第124話『第十騎士団』






◇◇◇◇◇




 真夜中。

 ニコルコに隣接する魔境の森。

 その一角に描かれた魔法陣が光を放っていた。


「ほう、すげえや、一瞬で森の中に来ちまった」


「転移の魔法陣なんて本当にあったんだな」


「なんか王宮の魔道士が準備したらしいぜ?」


「帰りも別の場所にある魔法陣ですぐ戻れるんだろ? すげー便利だな」


 魔法陣から現れたのは剣と鎧と盾で完全武装した一団。

 フランク・フルティエットが所属するハルン公国の第十騎士団であった。


「魔境は魔王城の森よりも危険な魔物がひしめいているらしいが平気なのか?」


 フランクが周囲を警戒しながら言った。


「ああ、お前は説明された後に来たんだったな。全員に護符が支給されただろ? こいつがあれば魔物は寄ってこないんだってよ」


 騎士の一人がよくわからない文字の記された札を指で示す。


「は? そんな便利なものがあるなら魔境も簡単に開拓できたはずだが……」


 フランクは曲がりなりにも伯爵家で教育を受けてきた人間だ。


 他の騎士たちとは異なり、歴史的観点から鑑みて違和感を抱いた。


「魔物の姿は全然見えないし、効果はあるんだから気にしたってしょうがねえよ」


「最近開発されたんだろ? それでいいじゃん?」


「量産できないとか、材料が貴重とかなんじゃね? 知らねーけどさ?」



「…………」



(これだから学のないバカどもはッ!)



 深く考えようとしない同僚たちにフランクは閉口した。





 フランクら第十騎士団に下された命令は、ニコルコの領主軍を名乗ってニコルコ領内の村を巡り略奪行為を行なってくるようにというものだった。


 魔法陣で魔境の森に転移したのは、ニコルコ方面から出発することで領主軍であることの信憑性を高めるため。


 最終的には第十騎士団の狼藉をすべてヒョロイカに擦り付け、ヒョロイカが領主として相応しくない悪政を敷いていると審問にかけるのが目的であった。


「上からの命令で好き放題できるのはありがてえことだぜ」


「芋臭い村娘を染めてやるのが今から楽しみでなんねえよ!」


「ギャンブルで有り金すっちまったからな、小遣い稼がせてもらうとすっか!」


 日頃から上層部の目を盗んで横領や横流し、恐喝紛いの行為を行なっている彼らからすればこれは堂々と暴れられる最高の任務だった。


 なお、最終目的は彼らに説明されていない。

 彼らはただ略奪を命じられただけだと思っている。

 それでも嬉々として引き受けるのが第十騎士団の面々なのだった。



 ほくそ笑む騎士たちのなか、フランクは神妙な表情をしていた。



「この僕が盗賊紛いの蛮行を……そんなことをしてもいいのだろうか?」



 もちろん、フランクが悩んでいるのは罪悪感ゆえではない。

 盗賊と同じことをして自らの品性が貶められないか?

 ただ、その一点を懸念しているだけであった。



「まあ、陛下からの命令だ。大義はこちらにある……それに虐げるのは平民だしな!」



 結局は他の騎士たちと同じ結論に辿り着く。

 自分を惨めな状況に追い込んだヒョロイカに復讐できる!

 ハルンケア8世もヒョロイカが気に入らなかったのだ! ……という喜びが彼の決断を後押ししていた。



(この大任を成し遂げて僕は返り咲く。そして、今度こそデルフィーヌを僕の奴隷にしてやるんだ……!)



 デルフィーヌのことをまだ諦めていないフランクだった。


 彼は粘着質なのである。






「じゃあ行こうぜ!」



「「「「「「ウオオオオゥーッ!!!!!」」」」」」



 第十騎士団の面々が様々な期待を胸に揚々と進みだした、その時である――



『にゃおん』


『うなぁ~お』


『んなぁ~ん』



 動物の鳴き声が木陰から聞こえてきた。





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