第2話

「――――あぁ。はいはい。今から、着けてあげまちゅよ~?」

 くすくす笑って、足用のカフスを巻き付ける。至極不満そうな妹の視線を無視して。僕が付けた痣は、もう見えない。何故か酷く寂しくて、其れと同時に、安堵した。

「……で、どうしますの?」

 手枷の鎖をジャラジャラ鳴らしながら、妹が問いを投げ掛けてきた。相変わらず不機嫌そうな顔を隠そうともしない。

「どうすると思う?」

 意外と正直者なのかも知れないな、と思いつつ、質問を質問で返す。

「――――あら。何も考えていませんでしたの? 芸が有りませんのねぇ? お兄様ァ?」

 はっ、と鼻笑いを漏らして、彼女は侮蔑の視線を此方へ向ける。誰だよコイツが正直者とか言ったの。どう見てもひねくれた顔してるだろ。どうやら完全に拘束された事によって、逆に吹っ切れてしまったらしい。変わり身早っ。誰に似たんだ。僕か。

「……ちゃあんと考えているとも」

 まぁ何にせよ僕がやる事は変わらない。取り敢えず彼女をイカせまくって『もうお兄様のじゃないと駄目なの』状態にするだけだ。

「足を上げてよ、妹ちゃん? 僕にやらしー所がよぉく見える様にさぁ?」

 へらりと笑って、膝を撫でる。たった其れだけで、ひくりと爪先が反応したのを僕は見逃さなかった。……やっぱり、あの態度は只の虚勢だ。今の彼女は僕の助けがなければ、トイレすら困難なのだから。

「――――――――嫌ですわ」

 其の癖、此の拒絶だ。彼女の目は、目だけは強く、此方を見据えている。怯えている弱い身体を誤魔化す為に。自然と口角はつり上がり、腰から背骨に掛けて、ぞわりと熱い震えが走った。妹は僕の加虐心を引き出すのが、抜群に上手い。嫌がらなければ、いいのに。振りでも、僕に望んで抱かれたいんです。という素振りを見せれば、其れで僕はお前に興味を失うだろうに。馬鹿な奴だ。だが嫌いじゃない。

「――――ふぅん。いいのかなぁ。そんな事言って」

 ガウンから男性器を取り出す。妹が喉を鳴らす音が聞こえてきた。其の反応は期待ではなく、恐怖だ。

「――――――――此れが入るんだよ? 準備しないと、絶対に痛いよ?」

 言いながら、座ったままの彼女の太股に男性器を押し付け、擦り付ける。逃げようと身を捩ろうが何をしようが、既に四肢は拘束をされているから、大した抵抗にもならない。

「ぅわ……本当に太い……何これ……」

 完全にひきつった顔で、そんな事を呟く。誉められているんだか貶されているんだか、良く解らない。まぁ誉め言葉として受け取っておこう。そんな事を考えながらも、僕の男性器は妹の太股を擦り続けていた。予想以上にきめ細かい作りで、意外と気持ちがいい。とろとろと零れ出した先走りの汁が内股すらも汚していく。にちゃにちゃと粘液が糸を引いて、僕の物が太股に擦られていく度に「ぐぅう……」とか「うぁあ……」とか、心底気持ち悪くて仕方有りませんといった妹の呻き声が重なる。いいぞもっと嫌がれ。たまに悪戯心で太股に添って足の間を擦り上げてやると、甘ったるい蕩けた声が洩れて、くん、と反り返った背中に引っ張られる様に胸が揺れ、先端が上を向く。其れは既に固く尖っていた。

「……いやらしい反応だね。誰に仕込まれたんだい?」

 片手で頭を抱え込んで、耳を軽く噛みながら聞いてやる。耳朶に舌が当たる度に、ひくりと頭が震えて、さらさらと流れる黒髪の手触りが心地良い。

「…ん…っ、そんなの、覚えて、ませんわ」

 ……否定の言葉では無かった。何時の事だったんだろうか。5歳も年が離れていれば、子供にとって其れはもう別の生き物だ。異性なら、尚更。だから僕は妹と余り関わった事が無い。だというのに、現在こういう事になっているのだから、解らないものだ。

