第2話


 ――なんかこの感じ、RFVRと違うな。


 エターナルランド(EL)にログインした勇人は真っ白な部屋の中にいた。いたと言っても自分の姿は見えない。意識だけが漂っているような、自分が幽霊にでもなったような妙な状態だった。


「ハジメマシテ。ワタシハ アナタノ 専用ガイドデス。マズハ ワタシノ ビジュアルヲ選ビ 名前ヲ 決定シテクダサイ」


 声が聞こえる。円形のステージが浮かんでいて、その上に小さなロボットが立っていた。大きさは約5センチ。どうやらこのロボットが話しているようだ。


 ――選べって言ってもどんな種類があるかも分からないんだけど。


 勇人がそう考えた瞬間、ステージのロボットの周りにいくつもの人形のような物が並ぶ。男の子、女の子、羽の生えた妖精、犬、猫、ネズミ、小鳥、ウサギ、果てはミニドラゴンまでどれも大きさは変わらないが、その数は30種類を超える。





 ――この中から選べっていうのか。まあなんでもいいや、これで。


 勇人はタヌキのミニチュアを選んだ。タヌキと言ってもリアルな物ではなく、信楽焼きの置物のようなタヌキだ。女の子とか妖精とかを選ぶとそういう趣味かと思われそうだし、あまりに可愛いのやカッコいいのを選ぶのも狙ってるみたいで嫌だと言う消去法的な選び方だった。


「なんや、えらい適当ですなあ。ホンマによろしいんでっか?」


 勇人が選んだ瞬間タヌキ以外のキャラクターが消え、タヌキが話し始める。


 ――なんで関西弁になるんだよ。


「いや、えろうすんません。この見た目やと関西弁になるように決まってるんですわ。お嫌やったら変えて頂いてもええんでっけど、どないしはりますか?」


 ――ちょっとウザい気もするけど、これなら狙ってるとか思われずに済むだろ。まあいいか。


「いや、ホンマありがとうございます。せいぜい頑張りますんで。ほなワテの名前決めてもらえますか?」


 ――ポン吉で。


「なるほどそらええ名前を……って、そのまんまやがなっ。犬にワン公って付けるんと一緒でっせ。ホンマにポン吉でええんですか?」


 ――だから何でもいいって。


「安易やなあ。けどまあよろしいわ。ほなワテは今からポン吉です。これで『確定』しました。これからずっとワテが付いて説明やらなんやらしていきますんで、よろしくお願いします」


 ――え、ずっと付いて来るの?


「そうでっせ、説明書に書いてましたやろ。一人につき1体専用のガイドキャラクターが付くって。読んではらしませんのか?」


 ――読んでないよ。っていうか先に言ってよ! 


「そう言われてもスタートガイドにも書いてましたやん。普通あれぐらい読みまっせ」


 ――まあいいや。だったら選びなおすからさっきのリスト出してよ。


「ご主人さん、そら無理ですわ。さっき『確定』してしまいましたもん」





「……何度言われても無理なもんは無理ですわ。システム上さっきの選択肢には戻れませんねん。変えれるとしたら正式サービスが始まる時ちゃいまっか」


 ――そんなのおかしいだろ、再ログインしてもここからって。まだ自分のキャラも作ってないのに。


「おかしい言われてもそういう仕様ですし」


 ――じゃあ運営の人呼んでよ。直接話すから。


「無理や思いまっせ、今ちょうど第3次テスト始まったばっかりやからテンヤワンヤで忙しいやろし。クレーマー扱いされるんがオチですわ」


 ――はあ、もういい。分かったよ。いいから次に進んで。


「毎度どうもです。大丈夫、じき慣れますって。ワテ結構可愛らしい思いますよ?」


 ――もういいから!


「ハイハイ、では次行きます。いよいよキャラ作成です。見た目や能力、職業など無限のパターンからご主人のオリジナルのキャラが作れます――ってなんやこれ?」


 ――どうかした?


