第3話
「ほな、初期村へ転送します――」
ポン吉の言葉と共に辺りが真っ暗になり、気付けば村の中に立っていた。同じようにログインしてきたのだろう、周りに大勢のキャラクターが現れては歩いていく。格闘場以外の景色は初めてなので感動する。本当に全てがリアルで現実と見分けがつかない。風が吹いてるのを肌で感じる。
「まずは簡単に操作の説明をしましょか。歩くんは普通に出来ると思いますから、その辺のちょっと人がおらへん場所へ移動してください」
やけに耳元で声が聞こえると思ったら、ポン吉が左肩に乗っかっている。コイツずっとここに居るんだろうか。とりあえず言われたとおりに人気のない路地に移動する。
「ああ、この辺でよろしわ。ほな始めましょか。まずは武器と防具の説明から。腰にぶら下がってるんが鉄の剣、背中にしょってるんが鉄の盾です。これは剣士の初期装備なんで、壊れても戦闘中でなければ無料で修復できます。その分威力もあらしませんけど」
言われて初めて腰に剣が、背中に盾があることに気付いた。
「ほんで今着てはるんが革の鎧、革のサンダル、革の帽子です。これはご主人さんの特別キャラ専用装備で壊れたら元には戻りませんから、痛んだら早めにちょこちょこ修理するか買い替えるかせんと無くなってまいまっせ。まあ防御力も知れてますけど。インナーのシャツやパンツなんかは初期装備なんでいつでも再生します。洗濯しなくても脱いで念じたら新しいのが自動的に出てきますんで便利です。ここまではよろしいか?」
「特に問題ないよ」
「では表示の調整とコンソールパネルの操作行きましょか。まずは頭の中でコンソールパネルを呼び出してみてもらえます?」
コンソールパネルが出てくるように念じた瞬間、目の前に半透明の画面が出現した。これはリアルファイトにはなかったシステムだ。いきなりだったのでちょっと驚いた。
「はい、それがコンソールパネルでっせ。これで様々な操作や設定が出来ます。まずは画面表示いじくってみましょか。左下の表示設定を選んでください――」
表示方法を変更し、パーティーメンバーのHPとMPを表示、ターゲットした相手及びモンスターや動物の名前と攻撃性を表示、敵の属性及びHPを表示した。これで会話しようとする相手の名前が表示されるし、モンスターや動物が攻撃的なら名前が赤く表示されることになる。さらに視界右上にミニマップと現在時刻を表示した。ちょっと視界がごちゃごちゃするが「これぐらいは分からないとやりにくいでっせ」とぽん吉が言うので従った。他にもこのパネルで色々調べたり操作したりできるそうだ。ちなみにこの世界での時間は現実時間の3倍の速さで流れる。8時間ログインするとゲーム内では1日が過ぎると言う計算だ。リアルの20分がこっちの1時間っていうのはリアルファイトと同じだな。
「ゲーム内では睡眠をとる必要はありまへん。ただ食事したり宿屋や家で睡眠をとることでHP(ヒットポイント)やMP(マジックポイント)、SP(スキルポイント)を回復することが出来ます。せやからログアウトする時は宿屋なんかで寝てる状態にするんがお勧めです」
「もしゲーム内で本当に寝たらどうなる?」
「一応その間は脳も休まりますから、現実で寝るんと同じような効果があります。でも睡眠時間の効果はリアルと同じですし、トイレとか食事は現実で取らなあきませんからログインしっぱなしっちゅう訳には行かしませんな」
残念ながらゲーム内で寝たら現実時間の3倍の効果って訳にはいかないようだ。当然なんだろうけど。
「ほんなら次はアイテムの説明です。アイテムは腰のマジックバッグに入ってます。ちょっと開けてもらえまっか」
腰についているウエストポーチのようなカバンを開けて驚いた。見た目は小さいくせに中が異様に広い。手をどれだけ突っ込んでも何にも触れない。怖い。
「はは、驚きはりましたか。これがマジックバッグという訳ですわ。だいたい軽自動車1台くらいと同じくらいのスペースがあります。結構入りますやろ。物を取り出すときはそれを頭に浮かべるだけで大丈夫。まずは財布を出してみてください」
頭の中で財布をイメージしながら手を突っ込む――うをっと。手の中に何か飛び込んできた。取り出してみると巾着袋だ。これが財布なのか。
