自主企画「三題噺はお好きですか?」参加用

チンアナゴのテッチャン

 テツチャンはチンアナゴ。

 海底の穴からニョキっと顔を出して周りをキョロキョロ。

 ゆらゆらと海流に揺られながらご飯を食べている。


「テツチャン、テツチャン」


 スズメダイのハナちゃんが話しかけてきた。


「今日は天気がいいからお日様がよく下まで届くね」

「そうだね、ハナちゃんのコバルト色がすごく素敵に見えるよ」

「もう、テツチャンったら~」


 そういって、ハナちゃんは僕の周りをくるくる回った。

 そこに海月のプヨスケが揺ら揺れてやってきた。


「やぁ、テッチャン。久しぶりだね」

「プヨスケ久しぶりだね、1年ぶり?」

「そうだね、今年も世界をぐるっと回ってきたよ」

「プヨスケはいいなぁ、ゆらゆら揺れながらどこまでも行けちゃうんだもの」


 プヨスケはゆらゆら揺れて海流に流されていく。

 流れに乗ればどんなところへもゆらりゆらりと辿り着く。

 1年経てば1周して戻ってくる。


「海は広くていいよ~、テッチャンも一緒にく?」

「ん~、行きたいけど僕はこの穴の住み心地が好きなんだ」


 テツチャンはゆらゆら揺れながら答えた。


「ねぇ、世界はどんな感じなの? プヨスケちゃん教えてよ」


 ハナちゃんがプヨスケの周りを泳ぎながらリクエストする。


「世界は広いよ、暑さ、寒さ、速さ、色もそれぞれ違うんだ。青い色の海も緑色の海も、それに、いろんな色の魚がいるんだ。すごいおっきい魚にも会ったよ。サンゴもいろんな種類があるよ。行く先々でいろんなお話を聞くんだ」

「楽しそう~」


 ハナちゃんは興味津々だ。興奮して更に勢いよく回る。今にも一緒についていきそうにな反応。


「どんな話を聞いたの?」


 テツチャン背伸びしてプヨスケ近づき聞いた。


「いっぱい聞いたけど、魂の灯りって話が印象的だったなぁ」

「魂の灯り?」

「そう、空に登ってる月が揺れて見える時があるでしょ?」

「うん」

「それは魂が空に登っていくときに揺れているからだっていう話」


 プヨスケは思い出すように言った。


「え~、でもそれって波で揺れてるだけじゃないの?」


 ハナちゃんは少し不満そうに言う。


「そうかもしれないね、でも魂がゆらゆらと空に登っていくのが見えるとしたら、天国に行くのを送り出せていけるような気がしないかな?」


 プヨスケはゆらゆらと揺れながら答えた。


「魂ね~、どうなんだろう? おじいちゃんの魂も見えるのかな?」


 テツチャンはおじいちゃんの事を思い出す。優しかったおじいちゃん。背をいっぱい伸ばしてるんだけど、どこか途中で曲がっちゃってる。縄張り争いも、必死に僕をかばって顔を突き出してたっけ。穴の中に隠れてたけどちゃんと見ていたよ。


 空を見上げると太陽の光が眩しく、光の線が降りてくるように見える。


「そろそろ、時間が来ちゃった。また今度会おうね~」


 プヨスケはまた波に揺られて流されていく。


「じゃあね~、またお話聞かせてね」


 テツちゃんと、ハナちゃんは流れてくプヨスケを見送った。


「私も帰るね。あ~あ、ついてきそびれちゃった。またね~」


 ハナちゃんも帰っていく。


「さて」


 僕は首を長くしてごはんを食べる。

 夜になったら空を見てみようかな? おじいちゃんが空に登っていくのが見えるだろうか?

 ゆらゆらと揺れる波はいろんなものを運んでいく。海の恵みも、楽しい仲間も、そして魂さえも運んでいくのかもしれない。



      * * * * * * * * * * *


お題 「海」・「魂」・「海月」

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