第138話『シャベッタアアアア!』







「マグレで勝ったからっていい気にならないでよね!」

「次こそはリクの本当の力を見せてやるんだから! そしたらリクはSSSランクよ!」


 リクのパーティメンバーのボインたちが捨て台詞を吐いて訓練場から去って行く。しっかり聖剣は回収していく辺りがさすがである。てか、俺のSSSランクは実力だけじゃなく、魔王軍に攻められたウレアの街を守ったりギルド新設に関わった貢献も含めてだから、力を見せたところで関係ないと思うんだけど。


「それでは失礼します」


 気絶したリクを抱えた紺髪の美少女が最後に挨拶をしてきた。

 シャベッタアアアア!

 君も大変だろうけど頑張ってね。




「ジロー! やったわね! 圧勝だったじゃない!」


「ジロー様、さすがの貫禄でした」


「しかし、ヒロオカ殿……これでは同じ勇者と対立しかねないが、よかったのか?」


 エレンが今さらな心配を述べてくる。


 まあ、ああいう周囲を女っていうか、異性ばっかりで固めてるような輩ってどうにも信用できそうにないからなぁ。


 機嫌を損ねないようにしたところで仲良くできたかっていうと少し疑問だ。


「周囲が……女ばっかり……?」


 バルバトスが、デルフィーヌたちと俺を交互に見ながら首を傾げた。

 いやいや!

 俺はそーいうんじゃないし!


 ちゃんとマッチョなジジイ×2とか目つきの悪い内政官とか、男の仲間もいるもん!






 無駄に疲れたな。

 リクのパーティが帰ってから、俺は執務室でハンコを押す作業をしていた。

 しかし、あのヤリチン男……。


 バカンスとか言ってたが、しばらくニコルコに滞在するつもりだろうか?


 領内で面倒を起こさないといいけど。


 ドンッドンッ。

 力強いノックの音がした。



「ヒロオカ卿、ゴルディオンです。今、少し時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「どうぞー」


 軽快な返事で承諾。


 いそいそと入ってきた金髪のマッチョヒゲジジイ。


「実は、ここへ王国の勇者――リク殿が来られたと聞いたのですが……」


「ああ、来たよ。なんか、まあ、いろいろ大変だったわ」


 そういえばゴルディオンはミエルダ王国の勇者パーティにいたんだったな。


 剣や戦いの指導を厳しくやりすぎて、それなりに強くなったリクから鬱陶しがられて用済みだって追放されたんだっけ。


「そ、その……王国の勇者パーティはどんな様子でありましたか?」


 ゴルディオンが遠慮がちに訊いてくる。


 追放されたとはいえ、自国を守る勇者の状況は気になるのだろう。


「どうって、女の子ばっかだったけど」


 俺が答えると、ゴルディオンは「ああ、やはりそうなったか……」と渋い表情になった。

 そうなった……?

 もしかしたら、彼がいたときはパーティの構成が違ったのかもしれない。


「その中には紺色の髪をした騎士もおりましたか?」


「紺色? ああ、いたよ」


「そうですか……。なら、まだ気付かれてはいないのか……」


「…………?」


 コンコン。

 今度は静かで丁寧なノックの音が。


「どうぞー」


 再び軽快に返事。


「領主様、タチアナ・アーヌエヌエという方が面会を希望して訪ねてきましたが。いかがいたしましょう?」


 メイドさんがドアを開けて用件を言った。


「なぬっ! タチアナじゃとおっ!?」


 ゴルディオンが俺よりも先に反応した。

 大声で。

 彼は基本の声がデカいから、少し気持ちが入るとめっちゃ大声になるのだ。


「えーと、ゴルディオンの知り合い……?」


「はい、先程申し上げた紺髪の騎士です。ヒロオカ卿には名乗らなかったのですか?」


「ああ、そういうタイミングなくってさ」


 リクが初っ端からフィーバーしてたからね。


 まともに会話する隙もなかったよ。


「タチアナって人は一人? 他に誰かいる?」


「いえ、その方だけです」


 なら、リクがリベンジしに来たんじゃなさそうだな。


「ヒロオカ卿、タチアナはワシと同じくミエルダ王国が勇者パーティに用意した騎士で、ワシの部下でもあった信頼の置ける者です。こうしてリク殿とは別に単独で会いに来たということは、もしかしたらヒロオカ卿に重要な話があるのやもしれませぬ」


「そうか……そういうことなら。じゃあ、会うって伝えてくれる?」


「畏まりました」


 メイドさんが綺麗なお辞儀をして退室する。

 領主邸の使用人のマナーもだいぶよくなってきた。

 マナー講師を呼んだ甲斐あったな。


 メイド長は未だに田舎のおばちゃん全開な態度で俺に接してくるけど……。






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