第3話
私とIは学校からの帰り道に話し合った。
「チョコレートかあ。どうするよ?」
「まあ、手作りがベストだと思うけど、さすがにそれは」
いやだった。ちょっとしたいたずらのために、わざわざ手作りのチョコレートを作るなどと言うのは手が込みすぎていて面倒くさく、そしてそれ以上に男が男にチョコレートを手作りするということに、抵抗があった。
「じゃあ、お前買っといて。俺、手紙書くから」
Iはそう言った。
「ううん、チョコかあ。この時期いろいろ売ってるけど、どうする?」
「そうだなあ。まあ、あんま高いのはなあ」
やはりそれもいやだった。
「じゃあ、板チョコでよくね? 一人五十円だし」
それは余りにもやる気がなく、だます気のない、言ってみれば作戦成功を念頭に置いていないチョコレート選びであるように思われたが、当時の私は安いことに一番の魅力を感じて了承した。
また、Iが作成を引き受けたA宛ての手紙についても同様の手抜きが見られた。
当初は、誰か女子を計画に巻き込み、その人に手紙を書いてもらうことにしていた。そうすることで、筆跡を女の子のものにして、作戦の完成度を上げようというのである。
しかし、作戦決行当日までにIが手紙を書いてもらうことが出来なかったために、結局はIが自分で手紙を書くことになった。
「なんて書くか」
「まあ、無難でいいんじゃないかな。ずっと前から好きでしたとか。あとは、よかったら食べてくださいとかかな」
「そうだな。ええと、ずっと前から好きでした。よかったら食べてください、と」
便箋に書かれた文字を見た私は、すぐに噴き出してしまった。
「な、なんだよ」
「いやだって」
あまりにも字が、男子中学生らしかったのだ。これではまるでだますことなど出来るわけもないと思ったが、便箋だけは女子が使うような可愛らしいものであった。非常に違和感があり、一体どこで手に入れたのかと聞くと、Iは姉の部屋から拝借したと白状した。
「なら、お前の姉に手紙も書いてもらえばよかったんじゃないの?」
「ああ、そういや、そうだな」
しかし、すでにこの日は十四日であったためにそれは叶わないことだった。今日という日にチョコレートを投函することにこそ意味があるのだと私たちは考えていたのだ。
用意した板チョコにリボンを結び、手紙を添えてAの家へ向かった。
Aの家は閑静な住宅街にあった。Iがポストへ投函を担当し、私はその間周囲を警戒していた。Iが役割を終えるまで、私は緊張していた。無事に仕事を終えると、私たちは一目散にその場を離れた。
スリルのある遊びに、私たちは満足した。
チョコレート大作戦はこれにて完了したことになる。表向きの作戦理由は、Aの意識改善であったが、まさかこの作戦が大成するとは思わない私たちにとって、準備とそしてポストへの投函までが作戦であったのだ。
そうして、私とIは別れ、翌日のAの反応を楽しみに待った。
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