第137話『軽く炎上しそうな熱いバトル』
「ヒョロイカ……本当にやるのか……?」
リクとある程度の距離を取って準備していると、訓練場にいないんじゃないかと錯覚するくらい空気だったバルバトスが俺に訊ねてきた。
「正直……勝敗がどうであれあいつをSSSランクする認可は下りないと思う。この手合わせに意味はまったくないぞ……?」
それはリクに言ってやれよ。
まあ、聞いて貰えないので俺に言ってるのだろう。
「俺が勝てばあいつも諦めるしかないだろ。ランクを上げろって二度と言えないようにするにはコレが一番いいと思うけど」
「そうか……なるほど……。面倒をかける……お前の力を見せつけてやれ……」
てっきり止めに入ってくると思ったけど。
バルバトスは俺の勝利を微塵も疑っていないようだ。
万が一、俺が負けたら言質は取ってたとか言われてもっと面倒なことになるのに。
いや、まさか……。
その可能性に気付いてないだけじゃないよな?
さて、俺が使う武器だが。
じゃじゃーん。
空間魔法のスキルで取り出したのは白い無骨な感じの剣。
その名もブラックドラゴンソード――とでも言っておこうか。
ほら、初対面でブラックドラゴンと戦ったときに斬り落とした尻尾あったじゃん?
実はアレ、こっそり回収してたんだよねぇ。
そんで、その骨や鱗を素材にしてカンカンっと作っちゃったのよ。
鍛冶屋のオヤジから指導を受けつつ、全マシの鍛冶スキルLV5で錬成した一級品の剣。
勇者を相手取るなら、素材共々、これくらいの武器は必要だろう。
「じゃあ行くぞ!」
「うぃーす、いつでもカモーンっすよ!」
審判をバルバトスに任せ、俺とリクは一気に間合いを詰めて激しく剣をぶつけた。
「へえ、その剣……なかなか頑丈じゃないっすか?」
「そうかい?」
「ええ、オレの聖剣と打ち合って壊れないって大したもんっすよ」
「そりゃどうも」
この言い方、剣の強度でゴリ押しして勝つつもりがあったってことか。
侮られてるな。
「ジロー!」
「ヒロオカ殿!」
「ジロー様!」
デルフィーヌたちの声援が飛んでくる。
「リク! いつもみたいサクッとやっちゃえ!」
「かっこいいとこ見せてー!」
「…………」
リクもパーティメンバーからエールを送られていた。
紺髪の美少女は無言だけど。
あの子、パーティで浮いてる感じなのかな……?
俺とリクは剣をぶつけ合って勝負を続けていた。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン! と。
そんなふうに戦っていた。
軽く炎上しそうな熱いバトルであった。
いや、嘘だわ。
それほどじゃないわ。
「ふーん、オレの剣技にここまでついてこれるのか……。イージーモードとはいえ、魔王を倒しただけあるみたいっすね?」
「ま、俺も勇者だから多少はね?」
なんて、平然と話しているけど。
剣を交えてみてわかったことが一つある。
それは、剣術に関してはリクのほうが僅かだが確実に上だということ。
ステータスを盗み見る。
【名前:ノムラ・リク】
【固有スキル:勇者の剣才(剣術スキルの効力・成長率アップ)】
【ステータス:剣術LV3 言語理解LV3 料理LV2】
リクの剣術スキルはLV3……。
俺よりもレベルが低い。
なのに、剣の腕はリクが勝っている
これはつまり、リクのステータスにある『勇者の剣才』という神様から貰ったチートでそうなっているのだろう。
剣術スキルの効力と成長速度が上がるらしいし。
どれくらいの倍率で上乗せされるのかは不明だが、少なくともLV3がLV5を上回る程度に効果があるのは間違いない。
「まさか、ヒロオカ殿が押されている……!? ありえん……ッ!」
「その辺のやつがリクに勝てるわけないのは当然でしょ?」
「ジローはその辺のやつじゃないわよ! だって、勇者なんだから!」
「はいはい、国から認めて貰えなかった勇者ね。ま、その割には頑張ってると思うわよ?」
「それでも最強はジロー様です……」
ギャラリーの声を耳にしながら。
さて……。
ベルナデットから『と、思ったけどやっぱちげーわ』なんて言われないように。
そろそろ本気出すかね?
まあ、剣術ではリクに分があることは認めるが。
俺にはやつが持っていないスキルが腐るほどあるのだ。
「にーさん、悪いけど、これで仕舞いだよ!」
「よいしょっと」
「うわっ」
リクは俺がスッと置いた足に引っかかって無様にすっころんだ。
ああ、顔面からいっちゃってるよ……。
すげえ痛そうだ。
「ぐ、いてて……なんだ今の動き!?」
リクが鼻を押さえながらフラフラ立ち上がる。
体術LV5です。
回避LV5も組み合わせてるかな。
「ははっ、変な名前の力だけでオレに一発入れるなんて大したもんだよあんた……」
なんか感心された。
てか、そもそもコイツ『全マシ』がどんな力か知らないで下に見てるんだよなぁ。
聞いてもこないし。
「おりゃあああ!」
「…………」
サクッと躱す。
「くそっ! なんでだ! 見切られてるのか!?」
ひょいひょいっとリクの剣を避け続ける俺。
転移で背後を取ってみたりもする。
そして――
剣をブンブンと無駄に振り回しまくったリクはやがて肩で息をするようになった。
まあ、馬鹿正直に正面から剣で勝負しなければ全然大したことないな。
「はあはあ……! オレはSランクの冒険者なんだぞ!」
俺はSSSだぞ!
さっきなったばかりだけど。
疲労が重なったリクの剣は明らかに弱体化していた。
こういうのが、太刀筋が寝ぼけているよって感じなんですかね?
これなら地力に差があっても余裕だな。
俺はリクの聖剣をブラックドラゴンソードで弾き飛ばした。
「うおおおおお!」
剣を失ったリクは諦めるかと思いきや、素手で殴りかかってきた。
いや、お前、剣以外は一般人やろがい。
謎の根性見せてきたのビビるわ。
「大体、お前の力がどんなもんかはわかったよ」
俺は水で砲弾を作ってぶっ放した。
水の砲弾が腹にぶち当たったリクは『くの字』になりながらクルクルと吹っ飛んでいく。
ムーンサルトォォオォオ――ッ!
ドサリ。
リクは地面に大の字になって落下した。
「おーい、大丈夫か?」
「く、くそっ……魔法まで使うなんてずりーぞ……」
ピクピクしながら負け惜しみを残し、リクは意識を失った。
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