第4話


表札に間宮と書かれた少し古い木造建ての家の前に男性が立っている


ピンポーン…チャイムを鳴らす


間宮「はい、どちらさまでしょうか?」


インターホンから声が聞こえる

                   シマダ ヨシキ

島田「監視役として配属された捜査三課の島田 義樹だ。よろしく」


40代前半ぐらいの風格のある男性が挨拶をする


間宮は自宅に島田を迎い入れ、茶の間に案内し島田は座布団に座る


間宮「粗茶ですがどうぞ」


恐る恐るお茶を差し出す


島田「ああ、別にそんな恐縮しなくて大丈夫だ、俺は別に君を疑ってる訳ではないしな」


間宮「…疑っていないのに志島警部に私の監視役をまかされたんですか?」


島田「まぁ…俺とあいつはそれなりに旧知の仲だからな信用されてるんだろ」


間宮「そうなんですか」


少し安堵し肩の力が抜ける


島田「あー後だな君とコンビ組んでた藤井刑事は全治二週間だそうだ」


間宮「最近休みなしでしたからあいつにはちょうどいいですよ」


島田「捜査一課は最近ずっと狐人で忙しいからな…まぁ君もこれを機に休めばいいさ」


間宮「そうですね…」


どことなく暗い表情で返事をする


それを見て島田は軽くため息を落とす


島田「…何を考えているのかは大体わからなくもないが、今お前ができる事は何一つない。」


間宮「…」


島田「例えずっと狐人の手のひらで踊っていた事に気づけなかった負い目を感じていようが、例え多少なりともあった警察内の不和が更に加速してもな」


間宮「………もし、私があの時狐人の誘いに乗らなければどうなってたと思いますか?」


島田「さぁな、だが早かれ遅かれ誰かが狐人と接触して同じ事になってただろうな」


間宮「そう…ですか…」


島田「だから、お前が気に病む必要は無いと俺は思うぞ」


間宮「ありがとうございます島田さん…少し気が楽になりました」


島田「まぁ、あれだ今はしっかり休んで次挽回すればいいさ、仁の奴もお前の実力はよく知ってる…知ってるからこそ疑わなければいけないんだ」


間宮「そうなんですか…?」


島田「お前も分かってるだろが、警察って組織は一枚岩じゃない…いくつもの派閥があって中には犯罪に手を染めてる輩もいる。仁は警察内部だろうが犯罪者だと疑い行動してるのさ」