「覚えてないの? そんな前から男を加え込んでたのかぁ……淫乱だなぁ」

 ぎり、と存在を主張している突起を捩ってやった。目の前で谷間や揺れを強調しているのが悪い。

「ひん…っ……!」

 下半身に擦り付けていた傘の先がぐちゃりと湿ったあそこに当たった。……イケないだけで、不感症という訳では無さそうだ。と、いうより寧ろ常人に比べて感度が高い方だろう。まぁ首を噛んだ時点でエロい顔してたしな。そんな事を考えながら、あそこに性器をぐりぐり押し付けてやる。

「…っ…あ、…むり…やだぁ…っ…!」

 ――――そう、口で言いながら、女は自分から腰を押し付けていた。何だ。もうスイッチが入ったのか。余り先に気持ち良くなられても詰まらないので、さっき噛んだ首の部分と同じ所を強く噛んでやった。

「――――――――っひッ!? ぁあぁぁっ!?」

「――――――――は!!?」

 ……今、身体が跳ねたぞ。と、いうか背中が痙攣してるな此れ。おい。――――おい。お前今までイッた事無いとか嘘だろ。と、いうかまだ指すら入れても居ないし。小さく震えていたかと思うとばふっ、と音を立てて、白い身体は仰向けに倒れた。拘束具の鎖が、じゃらりと鳴る。

「……あ…ぅ…はぁ…んぅう……」

 とろとろに惚けた声を出しながら白くて細い喉が上下している。突き出された舌だけが赤い。そこから涎が零れて、頬を伝って首筋を汚して、更に僕が付けたばかりの卑猥な痕から、つぅ……と血が垂れてきていた。…………。僕は妹の背中と膝の下に手を入れて、ころん、と転がしてやった。仰向けだった身体が、俯せになる。「……?」彼女は達した後の余韻が抜けきらないのか、ぼんやりとされるがままだ。「――――其のまま、尻を高く突き出せ」僕の語気が変わった事に怯えてか、妹の背中が僅かにびくりと跳ねた。……口調が荒い事に深い意味は無い。只の雰囲気作りだ。只の。

「……お、にぃさま……?」

 彼女は弱々しい声で僕を呼んだ。どうしていいのか解らない子供の様な顔をして。――――あぁ。そうだ。枷が付いてるんだから、自力じゃ無理か。仕方無い。後ろに回って腰を掴む。

「――――…っんぁ……」

 其のまま持ち上げてやると、媚びるような声が女の口から漏れた。そうか。期待してるのか。――――――――残念だったな。

「――――――――ひゃいッ!?」

 平手で臀部を叩いてやった。パァンと派手な音が鳴る。

「……誰に仕込まれた?」

 誰だって、いいだろ? そう。そうだ。其の筈だ。何を、言っているんだ僕は? 理性は疑問を訴えていたが、身体は其れを完全に無視していた。目に写る妹の姿は、急にスパンキングを始め、低い声を滲ませた兄に困惑している様だ。身体を捻って、どうにか兄の表情を伺おうとしている。真後ろにいる僕の姿が、見える筈も無いのに。

「あ、の……どうしましたの……?変ですわよ……?お兄様……」

 馬鹿だな。お前は。今更ご機嫌を伺おうとしたって、駄目だよ。自然と口が笑みを形作るのが解った。其のまま、腕を振り上げる。

「――――――――い゛ぃっ!?」 形の良い尻に赤い痕がまた1つ。

「……1回2回であんな風に開発される筈無いよなぁ……答えろよ」

 つまり。何年も掛けてあんな風にした相手が居るという事だ。……何が「イッた事が無い」だ。直ぐにばれるような嘘を吐くな。

「い、居ませんわよっ……其れに、私に本命が居たとしても、お兄様には関係有りませんでしょう!?」

 そうだな。そうなんだよな。解っている。何を言ってるんだろうな僕は。

「――――――――じゃあ、止めるか」

 何時か現れる本命の相手に悪いだろう? 思ってもいない言葉を吐いて、僕は妹に笑い掛ける。

「――――ッ……な、んで、そう、なりますの……」

 言いながら、妹の太股は小さく擦り合わされていた。……あぁはいはい。さっきのスパンキングも良かったんですね。もう疼いて仕方無いんですね解ります。だったらもっとねだって貰わないと。……ねぇ?

