第3話


―――――警視庁狐人対策の会議室


広い部屋に警察官がそれぞれの席に着席しその前には志島 仁警部…そして


矢代「全員そろったな?」

ヤシロ トウジ

矢代 冬二警視が座っていた


矢代「今回召集させた理由は知ってる者もいるだろうが、狐人から新しい予告動画が上げられた。それがこれだ」


正面のスクリーンでその動画を再生しだす


薄暗い部屋の中シルエットは曖昧だが狐の面をつけた人物が三人立っている


少して喋り出したが声が加工されていて性別の判断ができないようにされていた


白狐「みなさん初めまして、僕は狐人の白狐」

     クウコ

空狐「私は空狐」

     ロウコ

老狐「儂は老狐じゃ」


間宮(おそらく老狐というのは倉庫で会った老人らしき人物で、白狐は今日のあいつだろうが空狐だけは分からないな…)


白狐「いきなりだけど僕ら狐人はこれから一つ簡単な“ゲーム”を開始しようと思う」


“ゲーム”と言う単語に警察官等の顔が険しくなる


白狐「ルールは至ってシンプル」


老狐「儂等はこれまで首都圏を中心に裁いておったが目的を達成する為、全国に活動範囲を広げる」


空狐「そして警察は私達の目的が達成される前に全員を捕まえられれば勝ち、狐人は目的を達成できたら勝ち」


白狐「分かってると思うが、狐人の目標はあくまで然るべき罰を受けていない者への裁きを下す事である」


空狐「それじゃあ、警察のみなさん捕まえられるといいですね」


空狐と名乗る人物が手を振りながら動画は終了した


志島「配信元を調べてみたが前回と同じく今回も配信元は被害者のパソコンからだった」


矢代「そして、この動画がアップロードされてから、今の所狐人と思われる殺害事件が東北地方で1件、北陸地方で2件、東海地方で2件、関東は…東京以外だと3件、東京だけで2件確認されている」


会議室がどよめく


志島「静かにしろ、この件を受けて地方警察との連携を強める事になった」


矢代「具体的には警視庁から数人と、他の県警数人ずつで構成した別働隊を編成する。 メンバーの選定はこちらでするが、強制ではないので何か理由がある場合は断ってくれていい。何か質問はあるか?」


一人の警察官が手を上げ志島が発言を許可する


警察官「その別働隊と今までの狐人対策課と何が違うんでしょうか?」


矢代「今回の別働隊は特別な物で、指令系統は警視庁だが狐人の件に関係する事なら他県への捜査を自由に行える。ようは全国各地で活動するであろう狐人を追ってもらう事になるな…他に質問はあるか?」


誰も手を上げずただ顔を顰めていた


矢代「では、今回の緊急会議はこれにて解散とする…間宮拓治巡査部長は後で私の所へ来るように」


間宮「…はい、了解しました」


会議が終わりそれぞれ部屋をでていく…


そして間宮は簡単に身だしなみを整え矢代冬二警視の部屋を訪ねに行く


―――――――

――――

――


コンコン…扉を二回叩き自分が間宮拓治巡査部長だと扉の向こう側の人に伝える


「入れ」


部屋の中に入るとそこには椅子に座る矢代冬二警視と机を挟んでまっすぐな姿勢で立つ志島仁警部の姿があった


矢代「何故呼ばれたかはわかるな?」


間宮「はい…」


矢代「志島警部からの報告によると間宮巡査部長は、路地裏で二人目の被害者を発見すぐさま連絡を入れその後血痕の不自然さを感じビルの屋上へ行き三人目の被害者を発見、その時ビルの屋上で藤井諒太刑事と共に狐人を発見し取り逃がす、この時藤井刑事は足を負傷、間宮巡査部長は数キロ離れた廃工場の倉庫で狐人と対峙しながら確保せず密談をしていた…この証言に間違いはないか?」


間宮「…間違いはありませんが…些か情報が断片的なのと表現に違和感があるように思われます。」


矢代「ふむ、では間宮巡査部長の証言を聴こうか」


間宮「有難う御座います…まず三人目の犠牲者を発見をビルの屋上で発見し、その後狐人と対峙したのですが隣のビルに逃げられまして、藤井刑事がそれを追いかけようとした際に誤ってビルとビルの間に落ちてしまい、狐人の白狐と名乗る青年が藤井刑事を助け、私は狐人を追うよりも藤井刑事の安否を確認しに行きました。」