苦い表情をする間宮


島田「…んじゃ、俺はここで仕事しながら監視するから外出は理由次第では許可するが俺が随伴は確定だからな」


間宮の表情からしてあまり触れない方がいいと思い話題を切り上げ仕事をしだす


間宮「わかりました…」


自室へ行き布団で横になる間宮


間宮「今更あの時の事を思い出してもな…」


布団の中で呟き次第に瞼が重くなり眠りにつく…


―――――――

―――――

―――


特に問題もなく時間は流れていき謹慎から九日経ったある日


テレビ「次のニュースです、新たな犯行予告から九日いまだに狐人による犯行が全国各地で多発している模様です」


茶の間のテレビを眺める間宮


インタビューでは警察が頼りないなど辛辣なコメントが寄せられていた


島田「…チャンネル変えていいか?」


間宮「あ、はい・・・」


浮かない顔をする間宮


島田「……まぁなんだ、もしあれなら気晴らしついでに病院へ見舞いでも行くか?」


間宮「えっ?今謹慎中ですよ?」


島田「まぁ適当に足を痛めて検査しにいったとか言えばいいさ、俺も話を合わせる」


間宮「…気遣い有り難う御座います」


島田「それじゃあ、準備して行きますか」


身支度をして車で病院へ移動する二人


――――――病院の受付


間宮「すいません藤井諒太の知り合いなんですが病室はどこでしょうか?」


ナース「藤井諒太さんですね、えっと…615号室ですね」


間宮「有難う御座います」


軽くお辞儀をして病室へ向かう為エレベーターに乗り6階で降りる二人


島田「さて…俺は、面識ないしここで待たせてもらうぞ」


そう言ってエレベーター近くの椅子に腰をかける


間宮「あ、はい色々と気を遣ってありがとうございます」


案内図を見て藤井の病室の位置を確認し向かう


間宮「ここか」


扉を軽く二回叩く


「はーいどちら様ですか?」


間宮「俺だ」


「あ、拓治先輩ですか?どうぞ入ってください」


扉を開けると足にギブスをはめた藤井諒太の姿があった


藤井「先輩、わざわざ来て頂きありがとうございます」


間宮「ん~まぁなんだ家にずっと居ても気が滅入るしな?」


藤井「そうですね」


間宮「諒太は思ったより元気そうだな」


藤井「まぁ時々、妹もお見舞いにきてくれますし、ここ最近狐人でずっと休み無しでしたが久々にゆっくりできましたから」


病院でゆっくりできたおかげか藤井の表情がスッキリしてることに安堵する間宮


間宮「ある意味これも怪我の功名ってか…?」


笑いながら問いかける


藤井「そうかもしれませんね」


藤井もつられて笑いながら返事をする


藤井「そういえば思ったより怪我の治りが早かったらしくて、自分明日退院する事になりそうです」


間宮「ほう?よかったじゃないか」


藤井「はい、ありがとうございます!」


間宮「俺の方はまだしばらく自宅謹慎だがな」


軽く笑い飛ばす間宮に対して苦笑いをする藤井


藤井「…」


少し会話に間が空き、急に真剣な表情になる藤井


藤井「あの…拓治先輩」


間宮「…なんだ?」


それに応えて真剣に聞く姿勢の間宮


藤井「何故狐人は自分を助けたのでしょうか…」


間宮「何故…か…」


藤井「この入院中ずっと考えてたんです…何故…他の警察官が来るかもわからない状況で、わざわざ自分を助けたのか…下手すれば包囲されて捕まる可能性もあったのに」


間宮「…………」


少し間を空け口を開く


間宮「たぶんだが…狐人は犯罪者以外は殺さない…いや逆に助けようとするのかもしれない」


藤井「…」


間宮「狐人の目的はあくまで“犯罪者を裁く事”それ以外の人は殺さない…殺させない…こういった理念の元行動しているんじゃないか…?」


藤井「敵である警察でもですか…?」


間宮「…恐らくそうだ」


藤井「・・・」


間宮「・・・」


お互い無言の二人


コンコン


静寂の中ノックの音が部屋に響く


藤井「あ、はーい」


鮎川「京都府警の鮎川俊と言うもんやけど藤井諒太さんでよろしいですか?」


扉越しに話しかける


藤井「はぁ…確かに藤井諒太は私ですが」


失礼しますっと言いながら鮎川が病室へ入っていく


鮎川「あら?間宮はん?」


間宮「どうも」


軽く頭を下げ挨拶をする


鮎川「確か間宮はんは謹慎中のはずや…?」


間宮「あーえーっと…」


焦る間宮の姿を見て察する鮎川


鮎川「…まぁ部下の事を気にかけるんは当たり前の事やさかい、今回の事は見なかった事にしますわ」


間宮「ありがとうございます…」


藤井「あのぉ…所で京都府警の方が僕に何の御用ですか?」


