第2話 口の中の教訓(B)

ようやく終わったクソ長い説明にうんざりしながら、署名捺印を済ませる。

「では、こちらの書類とID情報を保管室へ移します。」

黒い上等そうなスーツを着込んだ販売員は、書類を持って席をはずし、直ぐに戻って来た。

「では、最後にこちらのドリンクを。」

難解で冗長な説明に気まずくなったのか、販売員はカウンター下の冷蔵庫からボトルを二つ取り出し、シェイカーで真っ白いカクテルを作って「仕上げはこちら」白い粉末をかけて差し出した。

なんだ、気が利くじゃないか。

まぁそうね、お高い買い物だもの。

3か月もアルバイトして、ようやく買った僕のタイムマシン。


数秒後、僕はそいつを盛大に吐き出していた。

努力はした。

けれど、到底飲める代物ではなかったのだ。

「ヨーグルトを牛乳で溶いて、粉チーズをミックスした特性カクテルでございます。」

優雅にハンカチで顔を拭きながら答えやがった販売員は更に続ける。


「今回、私が最初に申し上げた事、覚えていらっしゃいますか?」


口ごもった。

携帯電話か保険の営業かと思うくらいに長かった説明。とても覚えていられなかった。

販売員は柔らかい手つきで僕を拭きながら「いえいえ、皆様そうなのでございます。」と言いつつ、ボトルを指さした。


「牛乳を放置すれば、やがてヨーグルトやチーズになります。つまり、これらは、過去と未来の関係にあるのです。その二つを不用意にミックスしたとき、何が起こるのか・・・過去と未来の衝突、そう、最初にお話した時間旅行の最も大きなリスク・・・それこそ、このカクテルの名前でもあるタイムパラドックスでございます。」


狐につままれたような顔で、僕はタイムマシンのキーを受け取った。


あれ・・・?

フルー○ェ入れたらどうなるんだ??


そう思った瞬間、僕の目の間に突如数名の警察官が現れた。

「時空壊乱犯39201号確保!これより連行する!」

どうやら、この後大事件を起こしたらしい僕は、事前に逮捕されたのだった。


以上、本文800文字


以下、wiktionary「一寸先は闇」の項より引用・転載


一寸(いっすん)先(さき)は闇(やみ)

1.将来のことは、ほんのわずか先のことですら、全くわからないということ。

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