矢代が手で合図し間宮の説明を一旦止めさせる


矢代「その白狐と名乗る者が藤井刑事を助けたのか?」


間宮「はい」


矢代は椅子に深く座り込み少し狐人への考えを改め、すぐさま話を聞く体勢に戻る


矢代「遮って悪かった、報告の続きを」


何事もないように報告を続ける間宮


間宮「そして私が藤井刑事の元へ駆け寄った時ビルの屋上から狐人が、私か藤井刑事が廃工場にくれば『今回俺を初めて見つけれたボーナスとして多少質問に答える』っと…もし私達二人以外が来れば急遽場所を変えるとの事でしたので、負傷した藤井刑事を連れて行くわけにもいかず、私一人で廃工場に行きました。そして倉庫で狐人らしき人物五人と対峙しました…うち二人は…小学生ぐらいの男女でした。」


矢代と志島は少し驚いた表情をした後すぐ苦虫を噛潰したような顔になる 


間宮「後の三人のうち二人は恐らくあの動画に出ていた白狐と老狐と名乗る者だと思いますが…最後の一人は女性っぽいシルエットだったとしかわかりませんでした…そして私が質問を四つ…最後のあれも含めれば五つ程問いました。質問の内容は後で報告書にまとめますが…最後の質問の途中に志島警が到着した次第です…。」


矢代「つまり相手から情報を聞き出すために独断…しかも一人で狐人と会ったという事か…?」


間宮「はい」


矢代「………」


長い沈黙に間宮は息をのみ志島は毅然とした態度でいた


矢代「…わかった、この件についてはこれ以上追及しない」


少し安堵する間宮だったが


矢代「追及はしない…だが今回の独断と内通者が存在するかもしれない件…別に間宮巡査部長を疑ってる訳じゃないが、現状況で周りの警察官はそう思ってくれないだろう」


間宮(予想はしていたがやはりこうなるか)


諦めたような悔しそうな顔をする


間宮「…わかっております」


矢代「…そうか、間宮拓治巡査部長、君は狐人の協力者の容疑が晴れるまで自宅謹慎だ」


間宮「えっ?」


矢代以外の二人が以外そうな顔をしている


志島「矢代警視、お言葉ですが少々緩いのではないですか?確かに間宮が内通者という証拠はないですが、自宅謹慎のみは些か軽過ぎると思います。」


矢代「ならば志島警部はどういった処罰がいいと思うんだ?」


志島「…監視付きの軟禁状態がいいかと思います。」


矢代「ならば自宅謹慎に一人志島警部が信用できる者を付ける…これでいいか?」


少し考える志島


志島「……わかりました」


矢代「では二人とも戻っていいぞ」


二人「失礼しました」


お辞儀をして出ていく二人


矢代「…間宮、お前は優秀なんだがなぁ…もう少し要領よく生きれないのかねぇ~」


お茶を自分で注ぎながらつぶやく



―――――――――

――――――

―――


藤井「間宮先輩!」


部屋を出て自分の部署へ入ると藤井が声をかけてきた


間宮「諒太…足は大丈夫だったのか?」


藤井「ハハハ…大丈夫ではあるんですが少しの間入院したほうがいいと医者から言われましたよ…」


苦笑いしながら答える


間宮「そうか…俺もまぁ色々あってしばらくは自宅謹慎って事になった、諒太も俺もこれ気に少し休んだ方がいいかもしれんな」


藤井「…そうっすね」


藤井はどこか浮かない顔をしている


間宮「…どうかしたのか?」


藤井「たいした事ではないんですが、今妹が高校に通う為に俺のマンションに居候してまして…」


間宮「兄としてはやっぱり妹が心配か?」


藤井「ええ…心配ですね、只でさえ最近缶詰だったですし…あいつがちゃんと家事できてるかどうか…」


間宮「ハハッ、そりゃぁ兄として心配だわな」


藤井「甘やかし過ぎた俺の責任なんですがね…」


間宮「まぁ、なんだ妹の為に一刻も早く足、治さないとな」


藤井「そう…ですね」


間宮「じゃ、俺はそろそろ報告書を纏めないといけないから自分の机に戻るぞ」


藤井「あ、引き留めて、すいません」


そういって自分の机の方に歩いていく間宮だが


警察A「…来たぞ」


警察B「おい、やめろよまだ間宮さんだって決まったわけじゃないんだから」


警察A「だけど、あいつ以外にだれがいるんだよ」


警察C「証拠も無しに疑ってもな」


警察D「俺は狐人と密談してただけで十分怪しいと思うが」


警察B「確かに怪しくはあるが、ただそれだけだろ!」


聞こえてるとも気が付かずコソコソと間宮について話をしている警察官等


間宮(………………)