気まずそうに問いかける


鮎川「ああ、すいません。簡単に言いますとぉ~藤井諒太巡査に狐人特別部隊への参加要請を伝えに来ましてん」


藤井「ぼ、僕がですか!?」


驚きを隠せない藤井


鮎川「今の所、警察内で狐人と接触しはったんは、藤井巡査と間宮巡査部長のお二人だけで、間宮はんは謹慎中やさかい代わりに藤井はんに白羽の矢が立ったんですわ」


藤井「そ、そうなんですか…」


鮎川「どうするかは藤井はん次第やけど、断るにしても受けるにしても早めに結論出してくれって事らしいですわ」


藤井「…わかりました」


鮎川「それと…」


神妙な面持ちになる


鮎川「間宮はんと藤井はんは、二年半前にあった『継接ぎ』事件って覚えてます…?」


間宮「…たしか被害者は一度バラバラに切断された後、まるで何かのオブジェクトの様に組まれ糸で縫い固定される事から継接ぎ事件と呼ばれた猟奇殺人だな…」


藤井「僕がまだ警視庁に入ったばっかりの事件ですね…その事件がどうかしました…?」


鮎川「警視庁の一課が総力を上げて最終的に捕まえた班は間宮はんと藤井はんやろ?」


間宮「まぁ最終的にはそうなるが…」

              ムラベ コウラ

鮎川「その継接ぎ事件の犯人…村辺 鱇良が数日前に出所したんは知ってます?」


藤井「いえ…初耳です」

                     

鮎川「実は…今朝警視庁にその村辺から、FAXで『復讐』と殴り書きされた紙が送られてきはったんですわ。これが警察全体への復讐なんか、それとも自分を捕まえた二人への復讐なのか…今の所判断できない状況でなぁ…それでお聞きしたいんですが、お二人のご家族はどうなされてはるんです?」


間宮「俺は独り身だ、親も数年前に他界してる」


藤井「僕の両親は外国に出張してますね…妹とは同居してますが」


鮎川「今、妹さんと連絡とれます?後できれば住所も教えてくださりますか?」


藤井「わ、わかりました」


紙に住所を書いて鮎川に渡し携帯を使えるエレベーター近くの待合室へ移動する三人


間宮「どうだ…?」


藤井「……………繋がりません…」


鮎川「今すぐ私の部下を向かわせてみます。藤井はんは引き続き連絡がとれないか試してみはってください」


何度も電話をかけるが一向に連絡がとれず次第に焦りと恐怖が藤井を蝕む


間宮「…」


鮎川「…」


藤井「…っ」


各々が思考を巡らせてる中鮎川の携帯が鳴る


鮎川「…わかった、すぐそっち行きますわ」


険しい顔をして電話を切る


鮎川「…藤井はん、動揺せず落ち着いて聞いてください…今私の部下が藤井はんのマンションに着いたらしいんやけど、部屋の中に例のファックスと同じもんが大量に散らばってたらしいですわ…」


話を聞いて顔を青ざめていた藤井は松葉つえを突きながら急いで病院から出て行こうとする


鮎川「藤井はん!」


鮎川の制止を無視して行こうとするが


間宮「落ち着け!」


間宮が藤井の肩をつかむ


藤井「…行かせてください」


間宮「どこにだ?」


藤井「妹が危険な目にあってるかもしれないんですよ!!」


間宮「その妹がどこにいるかもわからないで当てもなく探すつもりか!」


藤井「なら、ここでのんびり寝てろと言うんですか!!!」


間宮「今ここで当てもなく探しても見つかるわけないだろうが!」


藤井「やってみなきゃ―――


島田「おい!、何を言い争っているかはわからねぇが場所をわきまえろ」


どこからか島田が現れ二人の仲裁に入る


間宮「…すいません島田さん」


鮎川「…お二人は知り合いなんです?」


間宮「ああ、えっと…」


島田「監視役をまかされた捜査三課の島田義樹だ」


藤井「監視役…?」


島田「はぁ…それは後で説明する、それで何で言い争てったんだ?」


間宮「実は…」


間宮は事情を説明し沈黙する


島田「わかった、志島の方にも俺から伝えておく」


すぐさま携帯を取り出し電話を掛ける


鮎川「藤井はん、気休め程度かもしれへんけど、今うちの部下に聞き込みさせてます。楽観視はできませんけどもしかしたらまだ妹さんは捕まってないかもしれへん…せやから今は私らにまかせてください」


藤井「………わかり…ました…」


納得がいかない顔で了承する藤井


鮎川「ほんなら、私は現場に行きますんで後の事はまかせます~」


エレベーターに乗り急ぎ足で病院を出ていく鮎川


間宮「とりあえず、藤井一旦病室に戻れ」


藤井「…」


渋々病室へ歩いて行く


――――――――――――――

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