ライコウ追っかけ トラ散歩

なんとかライコウを倒した時、私は十匹のポケモンを倒されていた。

 チームボーナス込でボールは十個。しかも金のズリの実のドロップが無かった。

 厳しい。

 正直に言えばかなり厳しい。

 しかしボールを投げなければ始まらない。

 一つ目、当たり。でもボールから出てしまう。

 二つ目、同じく

 三つ目、妙な風にそれた。

 四つ目、またそれる。泣きそう。

 延々と続けても仕方がない。平たく言えば私はライコウを取り逃がした。

 ちょっと、呆然とした。

 場所は梅田の外れ、大阪北郵便局。

 日付は十月の三十一日、ライコウ出現の最終日だ。

 

 と、ここまで読んで下さった付き合いのいいあなた。本当にありがとうございます。多分なんとなく察しておられるかとは思いますが、これはあの有名なARゲームポケモンGOにまつわる散歩です。

 私とポケモンの付き合いは結構長く、どこかで見かけたイーブイ(というポケモン)の絵に一目惚れして以来、ちまちまとグッズを買い、時には一番くじにハマりながら、じわじわ毟られ続けております。

 そんな私が散歩とポケモン(というかイーブイ)という素敵なコラボレーションを、見逃すわけがありません。

 決して強いということはなく、余りにも電池を食うので必ずしも熱心という程でもなく、お散歩の友としてのポケモンGOを続けています。 

 まことにのんびりと続けているポケモンGOですが、つい意地になってしまうこともあります。概ね期間限定のポケモンが絡むのですが、ここで中学生の頃から付き合いの続く先輩を紹介しなければなりません。

 仮に名前をM先輩とします。

 このM先輩は中々付き合いもよく、良い遊び相手ではあるのですが、一つ難儀な特性を持っています。何をさせても概ね私よりうまいのです。

 M先輩はポケモンGOを私に付き合って始めました。そして当たり前のように、現在は私より上のレベルです。

 一事が万事、とにかくそういうひとなのです。

 前に出現したスイクンはM先輩と一緒にジムを回って手に入れました。

 ライコウは出現期間のはじめにチャレンジして、私は取り逃がしましたが、M先輩は首尾良く捕まえました。その後も単独でチャレンジして、今では二匹持っています。

 私は単独チャレンジにも二回失敗して、出現期間最終日を迎えました。

 そうして冒頭の場面に戻ります。


 一度バトルに失敗して取り逃がすと、同じポケモンにはもう挑めません。レイドポケモンと呼ばれる、特別に出現するポケモンに挑むのに必要なレイドパスは、一日に一つしかもらえませんが、幸い前から所持していたパスを使ったので、もう一度は手にいれられます。

 まず落ち着いてレイドパスを入手し、他のライコウを探しました。良くしたもので、ポケモンを探すためのアプリというのがあるのです。

 すでに出現しているライコウは、どれも今から行っても間に合いません。レイドポケモンの出現時間はかっきり一時間だけです。

 ライコウが出現する前に現れる黒い卵を探しました。

 近くの卵はピンクや黄色ばかりです。でも焦っても仕方がありません。探す範囲を少し広げて、見つけました。中之島です。

 電車で22分

 バスで24分

 歩いて26分

 この場合私の選択肢は歩き一択です。

 歩きました。

 大阪北郵便局は梅田の北の外れ。

 中之島は梅田の南にあります。

 つまり梅田を縦断しなくてはなりません。

 こんな時スマホの地図アプリのありがたさが身に沁みます。JRの線路沿いにてくてく歩き、梅田西ランプ交差点で悩みながらも道を選びます。案の定間違っていて、ちょっと歩いてから戻る羽目になりました。

 このあたりの交通網のごちゃ付きは中々のもので、道路と線路と高速道路がそれぞれに縦横無尽に走った結果、三次元でそれらがもつれ合って、地図がちょっと見づらくなっています。

