第2話   疑惑と実行

 わたくしは、やはりその夜は、どうしても眠れませんでした。

 11時が過ぎ、もう夜中です。

 そのとき、聞こえてきたのです。

 またあの、どんちゃん騒ぎが。

 「ああ、おんなじだ。おんなじだ。」

 わたくしは、お布団をかぶってしまいました。

 今、借家には、あの二人しかいません。

 周囲に家はなく、そういうあたりもまた、あの借家と同じです。

 「嫌、嫌、嫌・・・」

 わたしは、じっと我慢していました。

 警察に、携帯で電話しようかとも思いましたが、あの刑事さんが言ったことが、ひっかっかていました。

 地元の警察は、何かを隠そうとしているんだ・・・。


 どんちゃん騒ぎは、一時間ほどで収まったようでした。

 やれやれです。

 ところが、今回は続きが来ました。

 前の時も、あったのかもしれませんが、わたくしは気が付かなかったのです。


「じゃり、じゃり、じゃり・・・」

 という、何だか地面を掘るような音がするのです。

 確かにあの借家のあった土地は、とても柔らかい土で覆われていましたが、このあたりは、もっと川の堤防に近いようなじゃりじゃりした砂地です。

「じゃり、じゃり、じゃり・・・・・。」

 気にするなという方が無理でしょう。

 私は、起き上がりました。

 音は、明らかに柿の木の方向からしています。

「行っちゃいけない。」

 理性はそうささやいています。

 でも、体は、どうしわけか、何かに引っ張られるように、外に出てゆくのです。

 ぽつんとついた、裸電灯の街灯。

 その下の柿の木。

 ああ、そこには、いたのです。

 あの、柿子さん・・・にそっくりな、柿与さんにそっくりな・・・柿恵さん。

 それと、あの男の人が。

 男の手には、スコップが握られております。

 柿恵さんは、何かのかごを手に持っています。

「ああ、こんばんわー。もう夜中にすみません、」

 柿恵さんが明るく言いました。

「実は、覚悟はしていて、用意もしてたんですが、ネズミさんが三匹もつかまっちゃって、お湯に浸して、いま埋葬しましたの。」

「こんな、夜中にしなくても・・・・・」

「そうですねえ。ごめんなさい。」

 わたくしは、この近所迷惑なご夫婦に、少し懲らしめをしなければ、という気持ちもあったのだと思います。こう申しました。

「さきほど、随分騒いでおられたようですが、お客様ですか?」

「あらまあ、やっぱり聞こえました? まあそりゃあ聞こえますよねえ。だから言ったじゃない。ほどほどに、って。」

 彼女は、旦那さんをしかりました。

 彼は、長い髪の毛をかきむしりながら、頭を下げました。

「まえに、住んでいた家のお隣では、柿子さんという、あなたとそっくりな方と、そのご主人が、同じように騒いでいらっしゃいました。あなた方は、ご親戚ですか?」

「ああ、それですね。柿与もいますよね。」

 ほら、やっぱり知ってるんだ!

「柿与さんは、柿子さんを双子だとおっしゃってました。」

「じゃあ、やっぱり三つ子なのですわ。」

「はあ?」

「もう、あなたも気になる方なのですねえ。」

「だって、あの柿の木の下からは、人の骨がたくさん出てきたんですよ!」

「あらあら、もう、警察っておしゃべりね。ねえ、秘密を知りたいでしょう?ならば、この穴の中を覗いてごらんなさい。ほら、ね。」

 だめだ、ここで帰ろう、警察に電話しよう。

 わたくしは、そう思いましたが、なんだか本当に体が勝手に動くのです。

 そうして、一歩一歩、その穴に近づいて行きました。

「まあ、あなたも一度埋まって、私になればわかる。わたしの仲間になれる。それからこの木が育つ。また私が生まれる。」

「やめてください。」

 でも体が止まりません。

 穴の上から、ずっと深い中を覗き込むように・・・・何かが放り込まれているようですが、暗くて良く見えませんでしたが・・・。

「警察だ」

 男がポツン、と言いました。

「あらら、あなた連絡してたのね。おかしいなあ、あれだけ柿のエキスを注入したげたのに。じゃあ、またね。必ず会いましょう。ばいばい。こんどは、早めに仲間にしてあげるからね。」

 二人は、立ち込み始めた深い霧の中に、煙のように消えてしまいました。


 霧を払いのけながら、パトカーが駆けつけてきました。

「大丈夫ですか?」

 若い警察官が二人、来てくださったのです。

 わたくしは、その場に崩れ落ちました。


「いやあ、北海道から先輩が連絡してくれて、おかしいから見回ってくれって言われましてね。なにがあったんですか。」

 付き添ってくれていた警察官の方がおっしゃいました。

 わたくしは、今夜あったことをお話しいたしました。

「はあ・・・・。」

 すると、外に出ていたもう一人の警察官が入って来て、もう一人に耳打ちしました。

「うわ。それ、ありっすか。ううん。先輩が正しかったか。」

「どうなさったのですか?」

「いやあ、あなたにはショックかと思いましたが、仏さんが出ました。それも、かなりたくさんのようです。」

「朝から、詳しく調査させてください。先輩からも聞いていますし、ぼくたちが担当しますから。」

「はい・・・・はい・・・・。」

 わたくしは、泣き始めてしまいました。

 もう、我慢出来なかったのですもの。









 

















 






  

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