Chapter1-Ep.1 事の始まり。『序』

この物語の舞台は神戸。悪夢とは、得てして記念日に起こり易い。12月25日クリスマスである。


「我々、〔神の使い〕東アジア統一戦線西日本支部は、崇高なる我等が神を崇め奉り、真の平等世界と世界平和を目指さんとする!我々は、戦争を商売に用いるナショナリズム国家に対し激しい怒りを覚え、政府の犬とかしている悪魔的魔導師たち神の鉄槌を下さんものとする!」

「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」

「魔法師は悪魔の化身である!」

「「「そうだ!」」」

「魔導士は人間ではなく、化け物である!」

「「「そうだ!」」」

「虐殺せよ!神の思し召しのままに!世界平和のために!」

「「「神の意向のままに!政府の犬を叩き殺せ!!!」」」

「聖戦の始まりである!続け!平和を愛する民よ!」


指導者と思しき男が叫んだ瞬間、火蓋は切って落とされた。


銃声、砲声、叫び声。憎悪という憎悪が弾丸に、砲弾に、声帯に込められていた。


~ほぼ同時刻~


「全校生徒並びに教員に呼び掛ける!地下シェルターへ避難せよ!これは訓練ではない!繰り返す!地下シェルターに避難せよ!尚、本校関係者以外は発見次第、順次撃破せよ!」

生徒は、唐突なその校内放送に戸惑っていたが戻ってきた担任の焦った表情と先の放送、何より今外から聞こえている「音」に、サンタからのクリスマスプレゼントでは無い事だけは察して不安げな表情に成りながらも体育館下の地下シェルターへ避難を始めた。


今のところは、学園の周りを覆う「対弾防護フィールド」が敵の火器やミサイル等から生徒を守っているがこの規模で撃ち続けられたら、10分も持たないだろう。


そして、校庭や学園屋上等では教員、生徒会など腕に定評のある1部の生徒に依り20名の学園防衛有志隊が結成され学園内に侵入してきた襲撃者と交戦を始めているが圧倒的な火力の前に防戦一方だ。


そして、その時は来た。


襲撃者が後方より1発のミサイルを撃った。そして、それが防護フィールドに当たった瞬間ガラスの割れた様な、然しそれと比べ物に成らない位大きな音が響いた。後からの捜査で分かったのだが襲撃者が撃ったミサイルは東側諸国御用達の武器製造国で今年実用化されたばかりの携行型対魔法無反動砲「MPG‐9」であった。


不幸中の幸いと言うべきか、それとほぼ同時に

「防衛有志隊を除き全校生徒並びにが学園関係者の避難完了しました!」

と若いグレーのスーツを身に纏った教諭が、校長に報告を上げた。


「ご苦労、副校長現段階での現状報告を。警察や軍は一体何をしている。」

校長が重い声で副校長に尋ねた。


「はい、校長。現在、我が校の地上階は制圧されました。地下一階で防衛有志隊が襲撃者と交戦中。現場からの報告も合わせ希望的数値を申しますと、遅滞戦闘で30分が限度です。」


「30分持たせられれば十分だ。侵入に5分、防護フィールドを破られるのに10分で、遅滞でそれだけ持てば襲撃者に対する制圧部隊が到着していることだろう。して、警察や軍はいつ頃到着する?」


「それが、全く通じないのです・・・軍への緊急回線も繋がりません。また、生徒の通信機器から警察に通報したのですが”現場に異常なし”と・・・」

副校長は苦虫を噛み潰したような顔で話す。


校長には俄か信じがたかった。軍も警察も動かない、それに何より敵の武装だ。今までも自爆テロなら今までに1回あったが今回は明らかに違う。この規模での襲撃になると誤魔化しなど本来は不可能だ。つまり、誰かが手引きしたのだ。軍にも、警察にも介入できるだけの人間が。そうなると、広い日本といえども手引きした人物は限られる。


