第4話 お引越し
なんでまた、お引越ししなければならないのか、と思うと、悲しくなって涙が出てしまいます。
なにやら、殺人事件の犯人、とまでは言わないとしても、明らかに、重要参考人扱いですし。
それにしても「柿子」さんとは、いったい何者なのでしょうか?
わたくしは、例の刑事さんに電話をいたしました。
「あの、北海道にいらっしゃるんですか?」
「ええ、いますよ。」
「あの、とても怖いので、そちらの近くに引っ越そうかと思うのですが。北海道には柿の木は少ないと聞きますし。 」
「は? そりゃあまた、思い切ったことを。そうですね、移動の自由は侵せませんが、ぼくは、どうせまた引っ越しになるからなあ。それに、あなた、ここは冬は大事ですよ。慣れてない方は苦労するんじゃないかと思いますよ。」
「実は・・・・・・。」
わたくしは、事情をお話しいたしました。
「おおお、それは、確かに怖いですなあ。」
「それにですね、あの、ここだけのお話ですが、あの若い刑事さんが持っていらっしゃった名刺入れに、小さなアクセサリーがぶら下がっていましたが、その形が、あの男がくれたものにそっくりで・・・・」
わたくしは、あのお家でもらった星形のペンダントの話をしました。
「その、謎の男がくれた、ペンダントって今どこに、あるんですか?」
「それが、あの、ここに引っ越してきて、家の棚の中に放り込んでいます。」
「ふうん。今、手元には無いのですね。」
「はい。」
「よし、いいですか。じゃあ、長期間の引越しにはならないでしょうが、短期滞在くらいのつもりで、来てみてください。部屋は、ぼくがとにかく用意します。で、持ってくるのは最低限にし、そのペンダントは、ほっといてください。持ってこないようにね。絶対ですよ。」
「あの、ペンダントが何か?」
「はっきりしないけど、気になります。」
「はい。あの、明日すぐ行こうかと。」
「それはまた、早いなあ。部屋がすぐには見つからないでしょう。」
「あの、とりあえずホテルに入ります。お金持ちじゃあないけど、家族もいないから何とかはなりますから。」
「ああ、いいですか、じゃあ、旭川に着いたら電話してください。」
「はい・・・。警察には、言いません。」
「もう、言ってるじゃないですか、十分です。」
とにかく、ここから脱出だ!
そう、思いました。
************ ************
夜が明けるか開けないかと言う時間に、わたくしはタクシーで出かけました。
自動車は車庫の中に置いたままです。
荷物は、実際、夜逃げ程度です。
とにかく電車に乗って、新幹線が出る静岡駅まで行きました。
それから、顔を隠すような感じで、東京方面に向かいました。
なんだか、ずっと誰かに監視されてるような気がして仕方がありませんでした。
すべての人が、柿子さんの仲間のような気がしました。
東京で乗り換えて、遥かな北海道に向かいました。
*** *** ***
とにもかくにも何事もなく、旭川には到着しました。
そこで、言われていた電話番号に電話いたしました。
「ああ無事でよかったです。では、迎えに行きますから、駅で待っていてください。白のセダンです。」
「お願いいたします。」
やれやれと思いながら、待っておりますと、真っ白な自動車がやってきました。
「あ、警部から迎えに行くように言われたので。」
警察風の帽子を被った運転手の方と、助手席の人。
「ああ、すみません。」
わたくしは、軽率にもよく顔も確かめずに乗ってしまいました。
そうして、乗車して初めて気が付いたのです。
「あ、あ、あ、あなたは!」
「お久しぶりです。お待たせしました。」
「降ろしてください!」
わたくしは、パニックになりました。
運転手は、あの柿子さんのご主人らしき人だったのです。
助手席にいたのは・・・
「やっと捕まえた! ね!」
そう、柿子さん、その人でした。
暴れようとしたわたくしに、なにやら、しゅっと『キリ』が吹きかけられました。
********** **********
警部は、少しだけ遅れて、駅に到着したのでした。
でも、わたくしの姿は当然ありません。
すぐに、電話をかけてくださったのですが、わたくしは気絶していましたから連絡が取れませんでした。
「くそ、ペンダントじゃなかったのかな。」
警部はつぶやきましたが、そのまま、わたくしを探しに出かけたのでした。
一方、柿子さんは、わたくしのカバンから携帯を見つけて、車の窓から川の中に放り捨てました。
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