平行線上のコイビト
@haiirosan
第1話
「――――もう準備万端ですのねぇ」
ふへっ……と見下すような半笑い付きで、彼女が腰に手を当てて僕を見下す台詞を吐いた。うわぁ何だコイツ。殴りたい。因みに準備万端とは男性のアレがアレしている状態を指しているのだろう。だが。
「うふふふふ。童貞でも無いでしょうに、そんなに私(わたくし)としたかったんですの?飢えてますわねぇ悲しいですわねぇ?」
にやにや。ぁあ成る程、僕はこんな感じで他人に対して何時も笑っていた訳か。他人が会う度に青筋浮かせて文句を言って来る理由が、少し解った気がした。取り敢えず腹殴りたい。いや寧ろ顔か。僕に似た其の顔立ちは、当然整っているのだけれど、喋り方と表情が其れを全てぶち壊していた。
「まぁ。貴方も見た目は悪く有りませんし?地位やら何やらは有るのでしょうけれどぉ……」
「……あのね」
此のまま黙っていると、延々と自分の素晴らしさについて語りだしかねない、女の声を遮って僕は言う。
「――――まだ全然たって無いからね?コレ」
「――――――――は?」
其れまで生意気そうなツリ目を猫みたいな形にして、にやけていた女の顔が、ぽかぁんとした表情になる。何だ。そんな顔も出来るのか。
「……何を言ってますの?」
思いっきり眉を八の字にして、此方を覗き込んでくる彼女。
「言葉通りの意味だよ。と、いうかホテルに入っただけで、服脱いでも無いのに勃つとか無いわー中学生もびっくりだわぁー?」
へらり、と。此方もにやにやと笑う。
「え、あ、え……?ほんと、本当、に?」
急に自信に満ちた声の響きは消え失せて、10代の少女の様な怯えた呟きが口から漏れる。
――――実を言うと、僕はこの子に全く期待しては居なかったのだ。彼女と僕は良く似ている。趣味・嗜好・行動・性格。兎に角被りまくっていた。で、僕も彼女も性行為が大好きで、相性が良さそうなら年齢も立場も気にしない様な性質だったので、当然、彼女のも使い込まれていて、ガバガバユルユルの使い古しだと思っていた。
――――が。どうやら彼女が経験してきた男性に比べ、僕のは規格外らしかった。まぁ自分のが規格外だという事くらいは当然、知っていたけれど、彼女ならスカルファックくらい経験していても、おかしくないと思っていたのだ。怯えて、引き始めた彼女を見て、僕は急に興味が沸いた。意外と、普通で平凡な性行為しかした事無いのかも知れないぞ?いや。まぁ其れは無いにしても、僕サイズのが入った事は無いわけで……。
――――面白い反応が、見られるかも知れない。びくびくしながら距離を取る彼女を見て、其れまで乗り気では無かった僕の息子が本気を出した。
「――――――――ひぃっ!!?」
……まるで巨大なGを見てしまったかの様な引きつった声を上げる彼女。あ。此れは本気で引いてるな。そう思った瞬間に僕は決意した。良し。この女を全力で虐めよう。と。
「え~どうしたのかなぁ~? 何がそんなに怖いのかなぁ~? ほぉら、お兄さんに言ってごら~ん?」
へらへらと口許を緩ませながら僕は言う。彼女はさっきまでの余裕っぷりをかなぐり捨てて、後ずさっていた。
「――――私急用を思い出しましたの。本当に心の底から残念無念なのですけれど、帰っても、宜しいですかしら?」
笑顔で言いながら後ろ手でドアノブを探している。どれだけ帰りたいんだよ。
「ふーん。バックも持たずに?帰るの大変じゃないかなぁ?」
いやぁ。こんな事も有ろうかと、バックを手元に引き寄せておいて良かった。
「――――――――!?」
今更、手ぶら状態に気付いた彼女は、奥歯を噛み締める様な表情で僕を睨んでいた。いいね! 素晴らしいね! ゾクゾクするね! 色んな意味で!
