第5話 まだ見ぬあなたへ。
若い女性を中心にして、毒物を美容液として売りつけていたグループが逮捕された。
美容液は有機水銀を加工したもので、何故そんな危険物が売れたのかが話題となった。
私は女性という事もあり、この事件の捜査に配属されていた。
知人にその話をしたところ、笑いながらこんな話をしてくれた。
日本史や古典の授業で聞いた、平安時代の貴族の女性が短命であった一つの理由に、水銀入りの化粧をしていたことがあげられる、という話。
「例のアレさ、」
彼は意地悪く笑いながら餃子のたれに酢を垂らす。
「シミの部分ごと細胞を殺してしまうから、一時的にせよ、そりゃ消えるよね。」
自分の肌がひりつく様な感じがしたが、同時に、不覚にも魅力的な響きだった。
「でね、古代中国にある豪族の御婦人がいてさ・・・」
それから直ぐ、酔っ払った彼を強引に引きずって、私は警察に駆け込んだ。
押収された顧客リストから、まだ事件になっていない住所を片っ端からあたると、案の定、滅菌処理された棺桶に入った、水銀漬けの遺体が次から次へと出てきた。
皮肉った笑いを浮かべていた彼は、腐って剥離した皮膚の浮いた中途半端なそれを見た最初の家でギブアップした。
そんな彼が言う事には、かつて、液体と固体の両方の特性を持つ有機水銀=アマルガムは不死と結びつけて考えられていたそうだ。
妙薬と信じて飲んだ高価な水銀薬によって多くの貴族が死んでいった。復活を信じた夫によって桐の棺に水銀を満たされて葬られた妻もいる。1000年以上たって発掘された彼女は、腐敗の原因である菌を殺し続けながら、図らずもその美しさを後世に残したのであった。
彼はこう付け加えた。
舌には、毒を判別するために痺れを感じる器官があり、動物はそうして毒を吐き出し、難を逃れる。
とすれば、苦痛を克服して尚その先の効能を求めるのは、理性のなせる業であろうか。
良薬口に苦しとはよく言ったものだと思う。
彼女達は何を思って毒に浸かったのか。
以下、wiktionary「中元耳に逆らう」の項より引用・転載です
成句・ことわざ
忠言耳に逆らう(チュウゲン ミミにサカらう)
1.まごころをこめていさめる言葉は、非難されているように聞こえ、素直に聞くことはできないものである。しかし、反省しその言に従うことが結局自分のためになる。
同義句
良薬口に苦し
出典
『孔子家語・六本』
(白文)孔子曰、良藥苦於口、而利於病。忠言逆於耳、而利於行。(訓読白文)孔子曰はく、良藥口に苦けれども、病に利あり。忠言耳に逆へども、行ふに利あり。(現代語)孔子が言った、「よい薬は飲むと苦いが、病を治す効力がある、忠言というものは、素直に聞けないが、役に立つものである。」
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