第10話
――とにかくマミーの方から何とかしよう。
アシュトは微かな気配を頼りに、マミーと謎の敵の位置を探る。すると新たに出てきた謎の敵は、アシュトの後ろ後ろへ回り込もうとしていることが分かってきた。
――なるほど、だったら。
アシュトは警戒しながらも敢えて敵の動きを邪魔せず、マミーが前方に謎の敵が後方に来るタイミングを待つ。しばらくして謎の敵が背後にまわったその瞬間。
謎の敵を置き去りにして、すかさずアシュトは前方に飛び出す。暗闇の中で見えないが、このパターンではマミーは両腕を大きく振りかぶって攻撃してくることが多いとこれまでの経験で分かっている。
――イチかバチかだ。
無論、確証はない。だがアシュトは自分の分析と勘を信じ、マミーが振り下ろすであろう見えない腕をイメージしてかいくぐりながら、渾身の気合いを込めて真っ直ぐに剣を突きだした。
――よしっ!
腕に確かな手ごたえを感じ、アシュトはすかさず剣を引き抜きながら身を屈めてマミーの横に回る。見えなくても「そこにいる」と分かっているマミーを袈裟懸けに思い切り斬り下げた。
斬られたマミーが倒れ伏す。同時にアシュトは腰のあたりに違和感を覚えた。いつの間にか謎の敵に回り込まれていたのだ。すかさず跳んで距離を開けながら、頭の中で
「へへ、悪いな」
「ルイードさん、なんで……」
立っていたのはルイード。その手には青く光る玉が握られている。
「いやあ、全くお見事だぜ。あの真っ暗な中でマミーをやっちまうとは。まさかアンタも『暗視』の
「
ルイードの笑いを無視してアシュトが言う。ルイードが握っている玉は、アシュトがブラッドベアを倒して手に入れたレアアイテム『武道家の魂』だった。
「悪いがそれは出来ねえなあ。ここまでアンタに来てもらったのも、これを頂く為だったんでな」
ルイードはアシュトが暗闇の中でマミーと戦う、その時を待ってバックパックから『武道家の魂』を盗んだのだ。気付けばアシュトから見たルイードの名前の表示が青から黄色に変わっていた。
「騙したんですね」
「すまねえが、それが仕事なんでな。森の中でアンタがこれを持ってるのを見て、どうしても欲しくなっちまってよ。案内してやったんだからいいだろ、これぐらい」
「ダメです。返してください。さもないと――」
アシュトは剣の切っ先をゆっくりとルイードに向けた。
「おいおい、これぐらいのことで俺を斬ろうってのか? 物騒な真似は止せよ。だいたいPCを斬ったらPK認定されてレッドネームになっちまうぞ?」
「ルイードさんは俺からそれを盗んだので、俺から見るとイエローネームになってます。街の外でイエローネームに斬りつけても罪には問われない。違いますか?」
アシュトが言うと、ルイードは口の端だけを上げてニヤリと笑った。
「チッ、そういう余分な事だけは知ってんだな。ガイドキャラに聞いたってか。ああそうだ、イエローネームは殺しても罪には問われねえ。だがな、言っとくが俺とアンタじゃレベルが違うぞ? 俺が盗賊だからって甘く見ねえ方がいいぜ」
そう言いながらルイードは右手で腰の細身の剣を引き抜いた。左手に玉を握ったまま剣を構える。
――レベルが違おうが、対人戦なら負けられない。
アシュトはそれに答えず、静かにルイードと向かい合う。
――おいおいマジか。初めて人と斬り合うってのにこの落ち着きようはなんだよ。
ルイードは目の前のアシュトが発する雰囲気に驚きを隠せなかった。普通のプレイヤーならモンスターはともかく対人戦となると緊張する。それが初戦となれば余計だ。だがこのアシュトという男にはそれが全く見られない。
――リアルファイトで慣れてますよ、ってか。だがな、俺だって相当やり込んでるんだ。レベル差もありゃ
そう思いながらルイードはチラッと出口の扉を見た。ルイードは盗みはするが基本殺しはしない。PKではないのだ。アシュトを上手くあしらい、適当なところであそこからとんずらしてやる。
「ふん、黙ってるのが答えってか。いいだろう、アンタがその気なんだったら相手してやるよ。後で泣いても知らねえぜっ!」
先手必勝。話し掛けながらルイードはアシュトの不意を突いて斬りかかった。
格ゲースキルでVRMMO世界を無双する 神河乱 @kamikawa-ran
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