第129話『いや、気にするのそっちかい!』
◇◇◇◇◇
「あれでよろしかったのですか? 見せしめに処刑するのも手だったかと……」
清掃風景の視察を終えた帰り道。
ジャードは彼らの処遇にあまり満足いってなさそう。
「ちょうど猫トイレを清掃する人員が欲しかったところだったからさ。犯罪奴隷なら食事代くらいでコストが抑えられるし、まあ、適役かなって」
「しかし、甘い対応をしていてはいずれ足下を掬われるかもしれませんよ?」
ジャードの言うことも一理ある。
でも、処刑するより奴隷にして扱き使ったほうが得じゃん?
あと、なんとなくそうしたほうがいい気がしたってのもある。
この時々感じる直感めいたもの……。
ひょっとしたら危機察知のスキルが働いてるんじゃないかって思うんだよね。
だったらそれに従っておくのが吉だろう。
「ですが、公国が今後さらに過激な手段に出てくるのであれば我々も武力を以て報復するということを検討していくべきかと」
うーん、そうだよなぁ……。
やられっぱなしにしとくのは俺だってモヤっとするけど。
「正直、今のニコルコの総力なら王都を落とすことも可能だと思いますが?」
ジャードは以前とは比べものにならないほどに栄えた町並みを見渡しながら言った。
「ここまで体制が整ってきたのであれば公国相手に仕掛けても勝算は十分……いえ、魔王を倒したヒョロイカ卿がいれば敗北はまず考えられないとゴルディオンたちも見立てています」
こいつ、そんな話をマッチョジジイどもとしていたのか。
ジャードの役職は内政官だが、それ以上に俺のブレーンとしての役目を任せている。
ニコルコの危機管理に関していろんな対応を考えるのも彼の仕事ではあるが……。
「俺がいれば……だからなぁ。きっと周りからもそう思われるはずだ」
「それが何か問題でも?」
「俺がいなくなったら、その後どうするつもりだ?」
現状で攻め入ってハルンケア8世を討っても公国に困惑と恐怖を生むだけだろう。
ヤツが魔王と繋がっていた証明はできないわけだし。
まあ、中世っぽい世界観だから下克上って感じでなんやかんや収まりはするかもだが……。
俺の力ありきで黙らせる形では俺が去った後に必ず反動がやってくる。
その反動はこの世界に残る、俺と関わった者たちに向けられるはずだ。
俺はデルフィーヌたちがそういう目に合うのを避けたくて爵位と領地を得たのである。
ここで挙兵したらなんで領地をせっせと発展させてきたのかわからなくなる。
ニコルコを無駄に巻き込んだだけになってしまう。
公国で地位を築き、信頼を集めて賛同者を増やし、こちらに大義のある情勢を生み出してからハルンケア8世を断罪するという方針はブレさせるわけにいかない。
大体、俺は魔王城を単独で落としているのだ。
力尽くで済むなら最初から一人でやっている。
というようなことをジャードに説明すると――
「ヒョロイカ卿はニコルコからいなくなるつもりなのですか……?」
いや、気にするのそっちかい!
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