「中には金貨1枚と銀貨10枚が入ってます。これは当座の生活費や装備買うんに使うてください。動物やモンスターを倒すとアイテムが手に入りますから、それを売ってお金を稼いでください。ギルドや街での依頼をこなしても報酬がもらえます。たまに割のええ依頼もありますから、冒険者ギルドの掲示板はちょこちょこチェックするんがおすすめです」
「お金の価値が分からないんだけど」
「両替のレートは金貨1枚=銀貨50枚=白銅貨1000枚=銅貨1万枚です。銅貨1枚がリアルで10円程度の価値ですんで、金貨は10万円、銀貨は2000円、白銅貨は100円、銅貨は10円玉だと覚えてもうたらよろしいわ。ええですか?」
もう頭が痛くなってきた。格ゲーじゃゲーム内に通貨なんてないからな。
「スタート時は全員金貨1枚と銀貨5枚が与えられてます。スリとか詐欺とかに気を付けて下さいよ。リアルと同様この世界にも悪い人はいますから。スリのスキルを上げるとマジックバッグの中からでも盗めますんで」
おいおい、勘弁してよ。ゲームの中でお金すられて無一文なんて悲しすぎるぞ。
「ほなついでに犯罪システムとか説明しておきましょか。キャラクター名は通常青く表示されます。これは普通の状態です。しかし犯罪を犯すと表示が黄色に変わります。この場合の犯罪いうんはスリや盗み、傷害の事です。例えばスリをしても誰がやったかバレなければ問題ありませんが、犯行が見破られて衛兵を呼ばれると黄色表示になってまうんです。この状態になると大変でっせ。街の外で青のプレイヤーを攻撃すると罪になりますが、黄色のキャラクターを攻撃しても罪にならへんのです」
「それってPKされ放題じゃないか」
PKというのはプレイヤーキラー、つまり他人の操るキャラクターを殺す事だ。それをMMOの楽しみとするタイプのプレイヤーも多いと聞く。まあ俺は格ゲー出身だから対人戦は望むところだけど。
「そういう事です。さすがに街中では大丈夫ですが、街から出て行くと誰から攻撃されるか分かりません。時間がたてば青に戻りますが、危のうてたまりませんから気を付けて下さいね」
かなりシビアなシステムだ。間違っても犯罪は侵さないように気を付けないとな。
「あと、盗みや傷害などの罪を黄色の状態でさらに重ねて犯したり、青色のキャラを殺したりすると赤色表示(レッドネーム)になります。レッドネームは衛兵に会った瞬間攻撃されますし、青色キャラは街中でも赤色をノーペナルティで攻撃できます。ですからレッドネームになると普通の街には立ち寄れません。ただしレッドネームが自由に暮らせる街もこの世界のどこかにありますねん」
ちなみにこの世界の衛兵はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、つまりコンピュータシステム「ジェネシス」が操作するキャラクターで圧倒的な強さだそうだ。かなりレベルを上げても逆らうと瞬殺されるという。おっかないけどいつか戦ってみたい気もする。強い相手と聞くと戦いたくなるのが格ゲーマニアの悪いところか。
「アイテムは他に松明たいまつとかナイフとかこの世界の大まかなマップなんかが入ってます。マップはコンソールで表示にしておくと視界の端に出して見ながら進むことが出来ます。あとは――スキルの使い方でんな。ここは街中でっから剣ではなく盾を装備してもらえまっか」
言われたとおりに左手に盾を装備する。初期装備というだけあってRFVRで使っていた盾よりだいぶしょぼい感じだ。
「ほな剣士の初期スキルの【シールドバッシュ】の説明しましょか。そもそもスキルっちゅうんは各クラスによって特有の技のようなもんで、頭の中で特定の
――ブンッ!
ポン吉の説明を無視してシールドバッシュを使ってみた。イメージの中で紋様を結び、タイミングを合わせて盾を強く振ると一瞬盾が光った。よし、いい感じだ。
「なんでいきなりスキルが使えますのん? 大抵はイメージが湧かんとかタイミングが分からんゆうて苦労するもんやって聞いてますのに」
ポン吉が目を真ん丸にして驚いている。って最初から真ん丸なんだけど。
「リアルファイトをやりこんでるからね。この辺は完璧だよ」
「ああ、リアルファイトの経験がありはるんでしたっけ。驚いたわ、ホンマ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます