卯の花車と住吉さん

 表が白で裏が青。私が一番好きな色目だ。

 初めて襲色目の本を見た時に、ひと目見て気に入った。

 個人的には萌葱の匂いか薄様に、単は赤がいいと思う。それが組み合わせとして正しいのかはわからないけれど。

 そのくせ長い間本当の卯の花を見る事はなかった。

 その卯の花がいっぱいに咲いている光景を見た。御朱印を貰いに出かけた住吉大社での話だ。

 住吉大社まで御朱印を貰いに行く気になったのは、東京の佃、大阪の佃と住吉系の社を辿ったので、勢いで大社にも行ってみようと思いついたからだ。たまたま卯の花苑の公開されている五月だった。

 お社に詣り、御朱印を頂いたあと、卯の花苑に向かった。

 卯の花苑の存在を知っていたわけでもない。太鼓橋を渡ったところに「卯の花苑公開中」の立看板があったのだ。

 これはぜひ行ってみなければならない。

 浅葱袴の神職さんに場所を聞いて向かった。

 場所はわかりにくかった。

 いや、場所がわかりにくいのとも違う。「卯の花苑」がわかりにくいのだ。

 「苑」とか「園」とかいうと、思い浮かべるイメージがある。

 よく見かけるのだと「梅苑」とか「バラ園」とか「菖蒲園」なんて言うのも聞く。

 こう、広くて、明るくて、平たくて、場合によっては入場料とか取られちゃう感じ。

 住吉さんの卯の花苑は一味違う。

 率直にいうと「大きな築山」と言う感じで、書いてなければ卯の花であれなんであれ、「苑」のつく場所には思えない。

 かと言って、「卯の花山」ではおかしいし、「卯の花築山」だともう単語として成り立っている感じがしない。だから名前をつけるならやっぱり卯の花苑なのだろう。

 ぱっと見と名前の印象の違いはともかく、ここは良かった。

 鬱蒼とした印象の結構密に植えられた卯の花が、どれも一杯に花をつけている。若葉色ではない、しっかりとした緑の葉と白い花のコントラストが鮮やかだ。

 樹の花が満開に咲いていると、華やかすぎて可愛いとは感じなくなる。桜でも梅でも藤でも、あれは豪華とか華麗とかの言葉で表現されるべきではないだろうか。

 なのに、卯の花は可愛かった。

 たわわとでも言いたいような、いっぱいの花をつけているのに、とても可愛いらしい。

 精一杯着飾ってはにかむ女の子みたいだ。

 花にもいくつか種類があるようで、一番多く見かけた八重咲きの小さな花は、ちょっとレースめいた繊細さだ。一重の花は黄色い雄しべ、雌しべが目立つ。ちょっと大ぶりの花は、パフスリーブを連想させられる。

 中にはピンクの花もあったけど、私はやはり白を推したい。

 そういえば枕草子に「卯の花車」というのが出てくるけれど、この花の枝を車いっぱいに挿したなら、それはもう目立った事だろう。動くと緑の葉がゆさゆさと鳴ったかもしれない。

 それに、清少納言達は車に乗っていたわけで、彼女たちが見ていた景色を想像するのも面白そうだ。きっと物見の縁にもいっぱいに枝を挿していたろうから、道行く人が呆れて指を指す様子は、ゆらゆら揺れる花越しに見えていたのではないだろうか。

 日影がちの苑内は涼しく、所々に椅子もあってとても居心地が良かった。惜しむらくは蚊が多いことだ。次回はぜひ虫よけの用意をしておきたい。

 さて、そもそもの目的だった住吉さんだが、あまりにも盛り沢山で大変だった。仁和寺の僧ではないけれど、下調べなしだと堪能しきるのは難しい。幸い近くであることだし、その内ちゃんと調べてもう一度参詣しようと思っている。

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