「国保省の二三雲か・・・」

校長は、溜息ととも取れる掠れた声で呟いた。二三雲とは国家保安省の長官でありながら、裏では東側諸国と太いパイプで繋がって居ると言われている人物だ。

校長が再度、口を開ける。

「副校長、一つ尋ねる。今の、30分という数字は“防衛有志隊が無力化”されての数字か?」


「はい、校長。誠に遺憾ながら。」副校長は、悲壮を隠すために成る可く事務的に聞こえるよう答えた。


「判った。地下シェルターに集う、諸氏に呼びかける!今すぐ、前面の扉に対して持続系硬化魔法及び衝撃吸収の魔法を展開せよ!怪我の浅い者、術の使える者は前へ!出来る限り時間稼ぎするぞ!」

「「「ハイ!」」」

校長の呼び掛けに返事の出来る総ての者が返事した。


校長の呼び掛けに依りシェルター内でも無力な遅滞戦が始まった。

そして、20分後。


「「「・・・・・・ドォォォォン!!!!!」」」


扉に確かな重みが、シェルター全体が揺れた。


その直後、索敵を得意とする教師がこの世の終わりかと思うような悲痛な声で

「防衛有志隊が・・・無力化されました・・・!」


そこからは、地獄の業火に焼かれるのを待つ罪人の気分だった。


5分程度時間が経ったろうか。先の教師が今度は、憔悴しつつも今度は満面の笑みで「友軍到着しました!こちらに向かっています。」と報告を寄越した。


だが、まだ気は抜けない。軍への緊急回線が繋がらなかったのだ。下手をすれば敵の増援部隊の可能性もある。この扉もいつまで持つか分らないからだ。


然し、神が居るのなら…そう願わずにはいられなかった。そして神は我々を最後の最後で救済した。


前面の扉がまるで、始めから何の防護魔法も無かったかのように開かれた。次の瞬間、ロボットスーツの様なものに身を包んだ軍人と思しき男が50人程度、入って来て生徒の保護を始めた。最後に30代半ば位のやや痩身気味の男が入って来て声を上げた。


「テロリスト集団に対し勇猛果敢に抗い、抗い抜いた皆様に敬意を。小官はAPF(武装警察軍)暁総帥が名代の第一旅団第一連隊所属第一大隊〔トリプル・ワン〕大隊長の如月中佐であります。外の襲撃者は、こちらで対処しました。数名、逃走中ですが時機に此方も片が付くでしょう。」


「ああ、よかった。敵の増援部隊なら自爆魔法でも使おうかと思っていたところです。貴殿らが世界最強と呼び声の高いトリプル・ワン大隊でしたか。私は、この学園の校長です。こちらにいるのは、副校長。2つ聞きたい事が。宜しいですかな?」


「どうぞ。」


「感謝します、1つ目は外で本校関係者が抵抗部隊を結成し交戦して居た筈です。彼等は・・・そして二つ目は、貴殿らが出動されたと言う事は❛そう言う事❜ですか?」


「小官が把握している限り回答します。まず1つ目ですが、襲撃者と交戦中に貴校の教諭7名、生徒6名の遺体を確認しました。また、2点目は質問の意図が解りかねます。我々は’指揮系統’に則り対テロ出動したまでです。」


「そうか、それだけで十分です。有難う。」


そうして、生徒と教師や学園関係者地下シェルターに逃れた人は無事助かったが無事を喜ぶにはあまりにも犠牲が多すぎた。


最終的に、学園側の死者は教師10名、生徒7名。防衛有志隊の8割強が命を落とした。重傷者も教師4名、生徒6名(うち5名は防衛有志隊)軽傷者まで加えると全員だ。


なお、襲撃者はAPFと交戦し全員死亡した。捕らえられた者もいたのだが体内に隠した小型爆弾で自爆したのだ。かく、事件は「血のクリスマス」として後世に残る大事件となった。




そして2日後、

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