4 タンパク質による人間支配

人間の脳、というのは、巨大なタンパク質の塊である…と大雑把に括る。


そもそも人間の体ほとんどが、タンパク質やケラチンなんかの成分で出来上がっていて、だからこそ食べるものに自分自身で配慮するという、健康管理の問題が持ち上がるのだ。


「じゃあサイコパスは何食ってたら、サイコパス脳になるんだよ。

だって、タンパク質だぞ?

じゃあ中枢神経の何刺激したらそういうホルモン分泌しつづけちゃうんだろうな。

集団ヒステリーって、そういう、脳を刺激する状態を共有してて、

それぞれが分泌し続けるホルモンを自分でコントロールできてないっていうそれじゃないのか?


てことは流行脳だよな。こういう変な犯罪も、流行の傾向も。

食の流行や生活嗜好の流行に脳神経まで左右されて、

全部タンパク質にコントロールされてんだぞ、人間!!」



目に見えない怪異のそのほとんども、おそらくこのタンパク質にコントロールされてるんじゃないかと常日頃思っていて…そういった事を考えている割に仕事に集中し始めるとざっとしてしまう朝昼兼用の食事に宅配のピザをかじりながら、ここ数日の案件で一気にたまったイライラを、昼下がりのワイドショーに向かって吠えた。



「私は学者先生、医者先生みたいに頭は良くないけども

なんつーか、自分の生活をとりまくものがすべて自分につながってきてるっていうのは、すごくよくわかるぞ。

見えない電波みたいなのも、ついでに人間の間に存在していると思うし、そういうの何の気なしにピピっと受信して、変なのに同調してることだってあると思うぞー!!」



精神病質が犯罪で取沙汰されるたびに、そういう状態がなぜ生まれるのかと考えにふける事がよくある。

薬物依存による症状や精神異常が進行した際、幻覚が見え始めた人間が『悪魔にそそのかされた』『神からのお告げが』なんて一言を言った日には、怒り心頭を覚えることもある。



「…目に見えない世界の住人にとってみても、そんなんで引き合いに出されて。

じゃあ実際にその魔のものが関与してなかった日にゃ、そりゃ悪魔界あげて人間滅ぼそうとしてくるだろ。

”あいつら人間は俺らよりモラルがない”って。

文献見る限り、彼らにも結構厳しい上下関係があるし、厳密な縄張りってのがあるんじゃないか?

そういうのに引き合いに出してしまったら、それこそいい標的カモだろ。」



チラシで眺めた時には、きっと美味しいだろうと予測したチーズの味が、実際にはあまり好みではなかったので、塩をふりかけることにした。



「人間、見たいもんだけ見て生きてるんだ。

精神病質だろうとそうじゃなかろうと、コントロールしてるのは自分。

つまりその混沌の状態であろうと選択しているのは自分なんだから、責任能力なんてのは”ある”に決まってるだろうが。

精神の手綱を完全に手放したら”何もしない”んだよ。


”何かしたい、言いたい、伝えたい”から衝動的な行動に出るわけで。

行動で抗ってる人間には、責任能力はある、と思うぞ、神様。」





ソファの後ろで、死んだはずの人間が大きく翼を広げる感覚を覚える。



「…天使…かもしれないものが見えている状態であったって、国税は払ってんだから、みんなしっかりしてようぜ。

楽園は責任を果たした状態にある。」





今晩あたりから、自分が少しずつまともなタンパク質に整うよう、調整していこうか。

そう思いながら、自分を一番信用できていない祓い屋は、いつものようにそのソファに身を沈めた。

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