「いや、ご主人って特別招待のテスターさんなんですね。なんや特別キャラとかいうんがありますやん。ちょっと出してみますわ」





 何もなかった空間にハヤトのキャラクターが現れた。いつも自分がハヤトそのものなので、目の前にこうやってハヤトがいるのを客観的に眺めるのは妙な気分だ。


「とりあえず名前はハヤトになってます。ビジュアル、名前、能力値や職業なんかはいじれるみたいですけど、どうしはります?」


 ――見た目はこのままでいいや。変えると違和感あるし。あ、でも髪の色だけ変えとこうかな。


「何色がよろしいでっか? 今は金髪ですけど」


 ――あまり目立ちたくないから、地味目で。でもちょっとおしゃれな感じがいい。


「贅沢言いはりますなあ。ほな、このブラウンアッシュなんかどうでしょ?」


 ――良く分かんないからそれでいいや。あと能力値も良く分からないからおかしくなければそのままで。


「バランスは悪うないと思いますよ。これからの成長でどないとでもなりますしね。名前もこのままでよろしいか?」


 ――ハヤトだとRFVRやってた人にバレちゃうかもしれないな。目立ちたくないし、ハヤテ、うんハヤテにしよう。いける?


「ご主人、リアルファイトやってはったんですか……残念、もう誰かが使ってるみたいですわ。ハヤテ03とかハヤテZとかやったらいけますけど、どうしますか?」


 ――それはダサいから却下。だったら……アシュトはどうだろう。


「アシュト、いけますな。ほなそれでよろしいか?」


 ――いいよ、アシュトで。


職業クラスはどうしますか?」


 ――うーん、どんな種類がある?


「最初に選べるんは基礎職業クラスの剣士、騎士、拳闘士、僧侶、魔法使い、盗賊です。あと特別招待キャラ限定で上級職の双剣士、大盾重装兵、武道家、ボクサー、精霊使い、付与術師、忍者も選択可能やね」


 ――RFVRで選べたクラスも結構あるな。上級職は魅力的だけど、チートっぽく思われるのも嫌だから基本職でいいか。成長すれば転職できるんだろ?


「具体的な条件は言えまへんが、条件を満たしてアンロックすれば転職可能になります。今言った以外にも色々あるみたいでっせ。詳しくは言えまへんけど」


 ――ならいいや。基本職の中で攻撃にも防御にも向いた万能型の職業はどれ?


「それは剣士ですかね。剣も盾も持ってるんで攻守両方できますし。せやけどそれは逆に言えばちゅーと半端って奴でっせ。そもそも普通MMORPGでパーティー組む時には役割分担があって、敵の攻撃を引きつけるタンクと、ダメージを与えるアタッカー、それに……」


 ――あー、わかったわかった。そう言う面倒くさいのいいから。俺は基本ソロでやるつもりだし。剣士にするよ。


「ああ、ご主人はいわゆるボッチちゅう奴でっか。切ないでんなあ。でもきっとそのうちご主人にも理解してくれるお人が現れ……」


 ――うるさい、それ以上言うとこのゲームやるのやめるぞ。


「わ、分かりました。そないに怒らいでもええがな。ほな確認します。名前はアシュト、性別は男、職業クラスは剣士、年齢は19、能力値はHP20、SP10、MP8、STR12、VIT10、AGI10、MEN8、LUK9です。スキルは剣士の「シールドバッシュ」に全キャラ共通の生活スキル「点火」と「読み書き」「異種族対話」を持っています。以上でよろしいですか? はい / いいえ」


 ――なんだか途中から急にシステムっぽくなったな。良く分からないけどまあいいや、「はい」で。


「ではキャラクターを作成します」


 一瞬目の前が暗くなり、気付くと僕はハヤトとして立っていた。あ、もうハヤトじゃなくてアシュトか。前には小さい信楽焼きの狸が立っていて、僕に向かってうやうやしくお辞儀をした。


「では改めて。アシュト様の専属ガイドのポン吉と申します。どうぞよろしゅう」


 ――こちらこそよろしく。


 ……返事がない。ただのしかばねのようだ。


「あ、もうキャラになりはりましたんで、声に出すかワテに伝えようとはっきり念じて貰わんとワテにはご主人の声が聞こえまへん。四六時中頭の中を勝手に覗かれるんはお嫌ですやろ?」


「なるほど、確かにそうだ。じゃあこれからよろしく、ポン吉」


「こちらこそ。それとワイの姿は他のお人には見えまへんし、声も聞こえませんさかい。他のプレイヤーはんのガイドキャラクターもご主人には見えまへん。ほな行きましょか」


 ――なんだ、だったら他の人の目を気にしてこいつにしなくても良かったんじゃないか。……まあいいか。

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