「いやぁ、だって君、もうイッちゃったみたいだしぃ?」

 言いながら、突き出されたままの臀部を撫でる。ひくりとそこは震えて、ふぁ…っ…と熱っぽい吐息が聞こえてくる。もうこいつの頭の中はアレの事で一杯なんだろう。どうしようも無いな。そんな奴の中に突っ込みたくなってる自分も含めて。……性欲過多な部分すら、似てしまったんだな。僕らは。

「――――アレは……っ…た、偶々、ですわ……」

 ぎゅう、とベッドシーツを握り締める彼女。偶々なんですか。そうですかぁー。そう揶揄したいのをグッと堪える。其の気配に気が付いたのか、彼女は更に言葉を重ねた。

「た、たまたま……オナ禁……1ヶ月目で、其れで……!」

 もっと良い言い訳は思い付かなかったのか。てかオナ禁とか言うな。

「ほぉ……其れで?」

 にやにやと笑いながら、真っ赤になっている女の顔を、上から覗き込む。

「だ……だから、其の……あの……」

 更に強く握り締められていくベッドシーツは、もうしわしわになっている。眉根もひたすら寄せられて、痛そうな位だ。口にはさっきの涎の後が付いたままだし。潤んだ目からは、もう涙が零れそうだ。其の眼球を舐めてやりたい。

「……違い、ます、のよ……?」

 何がだよ。そう突っ込んでやりたかったが、止めた。つまり自分は「イッてない」と言いたい訳か。アホなのかコイツは。いや、アホなんだなコイツは。

「――――――――解った解った。……何して欲しい?」

 白い背中を擦りながら聞いてあげる。するすると滑るような手触りだった。震える肩は緩やかな曲線を描いていて、柔らかそうだ。白い首も、其れに掛かる細く長い黒髪も、今は桜色に染まっている顔も。似ているのに、似てはいない。

「…っい…れっ……」

 そこで彼女は間を置いて。

「お兄様のを…いれ…っ…たいなら、別に、構いません、けれどっ……!?」

 とか言い出した。うわっ。面倒臭っ。この女面倒臭っ! まぁ僕は大人なので、スルーしてあげるけどね。

「うん。……入れたい」

 そう僕が耳元に顔を近付けて低い声で囁いてやると女は目を見開いて『ひゃいんッ!?』と犬の様な声を漏らした。見た目は猫っぽいのにな。後やっぱり耳弱いのか。それはそれは。無意識の期待で小さく揺れている腰に気付いているのか、いないのか、腰を片手で支えてやると、其れだけで彼女は嬉しそうな吐息を漏らした。……本当に、誰に仕込まれたんだか。

「――――っあ……!来…っ…あ、え……?」

 因みに、僕が挿入したのは指である。嘘じゃないよ。だって僕の指だもん。

「……ほぉら、僕の指を入れてあげたよ? 嬉しい?」

 彼女の中は予想以上に熱い。指すら加え込んでいたいと言いたげに、ざらざらした壁で僕の指を締めて、擦り上げて来る。ゆっくり抜いてやると、中の壁がびくびくと震えて粘液をまとわり付かせて来るのが面白い。僕の指は直ぐに彼女の愛液まみれになった。其の愛液と同じくらいぐちゃぐちゃになった声で彼女は喘ぐ。

「――――――――あ、気持ちい、ずぼすぼしてぇ……ん…やぁ、違うの……もっと、太いの……太いのぉ……」

 違うと言いながら、彼女は自分から腰を動かして、指を『ずぼずぼ』していた。僕は何もしていないのに、彼女の中身はどんどん愛液を溢れさせて、僕の指を汚していく。指に強い痙攣の様な収縮を感じた瞬間に、僕は彼女の耳を噛んでやった。