コンコン…


誰かが扉を叩き「失礼します」と言い部署に30代前半ぐらいのの男性が入ってきた

             アユカワ シュン

鮎川「京都府警から来ました鮎川 俊という者やけど志島警部はんはおりますか?」


鮎川と名乗る男が京言葉混じりで話かけ部署に入ってきた


警察官B「志島警部ですか?今は居ませんね」


鮎川「さよですか、ほんなら志島はんが来るまでここで待たせてもらいます」


そして一直線に間宮の方へ向かう


鮎川「おたくが間宮はんです?」


間宮「…あぁそうだが?」


鮎川「狐人事で聞きたい事あるんやけどええですか?」


間宮「別に構わないが…俺も詳しくはわからないぞ」


鮎川「えぇ、構いまへん少しでも情報がほしいさかい」


間宮(なんというか雰囲気のせいか口調のせいなのか少し掴み所のない人だな)


間宮「狐人は全員で9人だそうだ…俺が会ったのは動画にでてた白狐、老狐と名乗る2人と黒椿、白椿と名乗る子供…あとは遠目で女性ぽかったとしかわからかった計5人だ」


鮎川「子供2人…それはまたけったいな世の中になったもんやな…」


鮎川も矢代と志島同様眉を顰める


鮎川「まぁ、それは今話してもしかたあらへんか…その女性ぽかった方で何か気づいた事ありまへん?」


間宮「気づいた事……」


思いだし考える間宮


間宮「そういや、気づいた事って程じゃないが、姿勢や服装からみてまだ若そうだったな…」


鮎川「…さよですか」


一瞬だけ少し安心したようで悲しそうな顔をしたように思えたが


鮎川「有益な情報ありがとうございます」


すぐさま鮎川は間宮から離れ入口付近の壁に背を預けメモ帳を開く


そして数分後志島警部が入ってきた


鮎川「志島警部はんようやく来はりましたね」


志島「お前は…京都府警の鮎川か」


鮎川「覚えとってくださったとは驚きやわぁ」


二人が睨み合い妙な緊迫感が生まれる


志島「…っで京都府警がなんでここにいるんだ?」


鮎川「そんなん決まってるやないですか、私が今回の狐人特別対策班の京都府警代表の一人として選ばれただけですよ」


志島「京都府警の狐と言われてる奴が狐人対策班とは悪い冗談かなにかか?」


挑発気味に問いかける


鮎川「昔の事を根に持っとるどっかの警部よりかはましやあらへんかな?」


志島「あぁ?」


取っ組み合いになりそうな勢いで睨む二人


鮎川「まぁ今回はただ挨拶しに来ただけやさかい」


志島「…ッチ」


鮎川「ただ流石に一言言わせてもらいますと些か纏まりが無さ過ぎやないですか?内通者が本当に居るかもわからないのに」


志島「お前には関係ないだろ」


鮎川「はぁ」


呆れてため息を吐く


鮎川「志島はんは昔っからそこら辺疎いなぁ~」


志島「お前こそ同じ事をグチグチと言う事しかできないみたいだがな」


再び睨み合う二人


鮎川「…まぁええわ、目的は済んだし今日は帰りますわ」


後ろ向きで手をひらひらと振りながら部屋から出ていく


そして気まずい空気の中一人黙々と報告書を仕上げていく間宮


―――――――――

―――――

―――


薄暗い部屋の中、青年が天井を見ながらベットに横たわっている


ピリリリリ…ピリリリリ…


不意に携帯の音が鳴り響く


「ピッ……はい、もしもし…………お前か…」


携帯を手に取り話す青年


「………事前に話してたらお前は確実にこっち側にくるだろ……………お前にはまだ居場所もあるし守るべき人もいるんだ、正直俺はお前が狐人として活動する事を認めたわけじゃない。」


青年は起き上り近くにあった面を手に持ち眺める


「…………わかってるさ…お前も俺達と同じ意志だと言う事は……………………なら聞くがお前はあの子がどうなってもいいって思えるか?ただ自暴自棄になってるだけじゃないのか?」


そしてその面を被り


「………迷いがあるんだろ?………………あぁ…それはわかってるさ…だからもう俺達と連絡は取るな、本当にあの子の事を思うならな……………………はぁ…本当にお前は頑固だな」


ベットから降りてドアの方へと歩く


「…………………ああ、こっちは大丈夫だ狐人の名に賭けて目的を達成するまで全力で行くさ…それじゃぁ俺はそろそろ次に行くからまた会えればいいな…お互い」


電話を切りドアを開け薄暗い部屋の中に光が差し込む…壁一面に血がこびりつき人が磔にされてる部屋に…


―――――――――

――――――

―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る