「ふふふふー視線で人は殺せないんだよー? 残念だったねー?」
そう追い討ちを掛けると、彼女はドアノブを強く握り締めながら、片方だけ口許を歪めて笑った。
「――――私が警察に駆け込んだら、困るのは貴方ですわよ?」
ほう。そう来たか。面白い。
「僕ってスッゴい精液の量多いんだよね」
「は?」
「――――君のお気に入りのバックの中身が妊娠しちゃうレベルで」
「~~~~ッ!!」
赤くなったり青くなったり。忙しい子だ。其れから暫く下を向いて彼女は呻いていたけれど、やがて大きく溜め息を吐いた。
「――――――――1回だけですわよ」
「君が望むなら10回でもいいけど?」
そう言ってにやにや笑ってやると、彼女は俯いていた顔を上げて。
「其のまま枯れ果てて、死んでくださるのなら構いませんわ?」
そうにっこり微笑んで言ってきた。やっぱり、彼女と僕は似ている様だ。さて。
「…………」
「……何ですの?」
彼女がシャワーを浴び終えて、黒のベビードール姿で現れた。 すかさず僕は親指を立てた。
「――――――――君は解ってる!!」
「――――――――何ですの!?」
基本は清純な下着派なんだけど、こういう時はベタなコスチュームの方がグッと来るよね。
「さぁ、早速僕の胸に飛び込んでおいで!」
両手を広げてそう言うと、当然の様に彼女は僕の言葉を無視してベッドにごろりと横になった。うん。そう来ると思ったよ。
――――――――パチン。
だから用意しておいた訳だけど。
「……えぁ?」
あ。ちょっと可愛い。彼女の両腕には、手首用のカフスがはまっていた。肌を傷付けない思いやり(フェイクファー)入り。僕ってば超優しい。
「……お兄様?」
珍しく戸惑った声をあげる僕の妹。
「何だい?妹ちゃん」
そんな反応が嬉しくて仕方の無い僕。
「……本気でしたの?」
「僕は何時だって大真面目ですわよ?」
まぁ嘘だけど。
「さぁて、どうしよっかなぁ~」
自分でも声が弾んでいるのが解る。此れでもう、彼女は逃げられない。するりと、女の頬を撫でる。すべすべとした其れは意外と柔らかくて、暖かかった。……僕と違って。彼女は嫌そうに顔を捻っていたけど、逆に無防備な首筋を晒す結果になっていた。両手が使えないんだから、もう少し考えればいいのに。早速、首筋に舌を這わせて下から上へ、筋に沿ってゆっくりと舐め上げる。
「――――…ひぃぅ…!?」
びくびくと首筋が震えて、舌先に振動が伝わる。唾液が垂れて鎖骨に溜まりながら、胸元を濡らしていく。どうやら首周辺の攻めには慣れていないらしい。元々弱いのかも知れないけど。軽く噛み痕を付けながら僅かな塩辛さと皮膚の感触を味わっていると、ガチャガチャと耳障りな音が響いてきた。カフスの鎖が鳴らす音だ。あぁ、そうだよね。君、今抵抗できない状態だもんね。僕に足押さえ込まれてるし。舐められるのはともかく、噛まれるのは怖いよね。じゃあ
「――――ぐぅッ!?」
もっと強く噛もうかな。前歯と犬歯が、柔らかい肉に埋まっていく感触が心地いい。顎に力を入れて更に奥歯を押し込む。ひぃ、と小さな悲鳴が漏れ聞こえて、口内を軽くくすぐった。僅かな鉄の味を舌の上に感じながら、首に食い込ませた歯を離す。どろりと赤混じりの唾液が糸を引いた。
「――――っ…な、あ……?」
僕が何故いきなり噛み付いたのか、全く解りませんと言った声を出す彼女。其の表情は少し前とは打って変わって、何処か怯えている様で。痛みの為か、目には涙まで浮かんでいる。上下する肩に合わせて、発達しきった胸が震えていた。――――この女を自分から欲しがらせてやるには、どうすればいいだろう?ふと、そんな思考が頭を過った。僕が黙りこくっている事に不安を覚えたのか、すぅ、と息を吸い込んで
「――――っ、何ですの何なんですのさっきから痛いですわねぇえ!?」
……喚き出した。空気を読めよ。
「えー痛いって言っても、ちょっとしか血出てないじゃん?」
言いながら傷口を爪で抉ってやる。喘ぎ声に似た悲鳴が漏れるのが面白い。もっと深く歯を突き立ててやれば良かった。
「てか、君ってマゾじゃないの? 妹ちゃん」
そう、からかうと。
「……はぁ?知りませんわよ。そんなの」
呆れた様な声で答えが返ってきた。……うん? 知らない?
