第139話『タチアナ・アーヌエヌエ』
俺は紺髪の美少女がいる応接間に向かった。
知り合いってことで、ゴルディオンにも一応同行して貰っている。
「先程は大変失礼致しました。にも関わらず、こうして再び面会の機会を頂けて大変恐縮でございます」
俺が入室すると、タチアナ嬢は真っ先にリクの行動を詫び、深く頭を下げてきた。
彼女のサラリとした髪が揺れる。
これくらいの長さっての髪って、ボブっていうのかなぁ。
「遅ればせながら、私はタチアナ・アーヌエヌエと申します。元は王国騎士団に在籍しており、現在は勇者パーティの一員として行動しています」
「ああ、ゴルディオンから聞いてるよ」
タチアナの頭頂部を眺めながら俺は顔を上げるように言う。
「ゴルディオン卿……?」
タチアナ嬢は疑問符を浮かべた様子でゆっくりと面を上げた。
そして、俺の背後に控えるゴルディオンの姿を確認すると――
「ゴ、ゴルディオン卿!? なぜあなたがこんなところに!?」
どうやら、ゴルディオンが俺の後ろにいたことにここで初めて気がついたらしい。
こんな存在感あるジジイに気付かなかったとか……。
彼女は割とテンパってたのかな?
「いろいろとあってな。紆余曲折の末、ニコルコで騎士団長を務めさせて頂いておる」
「そ、そうだったのですか……」
いろいろってなんだよ! って聞いてもええんやで?
酔って宿屋で迷惑かけてたところをスカウトしたなんて言えるわけないけど。
「それでタチアナよ、久々に会ってなんじゃが、リク殿はどうじゃ? パーティは上手く回っておるか? ヒロオカ卿の話では女子ばかりになっていたと聞くが……」
「はい、私を除く、王国が用意したパーティメンバーはリク様によって全員追い出されてしまいました」
「むぅ、彼らは必ずやリク殿の支えとなれる勇猛な漢たちだったのだが――」
タチアナからの報告を聞き、ゴルディオンはがっくりと肩を落とした。
ああ、やっぱり最初のパーティは面子が違ったんだ……。
「代わりに入った者たちはどうじゃ? 魔王軍との戦いについてこれそうか?」
「はい、素行はともかく、あの女たちはそれなりに技量があって優秀です。だからこそ、リク様も容赦なく皆をクビにできたのです」
あのボインさんたち、ちゃんと能力あったんだ。
一応、外見だけの採用じゃなかったのね。
「そうか……ところで、ヌシがまだパーティにいるということは、リク殿はヌシの正体に気付いておらぬのだな……?」
「はい、何度か危うい場面はありましたがどうにか誤魔化しております」
正体?
気付いていない?
誤魔化す……?
「ゴルディオン卿、ヒョロイカ様には話しても?」
俺の訝しむ心情が顔に出ていたのだろう。
タチアナは不信感を拭うためか、速やかに応対してきた。
「うむ、よいじゃろう」
「…………?」
「ヒョロイカ様、私を見てどう思いますか?」
「どうって? まあ、美少女かなって思うけど……」
「ありがとうございます。ですが、私の性別は男なのです」
は?
お……?
おと……?
「男です」
「男!? じゃあ、ついてるの!?」
「ついています」
いや……? 本当に男なの? 声や仕草が完全に女の子じゃん……。
どっからどう見ても美少女だよ?
睫毛の長さとか、肩とか腰の華奢な感じとか……。
俺の困惑を置き去りにしてゴルディオンは話を進める。
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