第6話  宇宙人にはなりたくない  

「なぜ、このようなことをするのですか?わたくしになんの恨みがあるのですか?」

 わたくしは、そう尋ねました。

「まさか、恨みなんかございません。それどころか、あなたをとても気に入ったのです。だから、是非我々の仲間になっていただきたいのです。」

 柿子さんがそう言いました。

「いやいやあ、そんなに性急な事を言っては、この人が混乱するだけだ。順を追って話さなきゃあ駄目だよ。」

 男の方がそう言いました。

「まあ、こうゆう事なのです。先ほど少し言いかけたが、我々はこの宇宙ではない別の宇宙からここに来ているのです。本来、生き物が別の宇宙に移動することはできないとされていたのだけれども、我々の世界のある天才が、まあ、シモンズという人だが、この常識をひっくり返してしまったのだ。彼は、物質を重力に変換させることで他の宇宙に入り込ませることに成功した。といっても、ぼくにはさっぱり理屈はわからないがね。そうして、この宇宙間を移動できる船を開発したんだ。しかし、この技術は、悪用されると大変危険なので、我らが『女王様』が門外不出とした。『女王様』傘下の特殊組織だけが活用することを許されたんだ。あくまで研究目的に使用されるだけで、軍事的な用途には使わない。ただし、さまざまな情報収集には使用する。ぼくらは、その情報員なんだ。」

「十分、怪しいです。」

「ふん、まあ聞いて。とは言え、少数の情報員ではやはり手が足りない。そこで現地人に仲間になってもらって協力してもらう事にした。まず、我々のために働いてもらうために、わが『女王様』に忠誠を誓ってもらう。つまり心理的には、我々と、同じ価値観を共有してもらう。まあ、同胞になるという事だ。そうして、我らの指示によって活動してもらうことになる。その替わりに、それなりの報酬と寿命を提供するんだ。年収は約1億円で、寿命は350年なんだ。きっかりね。短くも延長も出来ない。そうして、目出度く350年経つと、死ぬ日がやって来る訳なんだ。」

「それって、宇宙人になるという事なのですか?」

「まあ、きわめて卑俗な言い方ではあるが、わかり易く言えば、そういうことだね。あなたから見て、地球人は、自分とは違う『存在』だ、という認識になるからね。」

「そうなんだけども、素晴らしい体験になるわ。なってしまえば、それが当たり前だから、全然おかしくないの。」

「まあ、そういうことだね。350年経った日、ぼくらは、ささやかながら、祝宴を開くんだ。そうして、どんちゃん騒ぎをした後、対象者は死を迎える。ちょっとした儀式のあとで、特殊な薬品ですぐに白骨化させて、埋葬するんだよ。」

「いやです、いやです。冗談じゃありません。お断りいたしますので、帰してください。もう二度と近づかないで。」

 わたくしは叫びました。

「そうはいかない。もう、ここに来てしまったんだからな。」

 男は、わたくしの手を掴み、無理やり引っ張って、床の丸い輪の中に立たせました。すると、周囲には何も見えないのに、そこから出ることができなくなったのです。

「出してください!」

「大丈夫、怖くない。処置はすぐ終わるわ。すぐにあなたは、私たちの仲間になるの。」


 **********   **********


「見つけましたよ、変なのを。これですね。」

「これって、どう見たらいいのかい?」

 警部が首をひねりながら、『カーナビ・アーニー』に尋ねた。

「これは三次元映像です。ほら、ここが旭岳。その上空にあるこれ。」

「なんだ?」

「これは地球人のレーダーでは見えないものですが、『宇宙船』です。というか『次元航行船』と言うか。あなたの目的の女性は、ここに乗っていますね。おそらく同化をされるんだろうと思います。」

「何だ、同化って?」

「仲間にすること。まあ、異次元空間人の仲間になるわけです。結構危ない連中で、人間から吸血もしますし、食人もします。理屈は結構立派な事も言いますが。ああ、もう改造されそうですね。」

「冗談じゃない。見えてるなら、とにかく、止めろよ。」

「あっさり言いますね。結構、高くかかりますよ。後払いで結構ですが。」

「金とるのか?」

「そりゃあまあ、商売ですから。」

「わかった、こっちは公的機関だ、金ならある。やってくれ。」

「ふうん・・・・?あなたは確か、職場の除け者でしたよね。まあ、いいでしょう。じゃあ、阻止します。」


 **********   **********


「じゃあ、行きます。」

 男が、何かのリモコンのような装置に手を触れたのです・・・・

「あらら?」

「どうしたの?」

 柿子さんが尋ねました。

「動かないな。」

「故障かしら?」

「いやあ、故障なんかしたことないぞ。5000年以上。おかしいなあ。」

「ふうん・・・コンピューター調査しなさい。」

「ハイ、カクニンチュウデアリマス。」


 何か、機械のような声が聞こえたのでした。































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