「え。何。大多数の予想に反して君って新品? 処女?」
「何でそうなりますの」
至極クールに答えを返された。あぁ。つまりは。
「……君、其の感じだと、イッた事が無いね?」
ぐっ、と詰まるような声を上げて、彼女は固まる。図星か。解りやすい。かと思うと此方を馬鹿にするような笑みを見せて。
「……嫌になりましたでしょう?お兄様? さぁ早く此の拘束を」
「え。やだ」
誰が外すか。そんな思いを込めて此方も笑ってやる。
「君が不感症なんかじゃ無いって事を、この優しい優しいお兄様が証明してあげましょう? (訳・最低でも5回はイカせてやるから感謝しろよ此のビッチが)」
そう言ってやると彼女も満面の笑みを浮かべて
「まぁまぁまぁまぁ!何て素晴らしいお兄様でしょう! 私は世界一幸せな妹ですわぁ! (訳・そんなデカいだけの棒っ切れで簡単にイカせられると思ってる辺りが童貞臭いんだよ、此のヤリチンが)」
こう、返してきた。……全く持って、良く、似ている。面白くなる位に。
「――――うんうん。じゃあそんな素直でいい子な妹ちゃんに、プレゼントを上げようっ」
にやぁ、と口角が吊り上がる。その場のノリで、ふざけた売り言葉にふざけた買い言葉で応じてしまう「癖」も、君は同じなんだね? ベッドの上から降りて、用意してあった足首用の拘束具を取り出す。此れも足首を傷付けない(以下略)僕って(以下略)。
「ほーら。此れを着ければ今日から君も『ぼくのかんがえたさいきょうのにくべんき~!』」
妹ちゃんの前で其れを見せびらかしてあげる。
「……うわぁ……」
普通に嫌がられた。素か。目を閉じて、うんざりした様な声で、彼女は言う。
「……あのですねぇ? お兄様ぁ? 『はいどうぞ☆』と着けさせるとお思い――――」
「折るぞ」
目を合わせた瞬間に、ひゅう、と。女の喉から音が漏れる。目が一杯見開かれて、一瞬だけ泣きそうな顔を見せた後、強く睨まれた。物分かりのいい妹ちゃん、僕大好き。
「じゃあ大人しくしててね?」
笑顔を作って、彼女の足に手を伸ばす。白さは近しいのに、手触りの違う肌。足裏を人差し指でなぞると、小さく窪んだ部分がひくりと震えた。
「……さっさと、着ければ宜しいのに」
据えた目と声で、君は反抗する。波に浚われる直前の砂山みたいな、弱々しい、抵抗。
「こういうのは、時間を掛けるから楽しいんだよ」
僕がね。言外に含めた意味を読み取って、きゅう、と彼女の足指が丸まっていく。腹の底がゆるりと疼いた。其の指を舐めしゃぶってやったら、驚くだろうかと考えて、蹴り上げられたら洒落にならないな、と思い直す。其れでも指は止めなかった。
「踵もすべすべだ」
する、と指の腹を緩やかにカーブした丸みに這わせて動かすと、先程より僅かに強く足が震えて、ん、と息を吐く様な声が女の喉から漏れる。其れでも僕を蹴ったりしないのは、さっきの脅しが効いているからだろうか。少し考えれば僕がそんな事をする訳無いと解りそうな物なのに。やはり、手首が拘束されているという不安感が、彼女から判断力を奪っているのだろう。足枷を着けたら、更に彼女の虚勢はボロボロと崩れ去っていくに違いない。くくっ、と笑いが漏れそうになって慌てて押し止める。其のままゆるく足首を掴むと、逃げるように膝が引かれた。
見上げると、僕を見下ろす彼女と目があった。
まるで親の大事な品を壊してしまったのを見咎められた様な、そんな顔をして、緑色の目が揺れていた。思わず、足首を掴む手に力が篭る。ひ、とか細い声を上げて更に縮こまろうとする膝の動きを、軋む音が鳴りそうな程強く足首を掴んで、抑え込んだ。
いっ、と今度は幾らか大きな声が聞こえたが、無視をして僕は黙ったまま足首を離す。今度こそ彼女は抵抗を止めた。足首にはくっきりと指の跡が付いてしまっている。何処か痛々しい其れが――――此のまま「……お兄様?」泥の様な思考は、不安定な声に掻き消された。先刻まで自分が何を考えていたのか、もう思い出せない。
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