第123話『勇者パーティ候補に選ばれていた青年』






◇◇◇◇◇




-王都の酒場-



「おい、貴様ァ! 僕を舐めているのかァ!?」


 カウンター席で呑んだくれ、呂律の回らない口調で店の樽を恫喝する男がいた。

 金髪を整髪料でカチカチに固めた鼻の大きな青年。

 かつては勇者パーティ候補に選ばれていたフランク・フルティエットだった。



「畜生……僕は……僕はこんなはずじゃなかったんだぁ……認めないぞぉ……」



 フランクはカウンターに突っ伏しながら管を巻く。


 彼が酒に酔うと思い出すのは、いつも四ヶ月ほど前の出来事だった。





 勇者抜きで魔王を倒そうと飛び出したデルフィーヌを諫めるために訪れたウレアの街。


 フランクはそこで勇者を自称する男、ヒョロイカにとんでもない辱めを受けた。


 詳細を省いて簡潔にいうと、魔王の死体をいきなり見せられてほんのちょっぴり動揺させられてしまったのである。


 受けた屈辱を晴らすため、フランクはヒョロイカを勇者と名乗る不届き者として報告すべく王都に駆け戻った。


 ところが王都に着くと、なぜかウレアに残って魔王軍と戦っていたはずのヒョロイカのほうが先に到着していた。


 しかも、ヒョロイカはすでにハルンケア8世との謁見を済ませていて、魔王軍を崩壊させた英雄と認められ領地と爵位を下賜されることが決定していた。


 自分をコケにした輩が英雄と呼ばれて成り上がろうとしている――


 そんな状況をのうのうと見過ごすわけにはいかない!


 フランクは鼻息荒くして王城へ抗議に行った。


 だが、フランクがいくら『やつは勇者を名乗る不届き者なんだ!』と訴えても、ハルンケア8世はおろか宰相にも会う許可は下りず相手にしてもらえなかった。


 幾度となく押しかけても下級役人止まりの対応で適当にあしらわれ、とうとうヒョロイカが英雄だという決定を覆すことは叶わなかったのである。



「ありえない……あの時、陛下はなぜ僕の言葉を聞き入れてくれなかったんだ……!」



 酒を追加で注文しながらフランクは呻く。




 魔王軍が崩壊し、フランクは勇者パーティの英雄になり損ねた。

 しかし、だからといっていつまでも何もせずフラフラしているわけにもいかなかった。

 彼は仕方なく、かねてより誘われていた公国の騎士団に入った。


 だが、フランクは自分が本来ここにいるはずの人間ではなかったという意識が強くあった。


 そのため、


『僕はただの騎士ではなく英雄になる男だったんだぞ! なぜ、普通の騎士がやるような任務をしなくてはならない! 僕につまらない仕事をさせようとするな! お前たちとは人としてのランクが違うんだ!』


 現状を認めることができなかった彼はまともに仕事を果たそうとしなかった。


 高圧的な態度を取って周囲とトラブルを起こし続け、最初に配属されたエリート部隊の第一騎士団からはあっという間に左遷された。


 転属となった第三騎士団でもフランクは不真面目な姿勢を改めなかった。


 そして、ついには怠慢な振る舞いを注意してきた上司に腹を立てて叩きのめし、懲戒処分となってしまった。

 多方面にコネのある父親の取りなしで騎士団からの追放こそ免れたものの……。

 最終的にフランクは問題児の集まる掃き溜め部隊に回されたのだった。



「くそぅ……本当の僕はあんなやつらと同じところにいる人間じゃないんだ……!」



 フランクは仮にも才能が認められて勇者パーティ候補に選ばれた、いわゆるエリート街道を歩み続けてきた男である。


 厄介者を隔離するための部隊に入れられ、詰め所で酒と女とギャンブルの話ばかりしている輩どもと同類に見なされたことは彼にとって耐え難い現実だった。


「くそっくそっ」


 どうしてこうなった……。

 ヒョロイカが、

 デルフィーヌが、


 あいつらが悪いんだ……!


 フランクは酒の飲み終わったコップをカウンターに叩きつけるように置く。


 彼の晩酌は毎度責任転嫁した結論を出して終わるのがお約束だった。






 フランクが酔いを覚ましながら歩いて隊舎に帰ると、フランクの所属する部隊――第十騎士団の面々が武装した状態で集合していた。



「おい、こんな夜に何を騒いでいるんだ?」


「フルティエット、間に合ったか! オレたちに特別任務らしいぜ! なんでもニコルコってところでひと暴れして来て欲しいんだってよ!」


「はあ……? ニコルコ……?」






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