第5話  宇宙船

 わたくしを乗せた自動車は、石狩川沿いにどんどん山の中に入って行きました。

 もっとも、わたくし自身は気を失っていたので、どこをどう進んだのか、さっぱりわかっておりません。


 やがて、ふと気が付いてみますと、わたくしはベッドの上に寝ておりました。

 その、脇には柿子さんがおり、向こう側の窓側には、あの男が椅子に座ってスケッチをしていたのです。

 わかくしは、はっと起き上がりました。

「ここは、どこでしょうか?」

「旭岳の上空あたり。」

「は? 上空?」

「そう。宇宙船の中です。ただし宇宙船というのは語弊があって、宇宙空間移動装置といった方が正しいでしょう。」

「宇宙空間移動・・・なんですか、それ。」

「ほら、ここから外を見てごらんなさい。」

 男が言いました。

 わたくしは、彼が座っていた場所の大きな窓に近寄って行きました。

 少し、ふらふらします。

 柿子さんが、優しく体を支えてくれました。

 魔女なのか天使なのか、わからない人です。


 そこから見たものは、基本的に、まっくら。暗闇。

 でも、向こうの方に明るい光の群れが見えています。

「あそこが、旭川市。あっちにちょっと富良野が見えている。でもね、ここには大きな大自然がある。僕はこの暗闇が好きだ。」

 彼のスケッチを見ると、本当に画面の中に引きずり込まれそうな『暗闇』の絵だったのです。

「ここは、お空の上?ですか。」

「あなたは本当に上品な方。その通りですよ。」

「あの、攻撃されませんか?戦闘機とか?」

「残念でした。ここの地球人には、見えないんだなあ。よく出来てるでしょ。だから助けも期待は出来ないの。」

「あなた達、どこの人?」

「そうねえ、何処というのはなかなか、難しいんです。」

 柿子さんは、わざと、もったいぶったのです。

 代わりに男が答えました。

「この宇宙ではない、他の宇宙の、元『火星人』、かな。」

「はあ???」

「宇宙はひとつではない。無数に存在するんだ。しかし、その間を行き来することは不可能だ、と考えられている。女王様以外は。」

「女王様って誰ですか?」

 わたくしは、悪い癖で、枝葉の話の方に寄って行ってしまいました。

「火星の女王様。絵を見たでしょう?」

「ああ、あのお家の絵。燃えてしまったお家の。」

「そうそう、でも絵は無事ですよ。ほら。」

 男は、あの時と同じように、白い大きな布がかぶせられていた絵から、その布をはぎ取りました。

「ああ・・・それ。」

「これが火星の女王様。やっと、完成したんだ。まあまあの出来かな。」


 ************   ************


 警部さんは、その特製の自動車を走らせました。

 もう夜になってきました。

 コンビニの駐車場に停車して、警部さんは大きな液晶画面を睨みました。

「ええと、付けてはもらったが、使い方が良く分からないんだ。ええ、オンして・・・」

『こんにちは!』

「は?」

『こんにちは!警部さん。』

 カーナビがしゃべりました。

 警部さんはびっくりしました。そりゃあそうでしょう。わたくしなら気絶したかもしれません。

「ああ、こんちは・・」

『どうも、ぼくは、アーニーです。よろしく。』

「ああ、いや、よろしく。」

『何を探していますか?』

「いや、あの、女性なんだ。」

『恋人ですか?』

「いやいや、仕事だよ。殺人事件に絡んで保護しなきゃあならない人だ。重要参考人かな。」

『どの事件ですか?』

「ええと、『柿の木殺人事件』と巷では呼ばれている。」

『わかりました。静岡県で発生した『柿の木殺人事件』ですね。犯人はまだ捕まっていません。どちらも、住宅敷地内の柿の木の底から、多数の人骨が発見されました。古いものは江戸時代以前にまで遡り、古墳というべきものですが、上の方には最近の人骨が乗っかっていました。火災で焼失した住宅二軒には、同じ女性が住んでいましたが、犯人とは思えないが、何らかの関連があるのではないか、と警察は考えています。昨日から行方不明。』

「ほう、すごいな、でも僕はね、彼女は被害者なんだろうと考えているんだよ。」

『被害者ですか。』

「そう。君はこの種の事件が大昔から起こっている事なんて、まあ、知らないよね。」

『いいえ、この柿の木の下に、人骨が埋められていたという未解決事件は、江戸時代以前からありました。古くは、平安時代に遡ります。』

「え?そうなの?」

『はい。場所も、関東地方一円に広がっています。』

「ふうん・・・・そうなんだ。いやしかし、僕が絡んでるのは江戸時代末期以降なんだ。ひいひい爺さんから、我が家はその時代の警察官家業だった。そのころからずっと、この『柿の木殺人犯』を追いかけてきたんだ。しかし常に上層部からの邪魔が入ったりして、上手く解決できないまま、今に至った。こんどこそ捕まえてやる。」

『そこで、アーニーがあなたの元にやって来たのですよ。これは、決して偶然ではありませんからね。』

 

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