第128話『上級国民でスマンな?』








 第十騎士団のやつらが来てから一週間くらいが経った。



「オレたちは陛下の指示で来たんだぞぉ?」

「さっさと解放したほうが身のためだぜ」

「オレらを罪人にするってのは陛下に盾突くってことだからなァ!」



 俺が久々に牢屋を訪れると、第十騎士団の連中は舐め腐った態度で応じてきた。


 ハルンケア8世の指示だということが免罪符になると思っているせいか、こいつらはまったく反省の色を見せてこない。


 まあ、クズの態度にいちいち目くじらを立ててもしょうがないよな。


 俺はサックリと要件を済ませることにした。



「今日はお前らにお知らせがあって来た」



 俺の言葉に反応して、シンとなる牢屋。



「お前らの証言が事実かどうか、王城に問い合わせて返事が来たんだが――」



「おっ! やっとか!」

「これでシャバに出られるぜ!」

「牢屋生活ともオサラバだ!」



 俺が言い切る前に第十騎士団の面々は嬉々しながら盛り上がりだした。



「返事の内容は聞かなくていいのか?」



「は?」「あん?」「ふぇ?」



 ぽかんとする騎士ども。こいつら、解放される一択だと思ってるみたいだな……。



「王城からの返答はこうだ。第十騎士団にニコルコへ行くような指示を出した覚えはない、そもそもニコルコで拘束される前に全員騎士団を辞職済みだから公国とは無関係、領主である俺の権限で処罰してくれて構わないってよ」



「な、なんだってぇ……!」

「おい、嘘だろ!?」

「辞めてなんかねえって!」



 さっきまでの喜色に満ちた様子から一転。

 大慌てする不良騎士ども。

 常識的に考えたら略奪してこいなんて命令を認めるわけねえだろ……。


 こいつら、自分たちが捨て駒として切られる可能性を想像してなかったのか?



「ま、待て! なら、僕のほうはどうだ! 僕はフルティエット家の次男だ! フルティエット伯爵家に連絡は取ったのか!?」



 フランク・フルティエット君(やっと覚えることができた)が焦りの声を上げる。

 こいつ、捕まってからずっと実家に連絡しろ、貴族らしい待遇に改善しろってうるさかったんだよなぁ……。



「そっちにもちゃんと聞いてやったさ。で、同様に返事がきた……」


「そ、そうか! なら僕は出ていいのだろう?」



 フランク君は『お前らと違って上級国民でスマンな?』とでもいうような得意げな顔を引っさげて他の団員たちを押しのけながら牢屋の出口までやってきた。周囲から突き刺さる憎々しげな視線すら優越感に変換してそう。


 だが――


「おい、何をモタモタしている? 早くここを開けさせないか!」


 何のリアクションも起こさない俺に苛立った声をぶつけてくるフランク君。


「開ける? なぜ?」


「なぜって……フルティエット家と連絡が取れたのだろう!? だったら、父上から僕を解放するよう頼まれているはずだ!」


 どうして確信を持ってそこまで言えるのか謎であるが……。

 とりあえず、


「そんな頼み事はされてないぞ?」


「はあっ!? バカを言うな!」


「バカも何も言われてねえんだもん」


「じゃあ、どんな返事が来たというのだ!」


「フルティエット伯爵家は『フランクはとっくに縁を切って勘当してある、もはや当家とは関わりのない人間です』って言ってきたけど?」


「…………」


 正直に答えてあげると、フランク君は真っ白になって固まった。

 プッ……クスクス……と、第十騎士団の連中が声を顰めて笑い出す。

 いや、お前ら人を笑える立場じゃないから。


「嘘だ……この僕が勘当……? 勇者パーティにも選ばれたこの僕が……ッ!?」


 フランク君はその場に崩れ落ちてへたり込んだ。

 そして、


「お、おい?」


「あ、あああ……ああっ…………あああああっ……」


 チョポポポポッ……。


 目を虚ろにしながら放心し、彼は牢屋の石畳に水溜まりを作り始めた。


「…………」


 俺の記憶違いかもしれないけど、こいつ会うたびに何かしら漏らしてない?






 その後――



 フランク君を含む第十騎士団の連中は犯罪奴隷になった。

 俺は彼らに絶対に手を抜けない責任重大な労働をさせることにした。





 ザックザック。


 砂を掘り起こす音。


 ポイッポイッ。


 猫のウンコをスコップで拾い上げる音。



 俺が彼らに命じた仕事はニコルコの町の各所に点在する猫トイレの清掃係であった。



「くっ、なぜ高貴な生まれの僕が畜生の糞を片付けなくてはならない。こんな屈辱を――」



 このハゲー! 違うだろぉ!?

 猫様に向かって! お前の糞を片付けるのは屈辱だと! そう言うのか! お前は!

 もっと光栄に思え! 清掃させて頂きありがとうございますだろぉ!?



「はい! ありがとうございます! 清掃させて頂き光栄です!」



 必死に謝ってくるフランク君。

 わかればいいのだ。






 こうして……。


 第十騎士団の面々は剣をスコップに持ち替え、青空の下、町を駆けずり回って猫トイレの清掃をする日々を日常にしていくのだった。


 めでたしめでたし。






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