 タップしたら横から見た図を出してくれないかななんて、機能に変な欲の出るところです。

 地図の通りに歩くうちに、「人事院」なんて厳しく書かれた看板を見つけました。ちょっと向こうには「検察庁」とか書かれています。どうやら中之島の合同庁舎のようです。

 ただ、ちょっと納得行かなかったのは、その場所がどう考えても堂島だったことでしょうか。特に川べりと言うわけでもないし、もちろん川を渡ってもいない。なぜわざわざ中之島とつけたのか甚だ疑問です。

 そのまましばらく歩いて川を渡り、中之島に入りました。目指すは川沿いのジムです。

 ジムというのはポケモンGOの中でチームごとに取り合いをしている拠点の事です。レベルが5を超えると赤、青、黄のどれかのチームに入ります。そのチームが対抗してジムの取り合いをしているのです。

 レイドポケモンと呼ばれるスペシャルなポケモンは、そのジムに現れる卵から生まれてきます。レイドポケモンが出現している間は、ジムの取り合いはお休みして、全てのチームがレイドポケモンに挑みます。

 レイドポケモンの大変なところは、一人だと勝てないということです。先程単独で挑戦したと書いたのは、あくまで先輩と私が一緒には挑戦していないと言う意味で、その場にいた人とは協力して挑戦します。だからこそ人数を集めるために、繁華街などの人の多いところを目指す必要があるのです。

 さっきの場所もそうですが、そこにもライコウを狙ったプレイヤーがたくさん集まっていました。場所柄スーツのサラリーマンが目立ちます。

 戦いは(私にとっては)熾烈を極めました。そもそもレベルが低い上に、ライコウと戦うに向いたポケモンが少ないのです。ひとえにイーブイとその進化系を偏愛するが故の弊害です。

 六匹で一組のポケモンを二組使い潰し、三組めも一匹が倒れたところで戦いは終わりました。

 参加者は八人。私の貢献度がかなり低いのは間違いありません。レイドポケモンを捕まえるためのボールは、参加賞にプラスして、チームと個人の貢献度で加算されます。

 私がもらったボールは八個。さっきよりも少ないです。しかし金のズリの実三個がドロップしました。これがあるとポケモンが捕まえやすくなるのです。

 まずズリの実、それから一投目。当たったけど出てしまう。

 二投目、出てしまった。

 ズリの実の二個目、そして三投目。また出る。

 もうズリの実はあと一個です。

 そして四投目、入った!

 嬉しくてすぐに先輩にスクリーンショットを送りました。

 ええ馬鹿です。

 自分でも相当馬鹿だと思います。

 で、一息ついて気が付きました。

 そういや中之島にいるんだなと。

 ここからなら北浜の神農さんが近いなと。

 ライコウというのは幾分トラっぽい外見のポケモンです。

 そして神農さんと言えば虎張子。

 これもご縁と言うものでしょう。

 一緒くたにされた神農さんには別のご意見のありそうな気もしますが。

 せっかく近くまできたので、ご挨拶に行くことにしました。


 大阪で神農さんの名で親しまれているのは、道修町の少彦名神社です。道修町は江戸時代から続く薬種問屋町で、今も製薬会社の大阪本社が立ち並びます。大阪市営地下鉄坂筋線の北浜駅からごく近く、参詣しやすいお社です。

 入り口はビルの隙間というかなり小さなお社ですが、意外に見つけるのに苦労しません。入り口に虎張子の絵を書いた看板が出ているからです。

 他にわかりやすい目印として向かいの角にどーんと大きな看板をかけた漢方薬局があります。近所にあれほど目立つ漢方薬局は他にありません。

 古事記や出雲風土記で活躍されている少彦名尊と中国の神農が一緒に祀られているという珍しい形式は、このお社が薬種問屋町の守り神として勧請された事に由来します。

 個人的に少彦名さまという神様が好きなのと、季節に合わせて宮司さんが手作りされているという、期間限定御朱印が出て来るところも魅力で、たまにお邪魔しています。

 中之島のバラ園に近いので、晴れていればお弁当を食べる場所にも困りません。もちろんオフィス街なので、飲食店はたくさんあります。

 梅田からは三十分程度、中之島とセットにすると、結構良い散歩コースになります。

 この日も参詣して、バラ園でお茶をしてから帰りました。

 以上、ライコウを追っかけて、神農さんまでたどり着いたお話です。

 お付き合いありがとうございました。

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