第2話
チョコレート大作戦を決行したのは、私とその友人であるIだった。果たして、二人のうちどちらが発起人となったのかは定かではないが、いずれにしろ二人は平等に協力し合っていた。どちらが首領であり、どちらが手下というような区分はなく、互いにアイデアを出し合い、二人で一緒に準備を進めていた。
チョコレート大作戦などと言う大それた悪ふざけを敢行するに至ったのは、何も悪辣な思惑があったわけではなく、むしろバレンタインデーに対する少しの反抗心と、友人を思いやる慈愛に満ちた感情故だったと言える。
中学生だった当時の私に取って、バレンタインデーはとても重要な日である一方で、毎年チョコレートがもらえないことで辛酸を舐める日でもあったということがあり、二月十四日が近づくにつれて、少し気持ちがささくれていた。それに加えて、私たちのターゲットとなったAの存在がある。
Aは、私とIに取って共通の友人であるのみならず、同じ部活動に所属し、尚且つAはその部活動の部長を務めていた。いうなれば私とIにとってはリーダーのような存在であった。部活においてAは、いかんなくリーダーシップを発揮し、皆から慕われる頼れる部長であった。しかし、その一方で、事恋愛に関しては、Aは私たちの間でも一番の奥手であった。
Aには常日頃から、周りに愛をこぼして止まない好きな人、Sがいた。
普段からAに世話になっている私をはじめとした彼の周りの人間は、お節介と知りつつもAに対して、Sにこのようなアプローチをすればいいのではないかということを進めていた。自身たちでさえ、ほとんど恋愛経験がないというのにアドバイスをするとは、今にして思えば甚だ滑稽な話であったが、当時の私たちにそのような思いはなく、純粋にAの恋愛が成就することを願っていた。
しかし、私たちがどのようなアプローチの方法を提案しようとも、Aは頑として動かずにいた。仮に、彼のその態度が昭和の職人のような頑固さからくるものであったのならば、私たちもこれ以上は言うまいとして、引き下がったことであろうが、彼の恋愛に対する消極性というのは、単なる気弱さ、言ってみれば女々しさに起因していた。
そのため、どうにかして彼のそのような性格を矯正して、Sに対して積極的に向かっていけるようにしようというのが、私をはじめとした周り者たちの共通認識であった。
そもそも、Aは部活においては非常に男らしく、頼りがいのある人物であった。それゆえに、私たちはそのような性格を恋愛についても発揮できるはずだと、思い込んでいた。加えて、Aは部活のみならず私たちにとって精神的な支柱でもあり、Aの恋愛が成功すれば次は自分も、という風に考えている者も少なくなかったのである。
そう言う事情もあって、私たちは積極的にAの恋愛に関わっていた。
そう言う中にあって、バレンタインデーが近づき、私とIが思いついたAをやる気にさせる作戦こそが、チョコレート大作戦だったのである。
「あいつ超奥手じゃん? だからさ、自分に自信が持てればちょっとは積極的になれんじゃねえの」
「なるほどね、つまり、自分も人並みにモテるんだと思えば、気になるあの子にもアピールできるようになるってわけか」
つまり、来る二月十四日において、手紙付きのチョコレートをAの家のポストに投函することによって、Aに恋愛への自信を抱かせることこそがこの作戦の要項だった。
しかし、これだけだとまるで慈善事業の様であるが、口にしない本質的な二人の行動理由はもっと単純なものだった。
「なんかこれ、面白そうじゃね?」
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