「――――――――ひッ!? ……やっ、やあぁあぁぁぁぁっ!!?」

 予想外の刺激に、上手く反応出来なかったのだろう。中が痛い位ぎちぎちと指を締め上げて来たと思ったら、上半身が急に弓形に仰け反って、其れから支えを失った様に、どちゃりと崩れた。ヒューヒューいう息が聞こえてきたので、死んではいないと思うが。色々大丈夫じゃないなコイツ。僕の突っ込んだら快楽で死ぬんじゃ無いだろうか。……まだ、イッて無いって言ったら泣いて涎垂らして泡吹くまでクンニしてやろう。彼女が目覚めるまで、まだ時間が掛かるだろうし、僕も暫く寝るか。そう思って僕はベッドに横になる。どうやら疲れの余り先に寝入ったらしい妹の顔が目に入った。其の寝顔だけは昔と余り変わっていない。……僕も、そうなのかも知れない。そんな事を考えながら僕は目を閉じた。

 昔の夢を見ていた。――――僕は「いい子」だった。子供は本来なら我が儘を言ったり、失敗をしたりしても、親になら許して貰えるものだ。認めて貰えるものだ。其れを、幼い頃に知る筈だ。でも、僕は優秀だった。親からの期待に、完璧に 応える事が出来た。失敗なんてしなかった。そうすれば誉めて貰えたから、喜んで貰えたから、認めて貰えたから、僕はもっともっと「いい子」になった。誰にでも優しく、明るく振る舞って、運動神経も悪くはなかったから、僕はずっと人気者だった。でも。認めて貰うために頑張っていた事は、何時からか「当たり前」になってしまって。僕を認めてくれる人は居なくなってしまった。皆が誉めてくれたのは僕の「優秀さ」であって「僕」ではなかった。

 ……そんな頃だろうか。僕の妹が両親に誉められている所を見たのは。確か僕は10歳で、妹は5歳だった。嬉しそうにはにかむ妹の笑顔を見て、僕は思った。あぁ。きっとアイツも僕と同じ様になるんだろう、と。其れは当たっていた。妹はどんどん「いい子」になっていった。でも僕は助けてやろうとは思わなかった。一応、理想の兄を演じては居たけど、関わりたくは無かった。僕が感じた孤独を、寂しさを味わえばいいと思ったからだ。アイツだけが救われるなんて癪だった。

 そして、僕が18歳、妹が13歳の頃に、妹が手首を切った。偶々目にしてしまった以上、見捨てるのも気分が悪くて、手当てをしてやった。幸い深い傷ではなかったけれど、僕は物凄く不愉快な気分になった。切った理由が、何となく理解できてしまうからだ。ぐすぐすと泣いて、綺麗な言葉で言い訳をして誤魔化そうとする妹の台詞を遮って、僕は言った。理想の兄の仮面をかなぐり捨てて。

「死ぬなら勝手に死ね。但し俺の目に入らない場所でだ」

 そう言い捨てて、僕は家を出た。高校卒業と同時に大学での寮生活をする事が決まっていたから、其れ以来、妹とは顔を合わせる機会も無いまま、10年以上の時が過ぎて。僕と妹は再会したのだ。そんな兄に対して、妹は

「――――――――お久し振りですわねぇ、お兄様! 会いたかったんですのよ?」

 まるで旧友に会ったかの様に、振る舞って見せたのだった。其れから、何故か妹は僕に会いたがった。一緒に食事をしたがったし、買い物に付き合わされたりもした。……まるでデートの真似事みたいに。多分、此れは幼少期に感じていた孤独を埋めるための代価行為なのだろう。僕が彼女の孤独や寂しさを理解できる事を、彼女は知っている。あの台詞で、普段の僕が『演じていた』事に気が付いたのだろう。僕と彼女は似ている。だから、今こうして妹を抱いているのも、結局は傷の舐め合いで、自分を慰めているのと変わらない。文字通り只の『自慰』だ。妹だって、同じだ。僕を使って自分を慰めているだけだ。

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