第4話 三文字ことば

「本日、出生率がついに・・・」


憂鬱なニュース原稿を読み上げる。

100年の間、戦争も自然災害も無かったこの世界の少子化問題は、いよいよ深刻な状態に陥っていた。


同じくらい延々と問題にされているのが、若者文化である。


停滞した社会に、倒錯趣味が蔓延るのはよくある話だが、最近問題になっているそれは、妊娠出産を含めた原始的な生産性に全く結びつかない奇妙な潔癖性を持っていた。


昔ながらのやり方を変えてしまったから、最近の若者は子どもを産まなくなったのだ。

元若者たちの後輩いびりは相変わらず続いている。


倒錯はといえば、次の原稿は極め付けだろう。

「法皇が、会合で放送禁止用語を叫びました。」

私は原稿を読み上げ、ピー音だらけの映像を流し、コメンテーターに話をふる。

世も末だとか、ストレスが溜まっていたんだろうとか、お決まりのコメントが出揃う中、最近13代目を襲名した芸人が挙手をした。


発言を許可された芸人は、何を思ったのかセットの中心に立って叫んだ。


「テレビの前の皆様!これから、三文字の言葉を叫びます!!」


場の空気が凍り付く。

三文字!何を言うつもりだ?!三文字!まさか禁止用語か?!三文字!前かがみになって何をするつもりだ?!


片足立ちになって、前傾姿勢で両腕を斜め下に広げながら、芸人は叫んだ


「いのちッ!!」


誰もが肩すかしを食らって呆気にとられる中、芸人は続けた。


「皆さんが肝を冷やした言葉は、どれも生命(いのち)の営みに関係している言葉でしょう?そういう言葉を闇雲に規制しているうちに、生き物として大切なことを忘れたり、理解していない人が増え過ぎてしまったのです。宗教的な倫理を司ってきた人だからこそ、叫びたかったんでしょうね。倫理的に、健全に生きるとは、そういう事ではない。いのちの営みを直視する勇気を持て、と。」


番組は中断され、話題は芸人ごと黙殺された。


「続いてのニュースです。数少なくなった子ども達のために・・・


本文:800文字

以下、元ネタ


Four letter word・・・四文字語4字からなる卑猥(ひわい)な語(c○nt,f○ckなど);遠回しにこういう(ジーニアス英和辞典)(一部、伏字入れました。)


Life is a four letter word・・・かなり前にアメリカで聞いた、英語のジョーク。直訳すると、「『Life』は4文字の言葉」となる。英語圏でタブーとされる四文字語の中には、実は、生命(Life)の営みにとって大切な言葉が多く含まれている。ファックしないと子どもは生まれないし、キルしないことには、肉も野菜も手に入らない。食べたからにはクソ(SHIT)が出る。生まれたからには死んでしまうわけで、その先、HELLはみんなが出てくるアソコの隠語(英語圏ではインフェルノを代用することが多い)。

4文字言葉≒禁止用語だというのなら、命=LIFEにかかわるもので、非人工物は大抵が4文字言葉=放送禁止用語なのだ。それらを規制・制限しようとするのは、生命の営み=神の御業を恥ずべきものだとして侮辱しているんじゃないの?もっとちゃんと神学勉強したら?という皮肉。この手の規制にキリスト教団体が圧力をかけていることが多いアメリカでは、こういうdisりが成立するんだそうな。ちなみに、日本語だと何故だか3文字に収まっているから不思議だね!


産めよ殖やせよ地に満ちよ・・・旧約聖書の創世記 第6日目のお言葉。

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