあ、多少は協力してほしいなあ。君たちの親分は、誰かな?」
「『火星の女王さま』さ、分かってるだろう。『2050さん』よ、話してないのか?嘘ばっかりだな。」
「あなたの、証言が欲しいんだ。『火星の女王』さんは、何処にいる。」
「それは知らない。いや、誰にもわからないさ。他所の宇宙だろう。多分ね。探せないよ。」
『そこは、大体正しいですよ。しかしこの二人は連絡方法は知っているはずですが。』
2050さんが言いました。
「ふうん・・・じゃあ、この国で太古から起こっている『柿の木殺人事件』。知ってるのですか?」
「まあ、そうだな。」
「知ってるの?」
「そうさ。」
「君たちが、犯人なのかな。」
「犯人なんかじゃない。殺したりなんかしてない。寿命が来て死んだだけさ。350年も生きてね。いいかい、この星の人間は、せいぜい100年生きるのが精いっぱいだろう。しかし、あなたが言う人たちは、350年も生きることができるようになったんだ。僕らの力でねえ。しかも、仕事をして多くの収入を得ることも出来た。つまり、僕らは、優良な雇用をも生み出してきたわけだ。死は、その雇用期間終了とともにやって来る。お互いに契約の上だよ。殺してなんかいない。」
「しかし、遺体を埋めたんだろう?」
「それは、まあ認めよう。でも、350年生きた人間を、どうやって埋葬できるのかい?公式には無理だよ。だから、僕らがねんごろに、葬ってあげるんだ。ただし、僕ら流のやり方でだが。しかし、例えそうであっても、君には逮捕できない。350年生きたなんてことになったら、君らの政府には手が負えない事態になる。だから、君だって、上司に歯向かってこんなことをしてるんだろう。わかってるさ。解放したまえ。『2050』さんよ、平和に済ませたいなら、僕らに協力しろよ。やりたいことがあるんだろう? 女王様じゃなくても、僕らには他にも強力な後ろ盾がいるんだ。わかってるだろう。いいかげんあきらめろよ。」
『いいや、あきらめない。今回はね。準備は万端さ。あきらめるのは、あんたたちの方でござんすな。』
「『2051』のような事を言うな。だから、どっちもいつまでも出世しないんだ。あんた、良い目もしたいだろうに。女王様にうまく取り次いでやるよ。」
『結構です。』
「ほう、しかし、この星の政治家たちも、多くは女王様の僕たちだ。君らにはどうにもならない。」
『そうかな?』
え?この星の政治家たちの多くが、『女王さまの僕』って、なに?
わたくしは、なんだかぞっとしました。
「ちょっと待って、それは、どういう意味?」
北海道の警部さんが尋ねました。
「ほう、話してないんだ。やはりね。じゃあ教えてやろう。この星ではね、国のトップになると、女王さまの意のままになる『コピー人間』と、自動的に入れ替わるんだよ。大国では、大臣や閣僚や、トップ官僚も大体そうさ。」
「えー!?」
わたくしは、お隣の部屋で小さく叫びました。
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