続 隣のかきはよく客喰うかきです
やましん(テンパー)
第1話 え? 柿子さん?
わたくしは、ほんとうに目と耳を疑いました。
だってどう見たって、柿子さんでしょう。
二人目の『柿与』さんだって、まあ双子とか言ってましたけど
あれも『柿子』さんです。
だって、右耳のほとりに、小さな黒いしみがありましたもの。
三人共ですよ。
男性だって、どこもかしこも、あの夜のあの方です。
あの、筆を持つ手の指の扁平な形。
たこのできてる場所。
右手首の目立つあざ。
同じです。
どっちもが三つ子で、同じ特徴があるなんて、ちょっと信じられない。
警察の方のお話では、木の下から見つかった新しい遺体は、全部男性だったとのこと。
つまり「柿与」さんのお話は、多分、うそなのです。
なので、わたくしは、もう十分怖くなっておりました。
それに今回は、自分から家を出てゆくというわけにもゆきません。
「それはどうも。」
と、うつろなご挨拶に終始いたしまして、とにかく早くこの場は終わらせたかったのです。
お二人がお帰りになってからすぐ、わたくしは、警察に電話いたしました。
あの刑事さんに、とにもかくにも、とるものもとりあえず、お伝えしておかなければならないと、思いました。
ところが・・・
「ああ、あの刑事は先日急に転勤になりました。後任の者でよろしければ、お取次ぎいたします。」
「え・・・・・あの、ぜひお伝えしたくて、あの、なんとか連絡つきませんか?」
「はあ、そう申されましても・・・」
「あの、お礼をしたいのです。お世話になったので。」
「わかりました、じゃあ、こちらから連絡とってみます。お名前と、お電話番号をお伺いしていいですか?」
「お願いします。」
わたくしは、電話がかかってくるのを、じっと奥の部屋で待っていました。
わたくしの他には、この家屋内には、誰もおりません。
かなり、心細い状況だったのです。
買い物にも行きたかったのですが、なぜか外に出るのも恐ろしく、夕飯は、ありあわせのもので済ませました。
あたりは、真っ暗です。
ここは、町はずれの田舎。
コンビニまでは、自動車で行かないと、相当遠いのです。
スーパーは、そのまた向こうです。
テレビを付けても、上の空です。
電話の端末機をテーブルの上に置いたまま、ただひたすら連絡が来るのをまっておりました。
もう、夜も九時前になって、その電話は鳴りました。
「ああ、すいません。遅くなっちゃって。お電話いただいたそうで・・・。」
あの刑事さんの声です。
「ああ、よかった・・・実は・・・」
わたくしは、相手のお話も聞かないで、今日のことを、どかっとお伝えいたしました。
「なるほど、わかりました。それがですな、実は急に北海道に転勤というか、出向と言うか、させられちゃいましてね。まったく、ぼくもびっくり仰天ですよ。転勤の時期じゃやないですからなあ。まあ、何と言いますか、なんですなあ。ううん、それはしかし、不思議ですよ。実はね、ここだけの話ですが、あなたが引っ越した、あのアパートですが、あのあと非常に不思議なことが起こったのですなあ。
ぼやが出ましてねえ、幸いけが人とかは無かったんですが、あそこにも、柿の木があったでしょう?」
「はい、ありました。」
「あれがね、焼けたんですなあ。それもおかしな焼け方でねえ、なんか、根っこから焼けてしまって。」
「根っこから?」
「ええ、そうなんですよ。おかしいでしょう。ぼくは、担当からは、外されてましたが、まあ親切心から、木の下を掘るよう言ったのですが、例の上から来た連中にこっぴどく叱られましてなあ。ぼくはノンキャリのぺーぺーですから。歯が立ちませんよ。で、すぐ、転勤ですわ。お話の内容が内容ですから、さっそく地元の担当には伝えます。できれば僕の後輩の若いのを行かせたいですなあ。いいですか、夜は出来るだけ動かない事。今夜は、来客があっても、はっきりしているもの以外はほっときましょうや。電話もですよ。担当とまずよく話してから、行動については、それからよく考えてください。いいですね。また、何かあったら電話します。実は、ぼくが勝手に気になってることもあるのでね。でも僕がそう言ったことは内証にしてくださいよ。また大目玉ですから。じゃ。気を付けてください。ああ、携帯の番号は変わってないですか・・・。今度かける時は、携帯にしますから。了解です。僕の番号を言っておきます。あ、そうだ。そこにも柿の木がありますか? ああ、あるのですなあ・・・。でも、今はいじらないでください。掘ったりはしないでください。いいですか・・・・・。じゃ、また。」
それで、その晩の電話は、終わりになりました。
不安でしょうがない夜が来ました。
夜中の10時に、有線電話が鳴りましたが、留守電にして応対いたしませんでした。
さらに11時になって、また電話が鳴りましたが、ほっておきました。
特に何も録音は、されておりませんでした。
それから、その、深夜となったのです。
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